作品を製品にするアセットで世界から再び仕事が獲れないか?

GOOGLEによる3,200億円という途方もない金額によるスマート火災報知器とサーモスタットのNEST買収のニュースは、このブログでもたびたび取り上げているが一昨年あたりから盛り上がってきたメーカーズブームに一挙に油を注いだようだ。今では本当にありとあらゆる分野、市場でハードウェアーのスタートアップが増殖中。これはアメリカに限らず、イギリスやアジアにおいても顕著である。確かに3Dプリンターや開発ツールが気軽に利用でき、そこで製作したプロトタイプによってクラウドファンディングで資金集め、という流れはもはや完全に主流になってきているし、加えてこれらのアイデアをさらに昇華させて、製品の量産化から箱詰め出荷までをも含めたトータルなサービスを供給するところまで出始めている。
しかしながらせっかく優れたプロトタイプを作り、クラウドファンディングによって資金を調達しても、それを実際の製品化する際にアッという間に使い果たしてしまい現実には日の目を見ることがないままに終わってしまうという例も昨今はだいぶ出始めているようだ。 製造とは、各人がアイデアによって作り上げたプロトタイプ(作品)をいかに製品にするかという事。言い換えれば趣味で作って10万円かかった作品を、一般に広く売れるように一個1万円の製品に作り上げていくためのプロセスのことだ。ここが実は非常に難しい。ただ単に作ればいいというものではなく、同じものが寸分の狂いもなく出来上がるための行程の管理や、どうやったら歩留まりを向上させて最小限の費用で製品を作るかという製造技術、生産技術、加えて製品がきちんと機能するための品質管理というプロセスも不可欠になってくるわけで、当然、想定外の金もかかるし、しっかりした管理体制も不可欠になってくる。このあたりが果たしてアイデアで資金を集めた彼らハード系のスタートアップがしっかりマネジメントしていくことができるのか?つまりモノづくりの経験のない中で対応が可能かというと、ここが一番難しいポイントであるという事が容易に想像できる。

 家電で世界を席巻していた70~90年代の日系大手の家電メーカーは、ご存じのように、この製造技術の天才集団だった。優れたものを量産するための人事体制の構築、そのプロセスに必要なファクトリーオートメーションの機械を独自に開発し、3Sやカンバン方式といった歩留まり軽減のための教育やシステムの確立。世界中の大手メーカーがその方式を取り入れ、台湾韓国のメーカーはその生産技術と管理体制に追いつくのに必死だった。かつてこのブログでも書いたことがあるが、量産工程を海外に移管し、自らの製造をほとんど辞めてしまった日本勢は、韓国台湾の列強の前に倒れ今は完全に立場を失ってはいるが少なくとも、これらの大量生産時代に優れた製造技術や品質管理、を支えてきたのは彼らと共に頑張ってきた中小町工場だったと思う。そして彼らには、これらの大企業を下支えしてきたものすごい量の「経験という本当に素晴らしいアセットが眠っている」とシリコンバレーでハード系のスタートアップで奮闘しているWHILLの水島君が話していた。彼らはマーケットをアメリカにフォーカスし営業拠点をこちらに設けているが製品の開発は全て日本。その理由は「お願いしたものを、確実に短時間で時間で作り上げる」これら中小町工場の存在があるからだという。
 自分もその通りだと思う。彼らの持つ経験のみならず、「この部分をこう曲げたら強度は倍になる」「このアングルをさらに大きくすればスペースをさらに縮小できる」といった技術的なノウハウ、そして親元(大手企業)からの徹底したコストダウンの要求に対応するための生産技術や品質管理能力など本当に素晴らしいアセットの宝庫だと思う。
 

このアセット、何とか、彼ら新興のハード系スタートアップにうまくコラボレーションできないだろうか?実はしたたかな中国台湾系の企業(特にEMSメーカー)は、このあたりの需要を見越して、こちらに会社を作り、クラウドファンディングで資金を集めているスタートアップにダイレクトに営業を仕掛けているようだ。さすが商売に抜け目のない連中。その速さがまさに今の市場の流れにマッチしている気がする。でも今からでも全く遅くはない。日本の中小町工場も昨今少なからず、組合やグループを作ったり商工会議所で集まったりして、横の連携を強めていると思う。是非その中でうまく作品を製品に仕上げられるチームを作って日本だけではなく世界に営業を展開してみてはどうかと思う。

特に日本として狙うべきところは”試作”の部分だ。単的に言ってしまえば試作とは何度もキャッチアンドトライが必要なプロセスであって、ここに金がかかる。この部分を経験という膨大なアセットでカバーし、最短で最高の製品に仕上げるというのが売りだ。今でも日本の中小町工場では、この”試作”という市場に依存しているところが多いと思う。つまりこの工程においては現役のプロフェッショナルがたくさんいるはずだ。 現状は個々がそれぞれ部品レベルで部材を作っているのが基本だと思うので、これを板金、成形、基板実装、など各分野のプロが集まりコーディネートして一つの製品に仕上げるチームがつくれれれば最高だ。量産は極端な話、コンスーマー商品の宿命上、価格競争に巻き込まれるだけなので、最初から潔くアジアの量産工場に任せればよい(そこが上述の台湾、韓国のメーカーの狙いどころだと思う)。いかに効率よく量産が可能になる製品を試作の段階で完成させられるかは、間違いなく大いにPRできるし、加えて、それが量産化になった時の品質管理を含めたアドバイズまでカバーできれば立派なビジネスになると思う。

実はこのような動きは既に大阪府をはじめ東京の墨田区などで始まっている。できれば全国的なアクションとして、各都道府県別に産業のカテゴリーで特徴を出すなど十分に盛り上がれる可能性もあると考えられる。そして行政も巻き込んでの資金投下が可能になれば、この莫大なアセットで”試作立国”として再び世界の潮流を日本へ取り戻すことも可能なように思えてならない。

今すぐアクションプランを考えてみてはどうだろうか?

 

2014年は考える年だと思う!

遅ればせながら新年あけましておめでとうございます。

昨年後半の話になるが、ゲーム会社大手のSE社のこちらの代表を務める友人と食事をした。その際、彼からスマートPHONEのおかげでゲーム業界の状況は一変してしまったとの話を聞いた。
今ゲーム(アプリ)の購入は、これら端末でのダウンロードが主流。ダウンロードされるGAMEもTOP10の殆どが従業員も10人未満の小さな会社だという。かつて大手ゲームソフト会社は資金力があり、ゲーム機器のハードウェアとタイアップすることで最初からかなりの販売数を確保できたが、いまではその構図も崩れ、おまけに価格もタダ同然のものが増えてきたので、何十億もかけてゲームを開発しても、その回収が容易ではなくなっているとの事だった。勿論日本ではガンホー、DeNAなどゲームで業績を伸ばしている会社も多いのだが、既存の大手にとっては非常に厳しい戦いを強いられているようだ。
また年末に、アドバイザーを務めるJETROのイノベーションプログラムの忘年会があり、同じアドバイザーのKさんから日本の状況についてのお話を伺った。Kさんは、かつて日本の大企業に勤務。その後スピンアウトしてシリコンバレーで起業し、日本人起業家として初めて自社をNSADAQに上場させた人物であり、現在は3社目の会社を立ち上げ運営している。彼曰く、この先日本の大手が生き残る方法はCARVE OUTしかないという。つまり、大手を分社化し、採算性の取れる事業に集約していくという事だ。Kさん自身の経験もあり、また自分自身、大手の日本メーカーとの付き合いで、事あるごとく同じような感じを受けていたので非常に共感できた。確かにこの先の成長分野である電池やモーター、また代替エネルギーの市場で非常に実力のあったSANYO,PANASONIC, SONY、SHARPは、コンスーマー分野立て直しの為に、新規の開発費などを潤沢に供給できない状況にあると容易に想像できる。これでは国を挙げて、これらの分野で世界の覇権を狙うアメリカ、そして韓国、台湾をはじめ、インドや中国の新興勢力のとの戦いに勝ち抜いていけるのだろうか?そうでなくとも人材を中心としたリソース自身、既にすごい勢いで流出している現状がある。なので大手はこのような状況を今こそ熟考し大ナタを振るうべきだと思う。

昨年聞いた、これらの話に殆ど関連性はないのだが、考えるに今年は大きな変革が必要な時期であり、少なくともそれに気づいてどう動いていくかを考えるべき時期ではないのかと思う。今までの大手偏重のスタイルは少なくとも大きく変革していくのではないか(というかそうならないといけない)?また、これらの既存大手と仕事をしている中小町工場も、それに気が付いて何らかのアクションを真剣に考える時期に差し掛かったのではないか?間違いなく大企業はそのまま残るであろうし、そこからの仕事は継続するかもしれない。しかしながら最近の円安傾向は、何となく儲かって景気が良い雰囲気を醸し出してはいるが、明確な成長戦略を打ち出せないアベノミクスのもとで、この先も、この雰囲気が継続するのだろうか??株価に関してもリーマンショック以来、確実に景気回復している諸外国の中で一向に明確な回復の兆しが見えない日本の株式市場においては、投機目的の諸外国からの買いが増えて商い額は増大する可能性は十分あるが、これは決して実体経済の裏付けとは言えないと思う。このあたりをよく考えなければならない。

2014年は、上記の話を例とすれば、個の活躍が著しいゲーム業界、そして今や手かせ足かせで大きな鉄の球をずるずると引きづりながら歩いているような牛歩状態の大手家電メーカーに依存しない中小企業やスタートアップが活躍するフィールドが間違いなく広がってきていると思う。言い換えればこのチャンスに、どのように考え行動していくか、このあたりを繰り返すようだが真剣に考える年にするべきだ思うし、ここで考えるか考えないかで大きな差ができてくることは明白のような気がするのだ。

という事で最初から相変わらずまとまりがないですが、何か気づきやグローバル化のきっかけになるような話題で今年も行きたいと思います。一つ宜しくご笑読お願いします。

シンポジウム、コマ、そして考えたこと。

またまただいぶご無沙汰してしまいました(どうもスミマセン…)。
先月になるが、東京の八王子で開催された「日本再生シンポジウム」の一つのプログラムに参加してきた。このシンポジウム、「世界の潮流を再び日本へ!」というテーマに基づき、日本の中小企業がグローバルに展開するための気づきと、約11万人の学生を有する八王子市が、今後の隆盛のためにそのリソースをどう利用していくか?という目的で開催された。自分はその中の「中小企業のグローバル展開」というプログラムにパネリストとして参加したのだが、正直なところ時間切れのために言いたいことの半分も言えずに終了してしまった。勿論それは残念だったのだが、果たしてどれだけの人が、このイベントを通じて本気で海外展開、もしくは海外から真剣に仕事を獲ってやろう!という志を持ってくれたのか?そこを是非確認したいと思っている。

さて、このシンポジウムのプログラムの一つに「コマ大戦」というのがあった。これは最近日本の中小町工場が中心となって自分たちの技術を結集し、長時間回転し続け喧嘩に強いコマを製作し競い合うことを目的に開催されている競技会で、業界ではかなり盛り上がっているイベント(ホームページはこちら)で今回もかなりの盛況だった。
実はだいぶ以前からこの大戦については知っており、これがいかに日本の製造業の隆盛に役立つのか?このあたりに関して言及したこともあったのだが、結論として技術の隆盛ではなく日本中の製造業同志のネットワークの一環としては、意味のあるイベントという事で納得していた。

ところが今回、ある記事をみて驚愕した。それによれば、あるアメリカの技術者が、独自の技術で長時間回り続けるコマを開発し、これを商品化すべく、クラウドファンディングの老舗であるKICKSTARTERで何と500万円近い投資を受けたというのだ。これは正にコマという商品をブランディング化し、ビジネスとして昇華させた事例である。

どうしてあれだけ盛り上がっているコマ大戦の中からこのような、グローバル化にフォーカスしてまずアクションを起こす会社(もしくは個人、団体)が出てこなかったのだろうか?この大戦に参加している参加者の技術力をもってすれば、世界一長時間回り続けるコマなど問題なく作れるはずなのに(と思いますが…)。。。今回参加したシンポジウムも、テーマは「世界の潮流を再び日本へ」であり中小町工場がグローバルに活躍すための「気付き」の為のイベントではなかったのか…?

さらに考えてしまったのは、きっとコマ以外にも本来であれば上手にマーケティングを駆使しビジネス戦略を構築すれば世界に冠たる優れた製品(や技術)がまだまだ日本にはたくさんあるのに、これらをビジネスとして昇華できない日本の中小町工場の現状がここにあるということ、つまり酷な言い方をすれば日本の「ものづくり」というのは単に自己満足の粋を出ない「作品(もしくは日本でしか価値を発揮できない製品)」という位置づけでしかないものがほとんどではないか?という事である。

正直、非常にもったいないし残念な事だと自分は思った。

実はこんな批判的なことを書いている自分にとっては、今回のこの記事は、それくらいショックだった。マーケティングの重要性は以前から再々にわたり、このブログでも書いてきたことだったし…。 もしかしたら今回のシンポジウムへの参加者も含め、今の日本の中小町工場は「将来はわからないが、今は何となく食えてしまっている」という現状からくる余裕から、実作業ではない一見付加価値を生まないマーケティングやビジネス戦略に対する意識をそいでしまっているかもしれない…などとも考えてしまった…。

余計なお世話かもしれないが、本当にグローバル化を考える志があるのであれば、とにかくまずこの部分にしっかりと「気付いて」もらわなければならない!

ロバート清崎の「金持ち父さん、貧乏父さん」というベストセラーの中に彼が講演の際に「マクドナルドより美味しいハンバーガーを作れる人は挙手をしてください」という問いかけをすると、会場の多くの聴衆は手を挙げるのだが、そのあとに「では、なぜそれをビジネスにしないのですか?」とさらりと質問するくだりがある。
今の日本の中小町工場の「ものづくり」はマクドナルドより美味しいハンバーガーを作れる事と同じ(本当に美味しいかどうかも最近ちょっとわからなくなってきたけど…)だと思う。それをどうビジネスにできるか、実はそこが一番重要なことだ。
せっかく凄いものが作れるのだったら、時間をみつけて少しでも考えてもらえたらと思う。

中小町工場と若手メーカーズの協業に新しい可能性が見えてきた!

先月の日本出張では、日本の若い製造系のスタートアップ企業2社を訪問、そのメンバーたちと色々な話をしてきた。昨年からブームになっているMAKERS革命と、それをつかさどる3Dプリンターをはじめとした数々の製造設備は機能も多様化し、価格もどんどんリーズナブルになり、またこれらが設置されたLABなども増えて、本当に手軽に子供の頃の工作感覚でものづくりができるようになった。そんな環境によって、メチャクチャ面白く可能性のある沢山の商品が、クラウドファンディングのWEBサイトを賑わせている。

このような新しい流れに呼応するかのように活動をしている1社がWHILLだ。30代前後の若手を中心としたこの会社はいづれも大手自動車メーカーや家電メーカーをスピンアウトした若者たちで構成され新しい電動型モビリティの開発にいそしんでいる。彼らの東京、町田の郊外にある工房、貸店舗を改装しただけのガランとした場所で、試作機を前に発泡スチロールを削り出して作った部品のモックアップを組みつけ、その取付位置に喧々諤々と意見を述べ合っている様相は非常に熱気が感じられた。製品自身も既にプロトタイプがリリースされ評判も上々だ。
私は彼らを見ていて、今から25年前、初めてアメリカに来た時に携わったSONYのメキシコ工場進出プロジェクトを思いだした。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いでアメリカのTV市場を席巻しつつあった同社は、その供給体制を確立すべく、メキシコボーダーの町ティファナに大規模工場を建設。その立ち上げに来ていた当時のエンジニアたちは、皆、熱気があって、ひとつの目標に向かって一丸となっている様子が強く感じられた。自分も若かったからだと思うのだが、そんなプロジェクトにVENDERとして携わっていたことが非常に嬉しかったし楽しかった。
90年代から2000年代の前半までは分工場も併せて従業員も5,000人以上だったこの大規模TV工場も2007年以降は急激に縮小し、2011年には工場ごとFOXCONNへ売却されてしまった。
売却前の工場の雰囲気は非常に活気がなく、たとえが良いかはわからないが末期のベトナム戦争のごとく、何のためにTVを作っているのか、誰もわかっていないような感じだった。
実はSONYだけでなく韓国、台湾勢の猛攻に、なす術もなく打ち負かされてしまった自分が訪問している日本の大手家電メーカーの殆どの製造現場に残念ながら、このような目標を失った雰囲気が漂っている。それに慣れてしまった感があった自分にとってWHILLの連中の熱気と情熱は非常に嬉しかったし、自分への励みにもなった。 そして、これからはこういう新しい製造業のスタートアップが、最初からグローバルに発想し世界を獲るために、クラウドファンディングやオープンソースといった最新のスタイル(技術)を駆使して邁進していくであろうと強く感じた。

もう1社はオリィ研究所。代表の吉藤君は、自分の原体験をモチーフに独自で遠隔コミュニケーションロボットを開発。学校にいけない子供たちが授業に参加したり、高齢者が彼らのコミュニケーションの手段として気軽に遠くにいる孫を会話をることを可能にしたりできる身体的障害や距離を克服するための新しいツールとして注目を集めている。 彼自身とも色々と話をしたのだが、本当に無垢で純粋。加えて明確なミッションで、この製品の開発に従事している姿勢には感激した。
そして、このオリィ研究所の製造におけるアクションが実は非常に興味深い。彼らのマニュファクチャリングを町工場がサポートしているのだ。 墨田区の代表的な町工場である浜野製作所が、まさにインキュベーション的に彼らにスペースを貸出し(居住場所まで)、そこで彼らの持つ経験とものづくりのノウハウで吉藤君の製品を、より精錬されたかたち(デザインではなくコスト的、生産効率的に無駄のない)にしていこうという試みだ。当然、試作だけでなく量産プロセスも横の連携のつよい町工場が一丸となって協力すれば、よりレベルの高い商品に仕上がっていく可能性は非常に高いだろう。

この若手のメーカーズ達と町工場のコラボレーション、かなり期待できると思う。もともと下請けという体質からマーケティングや開発機能に乏しい中小町工場にとって、彼らの存在はオリジナルの製品を作るという意味では非常にポテンシャルがあるのではないか?そしてメーカーズ達にとっても、製造という彼らが持たない経験、たとえば「ここの曲げ構造をL字にすれば同じ材質でも強度が増す」とか、「この部分は削り出しより板金で作ったほうがコストを軽減できる」というノウハウによって製品の製造効率化と品質確保、そしてコストの軽減が実現させることができると思う。

このような試みの中継ぎとして、既に株式会社リバネスが、新しい事業展開としての活動をスタートしている。 また八王子市の中小町工場の有志たちが地元の東京工科大学と連携し、世界の潮流を日本へ向けさせるべく、中小町工場の復権とハード系の学生起業家達と彼ら町工場をコラボレーションさせるイベント「日本再生シンポジウム」を計画し、このような流れに弾みをつけようとしている。特に日本の場合、各県に国立をはじめとした各大学、そして多数の中小企業が存在する。彼らが独自にこのような方法で、お互いに足りない部分を補い、資金的な面では地元の有力企業だけでなく行政なども巻き込みながら形態を作っていけば大手に頼らず新しいスタイルの製造業を創生していくことは十分に可能なはずだ。
そして夢のある若手を育成する意味でも我々のような経験のある人間がこれらのバックアップに尽力を注ぐことは重要だと思うし、中小町工場も変なこだわりを捨ててオープンマインドで、このような試みに門戸を開いていくことが、新しい製造業の復権とグローバル化につながっていくのだと思う。

製造を辞めると色々ダメになる…。

少し古い話になってしまったが6月に日本へ出張し開催されていたJPCAショウを見学してきた。この展示会はプリント基板、および実装に関する展示会で自分の業界であったことから早いもので30年近く毎年欠かさず足を延ばしている。
正直なところ、2009年のリーマンショック以降、このショウの規模は年々縮小。そして昨年あたりから日本のメーカーだけでなく、韓国、中国、台湾メーカーの出展が非常に顕著になってきている。特に今年は、その印象が非常に強かった。
1980年代、TVを中心とした家電製品において大量生産を実現していた日本企業の勢いは凄まじいものがあり軽く世界を席巻していたと思う。そうした生産をささえていた生産技術、製造技術、そしてそれをサポートする品質管理技術は大量生産のおかげで、これまた世界最高峰の技術を誇っていたし、それをつかさどる生産設備も日本製が完全に世界のデファクトスタンダードだった。
その当時、日本に追いつくことが目標だった韓国勢は、その技術をどんな手を利用しても習得することがまさに死活問題であり、自分が働いていた検査機器メーカーにも「部材と人件費の安い(当時)韓国でノックダウン生産をしませんか?」というアプローチでその触手が近づいてきた。結局自分のいた会社はその話に乗って全てをむしり取られる結果になってしまうのだが、このプロジェクトの責任者として(まだ20代の若造だったけど…)1986年と87年に韓国のサムスンの総本山である水原にあった生産技術研究所に常駐していた自分が目にしていたのは、日本の実装機や半田槽、検査機等にアリのように群がってリバースエンジニアリングをしていた、大学を出たばかりの兵役を免除されるほど秀才の若いエンジニアたちだった…。
その後、韓国勢は、このサムスンに限らずLG,HYUNDAI共々、自分たちの生産設備は自分達で開発し、それを使用することにって設備投資を抑え、タイムリーに優れた商品を開発して世界の市場を席巻していった。正直なところ、これらメーカーに限らず韓国、台湾製の生産設備、特に検査機は今回の展示会でも多数出品されていたのだが残念ながらどれも秀逸、特に自分の専門分野である検査機(画像処理)に関して言えば、かつては市場を凌駕していたにもかかわらず今や生産を縮小してしまったOMRONやPANASONIC製より、その運用性やソフトのアルゴリズムに関していえば明らかに彼らの製品のほうが優れていると言わざるを得ない感じだった。

なぜこうなったのだろう??それは非常に単純だ。少なくとも今の時点で世界最高峰の実装技術を駆使して製品の量産をしているのは正に、この両国プラス中国だ。製造技術、生産技術、品質管理技術というのは量産工程において、いかに歩留まりを少なく効率よく費用対効果を高めて高品質の製品を作り上げるかに依存しているといっても過言ではない。
そして今の膨大な容量のソフトウェアーの手足となり、それを確実に動かしていくハードウェアの進化も凄い勢いで進んでいる。簡単な例でいえばスマートフォンの中に入っている回路は、かつてのPCマザーボードより高機能だ。つまりPCに使われていたマザーボードサイズの基板の機能が今はスマートフォンサイズにおさめられている。勿論、昨今のモジュール化(ICに機能をまとめること)は非常に大きなポイントではあるが、モジュール化できない回路がスマートフォンサイズに凝縮されているわけだ。これを確実に実装する技術、具体的にいえば0.4mmのピッチの数百のパターンに半田を乗せ、それにデバイスを搭載して、そのピッチ間をショートさせずに自動で溶着させる、それも一日に1万個の単位で不良なく、これらを生産する技術。こういうプロセスに投入され切磋琢磨されることによって、より精錬された設備が完成していく。この客先の要求にかなう仕様を日々の鍛錬によって高めている韓国、台湾の生産設備はこの先もより洗練されたものになっていくとおもわれるが、既に量産工程のほとんどを海外に移転、もしくは辞めてしまった日本の環境では、もう残念ながらこのような優れた製品は生まれてこないのでは(勿論、POPやMCMといった超高密度実装に伴う技術はまだ日本がイニシアティブをとっている可能性はあるのだが…)?と考えざるを得ないのかもしれない…。
そして、この状況は生産設備だけにとどまらない。自分の商材でもあるクリーンルームや静電気対策に使用する資材なども、かつては日本製が殆どだったのだが、最近では、韓国、中国製にだいぶ席巻されている。彼ら協力工場が生産するそれらの品質も、量産工程に見合うレベルにどんどん進化しているのだ。また生産に必要な材料自身もしかり。自分の取引先である、LCDパネルに使用するフィルムの加工しているメーカーでは、最近、納品先の要求で日本製ではなく韓国製の安いフィルムに供給元を切り替えさせられたと話していた…。そういう日本以外のベンダーも同じように量産工程に追従しながら進化と遂げているわけだ…。果たしてこのあたりの挽回が、この先、日本で起こりうるであろうか???

というわけで何が言いたいかというと(最近このフレーズ多いです…^^;)、このような量産工程を辞めてしまった日本の大手メーカーについていったら自分たちの技術や製品までも世界の需要からは程遠いものになってしまうのではないか???という認識を是非、協力工場、しいて言えば中小町工場の皆さんには持ってもらいたいと思うのだ。勿論、半導体業界でいえばDISCOやアドバンテストなど最初から世界市場をターゲットに日々切磋琢磨している会社も多い。できればこのような会社と同じような意識と視点をグローバルにもって、これからを考えてもらえればと思う次第である。

スピード感はあるのか??

今年の春から日系の大手家電メーカーの既存のメキシコ工場における新規プロジェクト立ち上げに携わっている。日系大手メーカーがアメリカで辛酸をなめさせられている中、日本の得意としている家電製品で再挑戦を図る同社を自分としては諸手を挙げて応援したいのだが、そのアクションの遅さが気になっている。
自分が、関わっているのは品質管理の部分で、同社は既存の検査システムを再び使用する計画なのだが「日本と使用している機種が違うので検査内容の詳細を確認したい、また機能的に問題がないか検証したい…」と細かい内容の質問が来たので、これに関してはスタンダードなデータ提供とシステム自身の過去の機能データなどを速やかに提出。それに対してすごく時間がたってから「実は今回使用する部品に関しての詳細な検査データが必要」みたいな質問が来て、これにも真摯に対応したにもかかわらず、最後に「この検査機に使用する治具の価格が日本のものとだいぶ開きがあるので、価格の検証が必要…」と、まあ次から次へを新しい要求が入ってくる…。このプロジェクト、勿論、明確なスケジュールがあり、この秋には新規ラインの稼働を予定しているのだが、こんなやり取りであっという間に1か月近くが経過、おまけにこれから価格の交渉と、ちょっとウンザリするほど手間がかかっているのだ。 品質管理の部分なので慎重になるのは十分にわかる。ただ何で、そんなに時間がかかるのか??というか先ず考えられるポイントをまとめ一括で確認する。という事は十分に可能なはずだ。う~ん…。
実は、このような動きの遅さは今まで他の大手メーカーでも何度か経験している。かつて別会社の工場では新規生産ラインの品質改善の際、メキシコ人はTACOSなど食事を手で取る習慣があり素手の作業では油脂が製品に残る可能性がある。しかしながら慣習上、現場に戻る際に彼らに手洗いを励行させることが難しいので全員(と言っても20人ぐらい)にニトリルゴムの手袋を装着させたらどうか?という提案をしたのだが、その決済に日本の承認やら何やら本当に細かいことで時間がかかり、結局生産開始時に間に合わず、案の定問題が発生してしまった…。なんてこともあった。
シリコンバレーでも(もしかしたら未だにそうかもしれないけど…)、ITバブルの頃は日本の大手のこちらの事務所には必ずBUSINESS DEVELOPMENTという肩書を持った駐在員がいて、こちらの先端技術やスタートアップをリサーチして日本サイドとの提携をさせる業務をしていたのだが、せっかく可能性のある会社を見つけても承認にいくつもハンコが必要な決済システムの為、もたもたと時間がかかり、それら会社はことごとく台湾や韓国、インドの会社に持って行かれてしまったという例も数多く見てきた…。要はそんな体質が今でも全然変わっていない様子を残念ながら身近に感じてしまって、何か本当にがっかりている次第…。
そして危惧するのは、そんな大企業の体質の中で長年働いてきた社員にも、そういう体質が染み付いてしまっていないか?という事だ。一生懸命開発や設計をしても承認や決済を取るために時間がかかる「だったらのんびりやってもいいや。」みたいな体質。加えて、たいして金もかからないのに上司の判断が気になり細かいところを気にし過ぎて何も決まらないといった体質だ。実際に中堅どころのコネクター製造の会社の友人から早期退職した未だ現役の大手メーカーの開発担当者を採用したのはいいが、そのプロセスの進め方の遅さに困惑した…という話を聞いたこともある…。

シリコンバレーに長年住んでよく感じる事。それはスピード感だ。あらゆるもの、特にソフトもハードも含めて新しい製品が市場に投入される速度、これらがものすごく速い。ITバブルの90年代後半から、ここはドッグイヤーの地だといわれていた。つまり他の地域の1年で、ここは7年は先に進んでいるというのだ。まあ、これはSOFTWARE産業に関しての見解であるにしても、ハードウェアでさえ少なくともその半分の3年半は他の環境より高速で動いている感じがする。APPLEが年内に発表するといっていたIーWATCHの発表が来年に延びるというだけで、その情報が早速今日のNEWSで流れていた。それほど時間とタイミングに関してはシビアなエリアでもあることは言うまでもない。特に話題が先行している新製品に関してはなおさらだ。
このスピード感が、ある意味、世界のデファクトスタンダードになりつつある。サムスンはその市場の流れに呼応すべく、この地に大規模なR&Dセンターを設置することを既に決定、今その建設が始まろうとしている。果たして日系大手企業はこの状況をきちんと理解しているのだろうか?少なくとも自分が今直面している状況からすると、未だに、よく理解できていないように思えてならない。

さて、これらの大手メーカーと仕事を共にしてきた中小町工場の皆さんにスピード感はあるであろうか? そんな大手の体質、というか仕事の進め方が実は染み付いてはいないだろうか?勿論、仕様決定に時間がかかりすぎて納期だけをひたすら急かされるという状況がほとんどかもしれないが、それでも仕事に関するスピード感がないとしたら、残念ながら、それは今の世界のスタンダードではないと敢えて断言したい。
「はい!納期は4週間で最高品質のものを製作します!」は、もう世界では通用しない。「要求された品質のものを1週間でお届けします」が今のスタンダードである。過剰品質は不要だ。機会があれば是非そのあたりを再考してほしい。少なくとも最高の技術を持っている日本の中小町工場であれば、このスピード感を持つことによって、間違いなくグローバル展開ができると自分は確信している。

クローズドからオープンへ!

エンジニアの親しい友人から聞いた話。彼は今数人の仲間と新しいハードウェア開発を進めているのだが、その中に必要なパワーCHIPを探していたところ、日本の〇田製作所とアメリカのTI(テキサスインスツルメンツ)に適したものがあり、日本人の彼は、それであれば先ず日本製を使うようにしよう!という事で、〇田にさっそく確認したところ「弊社の場合、部品の販売は最低OOO個単位からでお願いします。サンプルの配布は行っておりません。製品のスペックシートで先ず確認をお願いします。またソースプログラムの公開も購入されたお客様以外にはしておりません…」との非常につれない高飛車な対応だったそうだ。そこでTIにも同じリクエストをしたら「はい、ひとつからでも勿論購入は可能です。ソースプログラムはいつでもWEBサイトで確認しダウンロードも可能です」との事で彼はさっそくTIの部品を採用した。仮に彼らが開発している商品が爆発的なヒット商品になったとしても、彼らは間違いなく個人に閉鎖的な〇田製作所の部品は使用しないだろう。当然、この先の製品開発で必要な部品があったとしても、同社の採用はありえないと彼は話していた。
勿論、これは〇田製作所の販売方針であり、TIのような販売をしている会社も多いかもしれない。しかし自分の経験から実は日本の会社(大きいところから小さいところまでも含めて)と付き合っていると、色々な部分で、このような閉鎖的(クローズド)な方針を持った会社が以外に多い感じがする。

閉鎖的という点では、これまた少しメージが離れてしまうと思うが、日本で営業をしていた頃(20年以上昔です…)、ある日産系の自動車部品の工場へ営業に行くと日産以外の車は工場内には入れてもらえず、遠く離れた駐車場にしかパーキングすることが許されなかった。 この会社に限らず特に自動車系は排他的でクローズドな会社が多かった。P社のTV工場に売り込みに行く際、同じ製品をS社で使用しているという事を話すことはタブーだった、というかS社で使っているんだったらうちは使えないよ。と言われるのがオチだった。機密保持という観点から同業他社で使用している製品を使うことはご法度という雰囲気は、コンスーマーに限らず特に半導体業界では非常に強かったことを覚えているし、そういった部分が日本の慣習なんだな。と当時は納得していた。
ところがアメリカに来て、この納得は一変した。これには賛否両論あると思うし、非常にストリクトな会社も勿論多々あると思うが、アメリカで採用したベテラン営業マンは当時こちらで販売していた製品の売り込みに、まず開口一番「この商品は同製品を製造しているA社で採用され非常に好評なので、御社にも最高ですよ」と説明した。これは言い換えれば客にとっても、「なるほど同じような製品で実績があるのなら、きっとうちにもメリットがあるかもしれない」と思わせるには一番なのだ。そして客の反応もそれなりの感じだったこと、にかなりの衝撃を受けたことを覚えている。
1990年代の中ごろ、アメリカではEMSによる生産がソレクトロンを中心に非常に隆盛だったのだが、このようなEMSの工場ではSUNのOC用ボードの隣のラインでIBMのOC用ボードを普通に生産していた。当然ながら機密保持の徹底は言うまでもないのだが、同じ生産ラインを使用できるのであれば、そのほうが合理的で効率も高く、コストも軽減できるというコンセプトによるものだった。このコンセプトが十分に咀嚼され、発展して今のFOXCONNの大成功につながっているとおもってもOKではないだろうか。。。
アメリカは当時からこのようにオープンな環境で”ものづくり”が行われていたのだ。今では一般的になっているオープンソース(これはSOFTWAREの話だが)というコンセプトも、きっとこのような市場のスタイルがまずベースにあるような気がする。
昨今の日本では、上記のような閉鎖的は部分というのは大分無くなってきたと思いたいのだが市場自身が激変している今の環境においては、このあたりを真剣に考えてみる事が非常に重要ではないか思う。営業でいえば、メーカーズブームを背景にロングテールの部分に非常にポテンシャルのある可能性も出てきている状況であれば、それに応じたオープンな営業展開をするべきだと思うし、
マニュファクチャリングに関しても、量産製品の日本におけるイニシアティブが無くなり、プロセス自体もが東南アジアに流れてしまった現状では、もっと自分たちの持っている今まで表に出てこなかった生産技術や商品開発のノウハウをオープンにして一丸となってグローバルな市場を獲りにいくことが不可欠ではないかという事だ。S社とP社が事業統合して共同で次世代TVを開発する!そんなインパクトのある展開が絶対に必要だと思う。

実は今日本の中小町工場の間で、「全日本製造業コマ大戦」というのが密かなブームになっている。これは日本の製造業が彼らの技術を結集した喧嘩ゴマを製作して戦わせるというものだ。自分も付き合いのある町工場の皆さんから、この話を聞いて最初は「なんでコマなの??」「そこにマーケティングとしての意味はあるの?」と正直なところ、いささかネガティブなイメージ(失礼)しかなかったのだが、実はこのコマ大戦を通じて同業の参加者たちが物凄いスピードでそのネットワークを広げいている状況を見て「これは面白い!」と考えを一新した。 これによってオープンネットワークが築かれ、今まで下請けという非常にクローズドな環境で門外不出のものづくりをしていた同業の皆さんが、連携を強化し、お互いのノウハウなどをオープンにして、新しいものづくりを創造していけばきっと凄いものが創れるのではないか?? と思うようになってきた。

少なくとも間違いなく依怙地になって上記の事業統合などは、あり得ない(SHARPとFOXCONNの話とか)、今の日本の大手製造メーカーの状況から見れば、方法はどうであれネットワークを加速する中小、町工場の動きのほうが断然楽しいし、もっともっとオープンになって日本を飛び出し、グローバルな視点で市場を見て再び日本初のデファクトスタンダードな製品を一日も早く創り出してもらいたいと思う!

 

MAKER FAIREを見学して思った事

5月の18,19日の週末に開催されたMAKER FAIREを見学してきた。これはアメリカのものづくり系、とにかく個人でも企業でもグループでも、ものを作っている人たちの集大成といった感じの展示会で、とにかくものすごい人気。私は2日目の日曜日に行ったのだが、10時の開演時には、既に周辺の高速道路が渋滞するほどの混雑。その人気の高さに見学前からちょっと驚いた。TVゲームがまさに完全に主流になっている今のご時世に、まだこんなにものづくり、創作といったものに人気があるのかと。言い換えれば子供のころ読んだ科学雑誌や工作系雑誌などに夢中になっていた子供がそのまま大人になっても未だに夢中になっている感じもあるし、当然その世代に育った親たちの意図(子供にもTVゲームではないものに興味を持たせたいという)もあってのことだと思うのだが、その層の厚さにはかなり圧倒されるものがあった。会場は屋外と屋内とに分かれており、大きなものや大道芸的なもの(スミマセン、的確な表現が見つからなかったんだけど、竹馬のお化けみたいなものとか恐竜の自動車とか墨でできたピアノとか下記の写真のようなわけのわからないオブジェみたいなもの)は外に展示されたり実際に動き回っていたりしており、室内では主に展示っぽい展示(普通の機械とか、玩具とか、部品とか、其の他諸々)が行われていた。そして会場全体に、特にギークとかナードと呼ばれる連中、実際に映画バックトゥーザフューチャーに出てくるドクと同じ様相や雰囲気を持ったイイ歳のおっさん達やお年寄り(失礼!)が驚くほど目についた。

<車全体に音楽で動く魚やエビをつけて車のバッテリーで動かしていた怪しい初老のおじさん…>

展示されているものは本当に昔ながらの木工細工のようなものから紙を使った模型、素朴な玩具などに加え、ハイテクを駆使したスマホで動くおもちゃや機械、はたまたセキュリティシステム、省エネ系製品(コンロの過熱を利用した発電機などがあった)など多岐にわたっていて、出展者も個人の発明家から、スタートアップ、趣味の開発グループ、AUTODESKや、INTEL,NVIDIAといった大手までと幅広く、まとまりがないと言ってしまえばそれまでだが、とにかく奇想天外な製品が多く、発想の豊かさと、ものづくりに対する執着、情熱みたいなものが感じられて、かなりおもしろかった。
そして、これがアメリカという国の製造業の根底にあり80年代から急速に製造を海外に移管し日本より早い段階で空洞化が問題になり、もう製造を忘れてしまったかと思われていたこの国には、実は絶対に無くならない製造魂みたいなものが残っているし、国外から移民してきた世界中の人々も、そのアメリカが持つMAKERS(ものづくり)気質みたいなものをしっかりと刷り込まれて育ってきているので、製造という分野においては非常に関心が高いのではないかと思われた。 加えて、そのようなMAKER達をバックアップする製品もたくさん展示されていた。3Dプリンターに至っては$1800で8インチサイズのものまで製作できるのが売られていたし、$2000台でルーターやミリングマシーンも売られていた。つまり個人やグループが自宅やガレージに、これらの設備を並べて簡単にものづくりができる。おまけにAUTODESKをはじめとしたソフトウェアメーカーもほとんど無償でこれらの機械を動かすデザインツールなどを供給している。そういったインフラも既に存在するのだ。このあたりの環境の充実度は凄い!これだったら本当に興味と情熱さえあれば、ほしいと思ったものは何でも作れる!という気になってしまう。日本には、こういう環境は既に存在するのだろうか??

考えてみれば自動車の量産を最初にスタートしたのはアメリカだし、ファクトリーオートメーションを確立したのもアメリカ、月に向けて最初にロケットを打ち上げたのもアメリカ、既に40年代にはほとんどの家電製品を開発/販売し半導体はもとよりPCだって全てアメリカから生まれ最近ではスペースシャトルまで飛ばしているのだ。製造業に関しては表現が悪いが「腐ってもアメリカ」「不沈のアメリカ」というゆるぎない地位を持っていると思えてならないし、このMAKER FAIREの盛り上がりを見て、さらにそれを確信した。
さて、これらアメリカの製造業の裏には、未だに多くの日本企業の素材や部品、製品が使われていることも、これまた事実であり、特に最近のアメリカの航空宇宙開発やプリンテッドサーキットのような次世代テクノロジーの裏には多くの日本メーカーが活躍している。 少なくともまだまだ日本の製造業がうまくコラボしながらイニシアティブをとることも十分可能なのだ。こういった部分で今回のMAKER FAIREで見たような個人がつくる奇想天外な製品の中から、もしかしたら物凄いヒット商品が生まれる可能性もあるかもしれない。そんなところに大手ではなく日本の中小、町工場の技術や少量多品種生産、そして小回りの利く対応といった価値がうまく結びついて、大手に負けないような製品がガツンと生まれてくるようなスキームを何とか構築できればと思うし、何とかそれを実現してみたい!MAKER FAIREを見てそんな事を強く思いました。

「ものづくり」から「価値づくり」へ!

前回から、まただいぶ時間が空いてしまったが、今回も前回と関連し「ものづくり」について…。
少しまえに、シリコンバレーで長年マーケティングを生業とし活躍されてきた方から製品にはマーケットイン、つまり需要(価値)のあるものを作ることが肝要、つまり、もうこれからは売れない(市場のない)「ものづくり」を標榜するのではなく、そこに必要(市場のある)な「価値」を考えるべきだ!いうご意見を伺い、ちょうど前回のブログで、このあたりを書いていたので、まさに解を得た気持ちで激しく共感すると共に、自分自身も、価値を見出し作り上げていく事は日本の中小製造業が、これからの世の中においてグローバルに展開していくために不可欠だなあという思いを新たにした。 それは前回書いたように今日の日本の製造業を語る上で枕詞のように使われてはいるが、独りよがりで需要やアドバンテージの無い「ものづくり」ではなく、それぞれが持つ独自の技術(もちろんこれがあれば一番!)やそれ以外の価値をまず明確にし、それを市場に応じて柔軟性をもって作り上げ、前面に押し出すビジネス展開を真剣に考えてみる必要があるという事だ。そして私自身は、非常にシンプルに「ものづくり」と「マーケティング&リサーチ」の融合が「価値づくり」になるのではないかと解釈した。
では、具体的に「価値づくり」、いったいどのように考えていけばいいのか? そのためにはまず第一に自分たちがもっている今の価値は何かを把握する必要がある。 今、皆さんは、どうしてお客さんから注文をもらえているのか?自社の持つ素晴しい技術や品質の為なのか?納期が非常に早いからなのか?値段が非常に安いからなのか?もしくは、マメなフォローアップができているからなのか?それとも実は先代からの付き合いでなのか等々、さまざまな要因があると思うが、これらをしっかりと分析することで、自分たちのどこに価値があるかを先ず明確に見出してほしい。
次にその価値が現在のニーズに合致しているかを検証する。たとえば大きな需要がある市場において果たして自分たちの現状の価値だけで食い込んでいけるかどうか?そこには、やはり現地の需要を把握することが不可欠になる。
たとえば特殊な加工技術で難易度の高い製品を製造できる会社があり、その価値を武器に、さらにこのような商品の需要が見込まれる新規市場(国)に参入しようとした場合、既にそこには同様の製品を作れる会社が存在していたとすれば、その会社の持つ価値はあまり意味をなさない。
そのような場合には、その市場の需要をしっかりとリサーチして把握したうえで自分たちの価値を生かしながら、そこに付加的な価値を補充(たとえばその加工技術を生かした水平展開や現地の会社より低価格で提供ができる等)するなどして、より高い価値を作り上げ臨機応変に展開する必要がある。そのような中で築き上げていくのが「価値づくり」だと思う。
一例をあげてみよう。京都にアルミ加工の試作品製造では間違いなく最高峰のレベルで業界では有名な山本精工という会社がある。同社は将来的に市場を見込めるアメリカへの参入をめざし、現地のリサーチとマーケティングを展開。その結果、自社の加工技術を価値とできる可能性よりも納期やコストの面での重要性と需要を見出し、自社の戦略を変更し、高度の加工技術に加え自社の工程の見直しを図って従来の納期を大幅に短縮、それに応じて工数を減らすことによるコストの軽減も実現し、この価値を従来の価値に加えて前面に押し出したPRでアメリカの展示会に出展。早々に数社からの受注と現地企業とのパートナーシップ提携というスタートを切ることに成功している。素晴らしいと思う。

確かに既存の「ものづくり」は素晴らしい言葉だと思うし、製造という面では非常に優れた技術、製品もたくさんあることは事実だ。ただ前回の内容通り、その言葉が持つ認識からでは現状は何も生まれてこない。この認識を再考し、加えて日本の商制度上、中小の製造企業においては余り必要性がなかったマーケティングを再考し、そこに力を入れることで自分たちの価値と融合させる「価値づくり」によって、少しでも新たにグローバル展開に燃える企業が増えてくれたら嬉しい限りである。

「ものづくり」の認識を再考してみては?

またまた少し時間があいてしまったが、今年に入ってよく考えていることが「ものづくり」という言葉の存在だ。以前にも書いたが、この言葉(自分でもブログのタイトルに使っているけど)は、本当にどんな意味でつかわれているのだろうか。たとえが悪いが「虫の知らせ」の虫のようなもので、よくわからない存在のように最近は思えてならない。確かに「製造=ものづくり」という普通の解釈をしてしまえば何の問題もないのだが(自分的にはそんなイメージ)、これがどんどん超越して「ものづくり=日本の技術の粋ー匠の技」みたいなイメージで使用されているな~という感じを最近よく受ける。実は最近アドバイスを依頼された、ある関西の中小企業が、まさにこのような意味で「ものづくり」を同社のWEBサイトに使用していたのだが、この認識でいるとしたら、それは早めに改めたほうがいいかもしれない。世界の技術は日本の皆さんが考えている以上に何でもできる。そして今の時代、自分が少なくともこの地(シリコンバレー)で感じるのは、もう日本の匠の技的な技術の需要は殆どないという言うことだ。最近では先ず製品の開発、デザインをするCADのシステムがものすごく発達している。そのために微細加工の部分なども精度よくデザインをすることが可能だ。そして、それを形にする加工マシンも森精機やOKKを代表する日本メーカーのおかげで精度的にものすごくレベルが高い。なのでアナログ的に触るだけで何ミクロンの差がわかると言った精度の良し悪しが必要になることも非常に少ないのである。加えて、これらにこだわることによる製造コストの上昇は今の市場ではよほど特殊なものでない限り許されないのだ。もう一つ言えば最新ハードウェアをデザインしているのは基本的に最新のCADシステムを使いこなす事ができる若手のデザインエンジニアたちだ。彼らは学校で学んできた過程からすでにデジタルの環境なので、そこにアナログ的な要因が必要とされること自体ほとんどないと考えられる。確かにI-phoneケースの鏡面加工は日本の燕三条の町工場が手掛けていて、やはり日本の匠の技は凄いのだ!というような話を聞いたことがあるけれども、その会社はそれで本当に潤沢に儲かっているのか?というと、それも量産製品の付加価値の一部であって量産品ゆえに莫大な利益を確保することは難しい状況ではないかと思う(もし間違っていたらぜひコメントください)し、そんな目にかなう技術といったらほんとに宝くじに当たるくらいの確立かもしれない。実際に今年LAで行われた展示会にJETROがセレクトし出展していた日本の製造メーカーの話を伺ったが、彼らが説明してくれたアドバンテージ技術のほとんどは別に珍しいものでも何でもなかった。
つまり、もし仮に皆さん(特に日本の中小企業)が「ものづくり=匠の技、もしくはオンリーワンの技術」というイメージで捉えて、これを自社のホームページや色々な場面で使用されているとするならば、本当に余計なお世話とは思うのだけれども、その前にまず自分達の持つ技術や製品が本当に世界に誇れるものなのか?という事を恥をかく前に再考というか再リサーチをしっかりしていただきたい、と思っている次第であります。