10年後20年後を考える!

大変遅くなりましたが、本年もよろしくお願い致します。

アメリカでは毎年、1月にラスベガスで開催されるCES(CONSUMER ELECTRONICS SHOW)で主に電機産業界の幕が開く。今までは日本の大手家電メーカーが巨大且つ豪華な限りを尽くしたブースで他を圧倒していたのだが、ここ数年はその迫力も半減し、中国、台湾、韓国といった新興勢力に加え今年は自動車メーカーやIOTを中心とした各種デバイスメーカー中小規模の出展が増えたのが特徴だったようだ。 そして、その多様性と将来的な期待感もあってか、総来場者数も17万人に上ったという。
自分は会場に足を延ばしたわけではないので、具体的な雰囲気に触れることはできなかったのだが、色々なレポートなどを読むと、そこにはかなり近未来を予感させるようなものも多数出展されていたようだ。

いづれにしてもスマートPHONEの出現以降、電器産業を中心とした産業の流れは益々、加速度を増してきている状況を非常に強く感じる。 以前このブログでも触れたことがあるが、自分がアメリカに来た当初(今から約25年前)、こちらのTVで流れていたAT&TのCMは、近未来のライフスタイルというタイトルでシリーズで公開されていたと記憶しているのだが、買い物かごに満載された商品がレジの通路を通るだけで勝手に全てスキャンされて支払も全て自動で登録のクレジットカードに課金されるシステム、朝起きて洗面所(だったかな?)の鏡に顔をうつすと、鏡の中に組み込まれたタブレット型の端末がその日の健康状態を解析するシステム、車のエンジンをかけると設置されたスクリーンに全ての機関のコンディションやパーツの消耗具合を提示させるシステム等、当時としては想像可能な未来のテクノロジーを「私たちが実現します!」というかたちで結んでいた。 これらは今では既にほぼ実現(残念ながらAT&Tによるものではなかったけど…)できているような内容だ。このままいけば、数年もたたないうちに、このような環境は広く世の中に普及しているだろう。
今回のCESでは、IOTをテーマにした多くのデバイスが具象化され紹介されており、日本の電子関連の雑誌やメディアでも「IOT(ものインターネット)元年!IOTに注目!IOTが世界を変える!」といったような見出しが非常に目についた。これは確かに流れとして今後も技術的に具体化してくることは間違いないと思われるが、シリコンバレーでは既に昨年の半ばぐらいからIOTのスタートアップに投資するようなVCは激減しているのが現状だ。ここでは既に次のムーブメント探しに皆が躍起になっている。新しいものにトレンドが移行することで、テクノロジーの流れはどんどんスピードを上げているのだ。

さて日本はどうだろうか?年末の選挙では自民党が圧勝し、安部首相が再選となり、また継続してアベノミクスが続行される状況。 それによって国内需要が安定することは大いに結構。そして石破大臣を中心とした地方創生の具体案である「「まち・ひと・しごと創生構想」による地方の活性化も非常に意義のある試みだと思う。加えて2020年に開催予定のオリンピックに向けて、またリニアモーターカーの敷設など建設を中心とした国内の景気も堅調かもしれない。ただ、何となく内需の拡大による安心感というか安堵感がもたらすのは、ますます今の世界の流れから取り残されていくような感覚だ。
オリンピックまではあと5年。そこまで景気が良ければそれでよいのか?いやいや世界はその先に焦点を当てて走っているという事をやはり絶対に意識する必要がある。上記の景気対策でこの先5年は会社の運営も順調で推移しそうであれば、ぜひとも余力のあるところで10年後20年後を考えた計画を検討してほしい。自分たちの代だけでなく、子供や孫の生きる世界までを考えるという事が今は本当に重要。テクノロジーの発達はどんどん時間を短縮させている。10年なんてあっという間だ!

2015年は、世界の流れの速さに追従する意味でも皆さんには是非、グローバルな視野を持って世界の流れを体感し、少しでも10年後20年後を考える気持ちを持ってもらいたいと思います。

 

2014年を振り返って

2014年ももうすぐ終わろうとしている。毎度のことではあるが本当に最近の時間の流れは「光陰矢の如し」で、あっという間という感じ。残念ながら歳のせいでもあると思う…。

さて、今年も多くの日本の中小町工場のオーナー達と会い、色々なかたちで話をさせてもらったり、視察のアテンドをさせてもらったりした。自分としては、このブログの主旨でもあるが、「大手がグローバリゼーションの中で、残念ながら存在感を急速に失っている状況において、それに追従してしまう事なく一社でも多くの中小町工場が高い志と技術力を武器に海外に飛び出してほしい」という思いを継続しながら、もう5年以上、このような活動をしてきたのだが、この1年は色々な意味で考えさせられる部分が多かった。

端的に言ってしまえば、下記の2つのポイントが明確になった。
先ず1番目は、ほとんどの場合、日本の中小町工場が標榜している「ものづくり」は世界で通用するレベルではないという事だ。残念ながら今年お会いしてきた皆さんの会社の殆どは少なくともアメリカでは通用するものではなかった。これはひとえに技術力というだけでなく、当然製品を客に満足して購入してもらうためには、マーケティング、価格、納期、サービス等の要因も重要なポイントになるのだが、技術力はあっても納期がめちゃくちゃかかる。納期は非常に早いのだが価格がべらぼうに高い。高い技術を持ってはいるが市場を観ていない…。
これではシリコンバレーに限らずどこでも通用しなのが現実だ。納期も早く価格もリーズナブルで技術的にもレベルの高い製造メーカーなどいくらでもあるからだ。唯一オンリーワンの技術があり、それをどうしても必要としているユーザーがいる。という事であれば話は別だが、このような例は本当に稀だ。

そして2番目は本当の意味でグローバルな展開をしていこう!という志の高い企業は殆ど無いという事。以前のブログにも書いたのだが、アベノミクスの影響か今年、話をさせていただいた企業の多くは極端な話、尻に火が付いたような状況とか真剣に10年後の自分の会社の行く末を考えてグローバル展開をしたいという志を持ったところは皆無に等しかった。何となく現状を見れば「日本でも十分いけちゃうじゃん!」みたいな気運が強く感じられたのが非常に印象深かった。

このようなポイントが明確になってしまったことは、ある意味非常に残念でもあるのだが、多分間違ってはいないだろう。

この点から今までお会いしてきた皆さんや見聞からだけの推測ではあるし、かなり失礼ではあるかと思うがグローバル化に対して現状の日本の中小製造業は次の3つに大別出来ると思う。

1.日本国内で十分に仕事も確保でき敢えてグローバル展開は考える必要がない。
2.興味はあるが、状況的には日本は潤沢な補助金もあるし、とりあえず現状を維持できればOK。
3.現状の日本の状況を踏まえ将来的には必要不可欠なグローバル化を真剣に考えている。
もしくは具体的に、その為のアクションを知りたい。

少なくとも今の日本を考えれば1.は全く問題もないし金のかかるグローバル化に注力する必要もなく、この先も事業の存続が可能であろう。アベノミクスの影響もあり、このような皆さんはかなり多いのではないかと思う。
2.であるがこれも現状ではありだ。アベノミクスは「成長創業支援」として過去4年間に1兆円以上の補助金を供給している。商工中金の資料では、補助金を受けた企業の80%は黒字転換しているという。それであれば潤沢な補助金(もちろん税金)が供給される限りは事業の継続は可能ではないかと思う。
そして3.に該当する企業。正直非常に少数派だ(残念ながら)。それでも危機意識を持ちグローバル化に乗り出していこうという志をもつ皆さんがいてくれることは非常に嬉しい。

今年お会いした皆さんの多くは上記の1か2に該当すると思われた。そのような皆さんがシリコンバレーに来た際に、自分としては本当に真摯に対応させていただいたつもりだ。でも、それは今年限りにしようと考えている。失礼な言い方かもしれないが、そのような皆さんをアテンドしても結論から言えば何も起こらないからだ。
確かにAPPLEやGOOGLEやFACEBOOKなど世界の著名な企業がひしめき合うシリコンバレーにくれば「いや~凄い刺激や気付きをもらった」と印象を持たれるかもしれない。でもそれで終わりのケースがほとんどのようだ。これでは、物見遊山とあまり変わりがなく、自分としては、そのような皆さんに、この先、貴重は時間を割くことはできない。

しかしながら3.に該当する非常に少数ではあるが本気で海外の市場開拓に取り組んで行きたい志のある皆さんとは今後も是非お付き合いしたいし、グローバル化に向けての支援を継続していきたいと考えている。幸運にも今年お会いした数十社の中小町工場の中で3社、前向きで高い志を持つ会社と出会う事ができた。自分にとっては同志を得た気分で本当に嬉しかった。

昨今、潤沢に補助金を出す国の政策を食い物にしている団体や法人も残念ながら多く見受けられ、またグローバル化をネタに海外展開をサポートすると称する殆ど実体のない怪しい会社なども現れ、状況は非常に混沌としていると言わざるを得ないのだが、シリコンバレーのJETROが展開しているプログラムなど少しでも真剣に海外展開を計画している企業のサポートとなるプロジェクトには全面的に協力したいし、自分としても、海外展開に志のある企業と1社でも多く出会う事を来年の目標としたい。

シリコンバレーの現実を理解する事

最近のシリコンバレーの状況、それはまさに1990年代の後半に起こったITバブルを髣髴させる。幸か不幸かその時期、既にこの地にいた自分から見たら、まったく同じような状況、もしかすると投資の面からみれば金額は当時より少ない(起業形態が変わり、小口の分散型投資が増えた影響もあるかと思う)が、交通量の増加や、新規住居の造成ラッシュ、などは本当に似たような感じだ。
特に今回顕著なのは、世界中から流入してくる人々の為の住居不足、地価だけでなく、賃貸費用の驚愕的な上昇。APPLEの本社があるクパティーノ市では、2ベットルーム(日本風には2LDK)のアパートの家賃が月$3,500@@!日本円で35万円である。これはオカシイ…。もちろん、APPLE、GOOGLE, FACEBOOKといった大企業をはじめ著名な企業の給料も初任給で1,000万円は普通という状況なので、それは許容範囲かもしれないが、家賃だけで年間400万円が消えていく現状はどう考えてもおかしいのだ。 それだけではない。 社会保険制度がないアメリカは、医療費も原則個人負担。この地に限ったことではないが、家族4人が日本の社会保険レベルの保険に加入すると月々の支払いは$1,500(15万円)を超える高額だ。 これに子供の養育費、交通機関が発達していないため、夫婦で最低2台の車の保有が必要になることを考えると、この地で生きていくことは至難の業である。

全体から見れば、高所得のハイテク企業に就職している住民は本当に一握りで、大多数は言い方はオカシイかもしれないが普通の一般庶民だ。収入にしても全米平均(約400万円)よりはましだと思うが、それに近いレンジだと思う。
シリコンバレーと呼ばれるエリアの中心であるサンノゼ、そして最近、IT系の企業オフィスが目白押しのサンフランシスコ周辺は、実は全米でも有数のホームレス(浮浪者)の多い街だ。バレーのどこでも日銭を稼ぐために、ごみ箱を漁ってペットボトルを回収している人を頻繁に見かける。 オバマケアが施行にはなっているが、高額な医療保険を払うことが出来ず、ガンになってしまったら助かる見込みのない人が多数いるのが現実。ガソリンリンスタンドやモールの駐車場の片隅には、靴や洋服のドネーション用のBOXがあちころに設置されている。低所得者家族への寄付の為だ。そして、低所得者層の多い自分の自宅周辺は一つの家に2,3家族が同居するのが普通になっている。

 実は、これが世界で有名なシリコンバレーの現実である。

なので、この地で生きていくためには、給料のたくさんもらえる大会社、もしくは優秀な会社に就職する必要がある。このような会社は給料に加え、しっかりした社会保険制度や付加的な年金プランを提供してくれるが当然誰もが就職できるわけではなく、優秀な人材に限られるため、そこには熾烈な就職競争がある。特に中国やインド、それ以外の特に東南アジアからから移民してきた人々にとっては、正に、こちらで良い会社に就職すること、もしくは有望なスタートアップで働くことが生きるための必要条件になるのだ。
とにかく猛烈に必死に勉強する。自分の知る範囲だが、このエリアに文系の子供はよほど裕福な家庭の子供以外存在しない。文系の学位を取ってもこの地では就職できない状況を把握している親の配慮だ。当然仕事に就いていても、さらなるレベルアップで学校に通う人も多い。加えて世界中から一攫千金を求めて優秀なエンジニアが集まってくる状況もあり景気が良くて需要があるといっても、仕事を手にできない人も実は多いのだ。このエリアの失業率は全米の平均を上回っているとの報告もある。

シリコンバレーは海外から見ればIT産業の聖地であり、日本からも、多くの若者、腕や才能に自信のあるエンジニアが「この地でのバラ色の生活を夢見て(というのは大げさかもしれないが)集まってきている。また日本に顕著な企業からの駐在員も最近は非常に目につくようになってきた。しかしながらそんな日本人を迎える環境は、世界中、特に東南アジアから集まってくる本当にハングリーな連中との熾烈な戦いを強いられるのが現状だ。そしてその環境で生き延び、成功を手にすることは非常に難しいとも言える。才能はもとより、生きる為の術、そして精神力も必要になってくる。

このような現実から見れば、日本独特の駐在員制度でこちらに来ている日本人は、少なくとも会社が住宅費や保険、またまた車など全てをサポートされるパターンが基本なので、大成することは先ずないだろう。生活の不安がない日本人と真剣に生活の為にしのぎを削っている、PCが金に見えるような他国の人達とは、その気質に歴然の違いがある。

シリコンバレーをめざし日本から来る若者たち、彼らにとっても、成功にはかなり高いハードルと熾烈な争いを強いられる事になる。なので、先ずこのあたりの認識を少なからず持ってもらいたいと思うのだ。
こちらに来る事を否定しているのではなく、このような環境で勝負してくという事が事前に理解できていれば、それなりの準備と無駄な労力と時間、余分な費用をかけることなく、新たなチャレンジができるのではないかと思う。
この現実をうまく利用し、世界から集まっている優秀な人材を生かしたチームを作るという事も十分に可能だ。 加えてハングリーな連中に負けない「絶対に成功する」という高い志を持つことは絶対に必要。

今のようなバブリィな状況の中、当然チャンスは山のようにある。一攫千金も夢ではない。なので、シリコンバレーに進出を目指す皆さんには、敢えて上記のような現実を理解する事によって志と夢実現に向けての構想を新たにしてだければと思う次第だ。

進化するという事

少し前になるが、ビジネスパーソンとしての大先輩が代表を務めるDISCOのアメリカオフィスを訪問した。KIRU, MIGAKU, KEZURUを究極まで極め年商1,000億円をたき出す世界を代表する優良企業。その先鋒として、まだシリコンバレーという呼び名もなかった1969年に同社は早くも、ここにオフィスを設立し、半導体産業の隆盛とともにがっつり市場に食い込み、業績をゆるぎないものにしている。その同社が、これからも半導体では市場のステークホルダーになるであろう、この地において、どのようなマーケティングとR&Dを構築して、将来展開をしていくか、このあたりを中心に貴重な話を伺った。

やはり凄い!

少数精鋭で、日々の営業活動をこなしながら、しっかりとしたテーマを持ち、次世代の半導体、MEMS、MICROバッテリーといった分野へ積極的なマーケテイング展開。特に、この手の分野でメジャーな大学とは連携を中心に新技術におけるアプローチを早い段階から実施、また同分野のスタートアップ企業に対しては投資も含めた技術連携のアクション。とにかく目先の2~3年ではなく、基礎研究からの参画という、5年から10年先のマーケットを視野に入れたアクションは、本当に見事だと思う。
加えて、マーケットのみならず、会社自身の体質改善にも常に視線を向けている。個人の業績やチームの失敗、そういったものを全て物理的に金銭で評価する「WILL会計制度」。今まで長い間、普遍的に行われてきた社内の制度を徹底的に見直そうという「脱官僚制度」。単純に言ってしまえば誰もがおかしいと感じながらも過去から黙々と続いている稟議書にたくさんのハンコをもらうシステムを見直そう!というものだ。こういうところで社内を従業員みんなで盛り上げようとする運営に後押しされ、最前線では着実に未来に向けてのマーケティングを展開していく会社の運営には感動すら覚えた。

もう一社、やはり友人が代表を務めるY電機のアメリカオフィスでも話を聞いてみた。同社も1985年にはアメリカに会社を設立。以後、半導体用ソケットと中心に民生機器用のコネクターなどで市場を確立している。しかしながら2000年代に入るとアジア勢の攻勢により特に民生機器用の製品を中心に価格競争の渦中にまきこまれ、苦戦を続けながらも、持ち前の技術力で半導体分野ではしっかり大手に食い込み、そこで食い扶持を稼ぎながら、「繋げる」に特化したR&Dを展開。ソーラー用の劣化せず導電性を損なわないコネクターの開発や光ファイバー他、通信ネットワーク系のコネクターにも積極的に展開を試み、その製品は通信系最大手のQUALCOMMにも採用され、近い将来、間違いなく来るであろうCONNECTED CAR向けの安全性の高いコネクターなども開発案件として視野に入れ既にテスラにも実績を作っている。

日本でいう中堅どころのこれらメーカーが日本の大手に依存せずにある程度の規模を維持、発展させていくためには、やはりグローバルな展開が不可欠であるという事を、彼らのアクションが如実に物語っている。 そして現状を十分に理解し将来的には日本にある母体をも含めて、それを牽引するための展開をこのシリコンバレーで行っているところが非常に重要なポイントであり、これを実践している彼らは間違いなく次世代に残っていくことのできる会社だなと思う。
加えてそれぞれ既存のコアな技術に立脚しながらも、DISCOは「KIRU、MIKAGU, KEZURU」、Y電機においては「繋げる」に特化して、分野を超えたR&Dとマーケティング展開を行う事によって彼ら自身も改革を加えながら進化していくことをテーマに動いている。
このように時代の流れやトレンドに立脚して進化を遂げていくことが出来るか?という事が、これからの時代を生き抜くためには不可欠だと思うのだ。

自分は今まで今回紹介した中堅企業の下支えもしているであろう多くの中小町工場の皆さんと会い、議論を戦わせてきたのだが、未だにその多くが自分たちの持つ技術のみ、もしくは製品のみを前面に打ち出し、グローバルな視点で市場を見る前に、そこに胡坐をかいてしまっているな~と感じることが多い。確かにそれぞれの技術は評価に値するものかもしれない。しかし、繰り返し言っているように「技術は売れてなんぼ」、売れなければ自己満足の象徴でしかない。それが今の市場のトレンドに貢献できるのか?もしくはそれに合わせるべく進化させることが出来るのかを、精査してく事こそが、これから先、目先の2~3年ではなく5年10年先の発展につながっていくのだと思う。前回と少し関連するのだが、アベノミクスで余裕があるように見える今こそ、進化するという観点から自分たちの生業を見直すことも肝要だと思うのだ。

アベノミクスの悪影響…

9月の前半は日本出張。10日間の滞在で新潟、富山から大阪、名古屋を回ってきた。夏の残暑も収まり過ごしやすい気候の中、大阪も東京も大都会の盛り場はどこも賑やかで、景気が本当に盛り上がってきたのかな~?という印象を強く受けた。日本で会った多くの知り合いに、このあたりの状況を聞いたのだが、特に今まで付き合いのある中小町工場のオーナー達からはネガティブな話はほとんど出てこなかった印象。ある意味それはそれでいいのかもしれない。。

日本に行く前に、アメリカ旅行中だった友人の子息がシリコンバレーに立ち寄ったので、うちに泊まってもらい色々と話を聞いた。彼は来年大学卒業で就職を早々と決め今は卒業までの時間を楽しんでいるように見えた。昨今のニュースでは新卒の採用が激減し非常に厳しい状況の中、大学生は早い段階から就職活動を強いられているという話ばかりが耳に入っていたので、内定をいち早くもらった彼に「就職活動はかなり大変だった?」と聞いたところ「いや~それがアベノミクスの効果が言われだした昨年ぐらいから、景気がいいのか特に苦労することなく、すんなりと決まってしまいましたよ」という返事。今までネガティブなニュースしか耳にしていなかった自分にとっては、かなり驚きだった。

そう言われてみれば、現在、国際化支援アドバイザーを務めている中小機構から、昨年までは月に1件ぐらいは、ぽつぽつと海外、特にアメリカ進出の相談が持ちかけられていたのだが、今年に入ってからは一軒もない…。あえて海外に販路を広げる必要性もなくなってしまったのか…。
今回、日本で話をした中小町工場のオーナー達も、先述したように以前は少なからず縮小していく市場を深刻に受け止め、何とか海外に活路を見出すという意気込みが、今回はかなり薄れている感じを受けた。これは「あれ?な~んだ国内でも十分食べて行けるじゃん!」的な状況が一般的になってきていることの裏付けにきっと相違ない。

でも、よ~く考えてほしい、アベノミクスの真髄とは何なのかという事を。
こちらのニュース、また欧米からはアベノミクスは単に円安に支えられた輸出型企業(特に影響力の大きい自動車、機械産業)の隆盛だけで、明確な成長戦略もない骨抜き政策だと言われている。
正直自分も、将来に向けて可能性のある日本の成長戦略は何か?未だにわかっていない…。

確かに円安になり10円動けば、それだけでTOYOTAをはじめとした大手輸出企業は為替の利益で簡単に何百億もの利益が転がり込んでしまう。これが市場に回れば少なくとも、関連の協力工場には十分な利潤がもたらされることになるであろう…。
でもこの状況に甘んじていていいのだろうか??円安は逆から言えば、エネルギーや原材料をはじめとした日本への輸入品のコストを押し上げていて、その負担増は否めない。加えて「国内でも食えていけるじゃん!」的な風潮によるグローバル化に対するトーンダウンは少なからず将来に悪影響を与えてしまうと思えてならないのだ。

食べていける状況であるなら、なおさら今のうちにグローバルな展開、それも東南アジアではなく世界をリ―ドするアメリカやヨーロッパにFOCUSしての展開を考えてもらいたい。
正直言って、確かに2020年のオリンピックに向けての内需は拡大するかもしれないが、原発の問題も明確にクリアされず、現時点での円安による負の影響も否めない現状の中、国内の隆盛は極めて厳しい状況になると考えたほうがいいような感じも受けるのだ。

自分は、かつてブラウン管テレビで世界を席巻し牙城を築いてきた大手TVメーカーが、その既得権に胡坐をかいて、キリギリスのごとく、うかうかしているうちに、薄型TV に市場が移行した途端、そのツケが回って、あっという間に韓国、台湾勢に市場を駆逐され、玉砕してきた生生しい状況を目の当たりにしてきた。 その経験則からもアベノミクスは確かに景気隆盛のキーワードとしては良いかもしれないが、そこに甘んじている事による悪影響も間違いなくあるという事を理解してもらう必要は絶対にあると思う。
その理解のもとに、「どうすべきか」という事を今時点から是非再考してもらいたいと切に願う次第だ。

グローバル化の方法を再考してみよう。

7月に日本から来た視察団体のアテンドをした。今回は以前より交流のある八王子市の町工場のオーナーたちが参加するという事もあり、せっかくの機会なので自分としても有意義な訪問にしてもらうべく盛りだくさんのスケジュールを組んで対応にあたった。八王子の町工場のオーナー4人に加え青森県から2社のオーナーも参加、計6社の代表が顔をそろえた。業務としては板金、切削加工、鋳造など基礎技術を持ったところが中心で自社製品を持った会社もある。
訪問の内容としては、シリコンバレーの代表的なスタートアップ企業の訪問をメインに、この地で頑張っている製造業のスタートアップとの意見交換、日本で中堅の電子関連企業で独自技術を武器に奮闘している企業の視察、現在のシリコンバレーの下支えをしている同業の加工メーカーの訪問に加え、せっかくの機会なので、こちらで活躍しているベンチャーキャピタリストに参加各社の自社の製品や技術をプレゼンしてもらうというイベントも盛り込んでみた。

さて、今回のイベントのメインとしてセットアップしたのは代表的なスタートアップの視察と意見交換という事でテスラモーターズへ。同社のプロジェクトマネージャーを務めているTさんに会社の概要、企業戦略、そして独自の製造プロセスとマーケティングの手法などにつき説明してもらった。これは本当に素晴らしく自分にとってもかなり勉強になる話で、さぞかし参加メンバーにとっても刺激のある内容だったに違いない!と確信していたのだが…。

なんと、青森から参加した2社のオーナーはテスラモーターズを知らなかった…。

実はスケジュールについては事前に決定の上、主宰者側にも報告をしていたのだが、それでも事前調査すらしていなかった様子。。。。。その2社のうち一社は切削とメッキ加工を行う会社で、メッキ加工に関しては、独自の複合メッキ技術で平成24年度の戦略的基盤技術高度化支援事業にも採択されている。もう一社も独自の技術で雄型だけでミクロン単位の裁断技術を持つ会社。いづれもそこそこ面白い技術を有しており、テスラモーターズに関して言えば同社が主力としているEV用のバッテリー生産に関し、例えば導電性の高い接点を確保できるメッキ技術とか、その内部に使用するフィルムなどの部材の裁断に関して彼らの技術に興味を持ってもらえるチャンスはあったと十分考えられるのだが、テスラの存在すらわかっていなければ、当然、そのような部分にリサーチはおろか会社の内容も理解できていない訳で、正直なところテスラ訪問という千載一遇の、うまくいけば自社技術をPRできたチャンスを全く逃してしまったわけだ。勿論興味をも持ってもらえる可能性も不透明だけど、テスラは従業員6,000人規模の世界最大のメガバッテリー工場の建設も年内に予定しており、その機会損失は本当に残念でならない。

またVCへのプレゼン。会社のオーナー達がいかに自社の技術やメリットをしっかりと把握しPRできるかを本場のVCに評価してもらうという事を目的としたのだが、 自社製品をもつ1社のプレゼンで同社は独自の技術によって開発した特殊センサーを紹介、その製品の特長として「測定したデータは随時システム内にメモリーでき、microSDに保存が可能です」と説明。VCからは「それはワイヤレスでデータ送信ができたらいいですね」という指摘をもらっていた…。

う~ん、これも今のトレンドをわかっていないのかな???という印象…。

少なくとも今年に入ってから産業のトレンドはBIG DATAにIOTというキーワードで盛り上がっており、この分野に携わることが自社製品の評価につながってくる現状を考えると、VCからの指摘を受けるまでもなく、そのようなトレンドを視野に入れての製品開発を考え、例えば測定したデータは随時BLUETOOTHなどで、スマートフォンのアプリと連動して、それをもとにコントロールが可能になるような機能が実現されていれば(今更マイクロSD にデータ保存ができるという事が時代に即していないという事がわかっていれば)、特に独自の技術を駆使した特殊センサーであれば、今後需要の見込める環境分野、オートメーションとクリーン化による新たな農業分野、また機密性の高い室内空調機器のモニターとして、期待が持てるはずなのに、、ワイヤレス機能がないがゆえに今の流れに即しておらず、陳腐化した製品で終わってしまっているのが本当にもったいないと思う。

というわけで表題に戻ると、皆さんはグローバル化というものをどのように理解しているか?という事だ。この言葉の意味は言うまでもなく国際化、もしくは世界を視野にいれた自社(個人)の展開という事になるかと思うのだが、何も海外に足を延ばし、現地の状況を理解することだけがグローバル化ではない。勿論、それは非常に重要なことでもあるが、日本に居ながらにしてもグローバル化に向けてできることが沢山あると思うのだ。今回の参加各社の例を見るまでもなく、少なくともこちらでは毎日NEWSの話題に上っているテスラモーターズの存在は、ロイターやブルーンバーグ、ウォールストリートジャーナル等の日本語版NEWSの配信をチェックしていれば逃すはずはないし、同社のWEBページで彼らの会社の詳細を把握することは十分にできる。その内容から自社の技術が売り込めるのかをリサーチすることは十分に可能だ。同じように産業のトレンドであるIOTやBIG DATAの状況や盛り上がりをキャッチし把握していれば自社の製品開発にそれに即した内容を盛り込むような開発も考慮でき、世界に打って出る製品を作る可能性も生まれてくるわけである。 技術はすでに確立されているのだから、それをどう展開していくかによってグローバルな展開は十分に可能な訳だ。

結論はいつも同じようになってしまうのだが、グローバル化に関しても本気で考えるのであれば、日本国内にいても、できることは沢山あるという事を意識し、常にアンテナを世界のトレンドに向けることによって、自分たちの持つ優れた技術を世界に通じるものに仕上げ行くことが可能だという事を、是非、再度考えてみてもらえればと思う。

大企業菌に感染していないか?

先日、TESLAに勤める友人と食事をした。彼の会社はご存じのとおり今飛ぶ鳥を落とす勢いてバッテリーでEV市場を席巻しようとしている。その中にいて彼自身も超多忙、正に骨身を砕いて働いている。新しいプロジェクトで全米はもとより、世界中を飛び回る日々。そのスケジュールも会社の規定でたとえば日本であれば、土曜日の夕方のFLTでこちらを発ち日曜日の夜遅くに到着。そのまま翌朝の月曜日から仕事をはじめ、金曜日まで目いっぱい働き、その日の夜中のFLTでアメリカに戻ってくるそうだ。同日の夕方にはアメリカに戻れるので、その週末はあるが、また月曜日からは激務が待っている。飛行機は当然エコノミークラス。出張が立て込んでくると戻ってきた週末の日曜日から又出かけなければならないことが多々あるそうだ。 同社では、総帥イーロンマスク自身が、彼を含めた実働部隊のマネージャーを集めたミーティングをほぼ毎週のように実施。 プロジェクトの進行状況の確認を行い、達成できていないものに対してはチーム全員の解雇を含めた厳しい要求を突きつけるそうだ。それが実行されることもあるという事で、彼自身いつも戦々恐々としている部分もあるのだが、それでも将来に向けて奮闘してる姿が印象的で、やはり「世界を獲りにでる企業はこういうものなのだな」と感心すると同時に改めてビジネスの厳しさと醍醐味を考えさせられた。
実はその数日後、やはりインターネットルーターの最大手、CISCOでLSIの設計をしている友人に最近音沙汰がないなあ~、と連絡したところ、彼も今同社が掲げる「IOE(IOTに対抗してCISCOは独自にINTERNET OF EVERYTHINGを標榜している)」のプロジェクトに入り、時差を利用してスピードと効率化を高めるためにインドにある設計チームと共同で作業をしているため、こちらの仕事が終わると夜遅くからインドチームが動き出し、夜中でもお構いなくメールや電話が入り、そのやり取りに寝る暇もないという…。
世界の覇者となった同社でも猛攻してるく競合他社に対して生き残りをかけて、死に物狂いで前進しようとしている凄まじさ、そしてパワーは物凄い。日本や他の国から見れば華やかに見えるシリコンバレーの企業は実は、このような熾烈な争いと高い志を持って日々切磋琢磨されて成り立っているのだと痛感した。

という訳で付き合ってくれそうな仲間もおらず、さみしい思いをしていたのだが、たまたま日本から、これも外資系スタートアップの日本代表で新規プロジェクトのため死にそうになっている友人がこちらに来るという事で労をねぎらおうとサンノゼの居酒屋で一献。金曜日だったので、お店は満席。自分たちの隣の席には8人ぐらいの日本人の団体。IDをそのままぶら下げているので、PANAの社員であることがわかる。お酒も入って、大声の彼らの楽しそうな会話が耳に入ってくるのだが「いや~週末を挟む出張はいいね~ゴルフ出来るし!」「この前のNYでは、シガーバーによってね。姉ちゃんもいたし、煙草も吸えてよかったよ~」「飛行機のアップグレードはごねるに限るよね~、そうそうマイレージも溜まってきたのでそんな必要もないけど…ははは~」…。と終始そんな話で盛り上がっていた。まあ勿論、金曜なのでガス抜き大いに結構なんだけど、

この違い…いったい何なのだろう???

彼らの飲み会は、潤沢な内地手当や家賃をはじめとした生活補助を得て、責任のある業務をなるべく回避しながら陽光のカリフォルニアを赴任期間中にエンジョイしているとしか見えない現地駐在員プラス旅行感覚の日本からの出張者の集まりだったのだろう。勿論、駐在員の中には日系企業で中小規模サイズの現地法人の社長に何人か知り合いがいるのだが、彼らは5年10年先の会社の将来を見据えて、事業立案に奔走してたりしている。
なので、こんなに余裕があるのは言い方を変えれば大企業の皆さんに限ったことかもしれない。 それにしてもツガノミクスとやらで業績が少しは上向いているような同社でも、まだまだ予断を許さないばかりかコンスーマー事業の立て直しは急務のようにも見えるのだが、そんな雰囲気などは微塵も感じられなかったし会社の愚痴も一つもなかったように記憶しているので多分、危機意識などは毛頭ないのだな~。逆に羨ましいな~と妙に納得したのだが、日本から来た友人も「まあ日本の大企業なんてそんなもんだよ」と話していたのが印象的だった。。

考えなくとも余計なお世話なのだけど、こんな光景からも日本の大企業は完全にダメなのかな。。。という思いを新たにしてしまった。会社の業績不振を理由に社長を退いたのに会長に就任する社内制度と、それを容認する株主や社員。日本を代表する看板企業の存在をメチャクチャにして存亡すら危ぶまれる状況にしておきながら平気で3億6千万もの報酬を得ている社長と文句を言わない社員や株主…。やっぱり何かおかしい気がする。そんな会社の社員にも、よく言われる大企業病を発症する大企業菌(本格的に発症しているかわからないので、あえて菌という言い方で)が既にいきわたってしまっているような印象を受けたのが残念だった…。

ところで、もうそのような大企業の人達はあきらめるとして、このような会社と取引をしている中小町工場の協力会社の皆さんは、まさかこの菌に感染はしていないだろうか? 仕事が来なくても「まあ、大手と付き合っていれば、きっと何とかしてくれるだろう。それまでは補助金で食えそうだし…」、自分から営業しなくとも「そのうち、いろいろ取引先を紹介してくれるだろう」みたいな感覚を持っているとしたら、それは既に罹患しているかもしれない…。
世界、特に華やかなりしシリコンバレーの大企業は日々是決戦!そのすそ野を支えている協力工場も弱肉強食の世界。常に熾烈な競争と切磋琢磨を義務付けられている。これを怠れば消え去るしかないのだ…。
「もしかしたら?」と感じたら、先ずこちらに来て現地の雰囲気や状況を自分の目で確かめてみてはいかがだろうか?間違いなく除菌の効果はあるはずだ。

可能性は必ずある!

考えてみたら先月(5月)で、在米26年になった。これは自分にとって人生の半分をアメリカで過ごしたことになり、これから先はアメリカ在住が続く限り、アメリカでの生活が長くなる。本当に気が付いてみるとアッという間だった。カリフォルニアには「カリフォルニア呆け」という言葉があって、季節感があまりない、極端に言えば夏と冬しかない=1年に季節を2回しか感じられないということで季節の変わり目を4回感じられる日本と比べれば1年の経過が半分に感じられてしまうというものだが、これは間違いなく当たっている気がする。
26年前の1988年5月、私は神奈川県の従業員100人に満たない町工場の駐在員としてアメリカに赴任した。当時の日本はベンチャー企業というのが、ちょっとしたブームで、たまたま自社で製作していたシステムが日本で大当たりし、海外も視野に入れた展開を進め、その一環として当時代理店をしていた三菱商事との合弁というかたちでアメリカにオフィスを構えることになり、営業メンバーとして乗り込んできたのがアメリカ生活の始まりである。


1988年、最初の会社のメンバーと共に。

アメリカに来て驚いたのは、「良いものは良い」という事を口座開設や保守的なしがらみなど関係なく素直に受け入れる市場のスタイルだった。三菱商事が担いでいたとはいえ、従業員100名にも満たない町工場の商品を、紆余曲折(特にローカライズ)はあったものの、当時はまだ通信業界の覇者だったAT&TやMOTOROLAなどが採用してくれたのだ。勿論、APPLEも、その頃はアメリカで生産をしており、興味を持ってもらったし、PC関連ではハードディスクのSEAGATEやWESTERN DIGITALにも納入、当時は、まだできたてのほやほや会社だったCISCO SYSTEMSにも製品を評価してもらった記憶がある。残念ながら親会社の失速により、10年後の1998年に会社は倒産、そのあおりを受けてアメリカ現地法人も清算を余儀なくされてしまい、帰る場所を失ってしまった自分は、そのままアメリカにとどまる決意をして今日に至っている。
自分的には、その時の経験から少なからず日本の技術や製品をもってすれば、シリコンバレーの先端産業に食い込みグローバルに展開できる可能性は十分にあると思っているのだが、26年を経た今でも、その気持ちは変わっていない。そんな思いもあり、何とか日本の中小町工場の皆さんに、その「気づき」を与えられればという事で、このBLOGを続けている(不定期だけど…)。

実は先般の日本出張では茨城県のひたちなか市で少しお話をさせてもらったのだが、参加してくれた企業の皆さん、さすが(というと語弊があるかもしれないが)日立のお膝元という事で、かなり面白い技術や製品をお持ちの会社が多いように感じた。特に自動車系、エネルギー系に関連したところも多く、うまくOUTPUTさえできれば可能性は十分にあると思った。
なぜなら現在の市場で注目を集めているのは、今まで何十年も大きな変更なく黙々と需要のあった自動車というものの在り方が根本的に見直される時期が来ている点、エネルギーでは石油依存からGREENTECHへのこれまた大きな変換期であり、世界的に省エネをどのように実現していくかという点だと思うからだ。 特に車に関しては昨年あたりから世界中の大手や新興国の企業が新しい市場を求めてすごい勢いでFOCUSしている。 そして、これらに関連したモーター技術や電池、電力関連の技術は日本が完全にイニシアティブをとっていた分野だ。

このようなニーズに自社の持つ技術や製品が合致するかを先ず見極め、うまくPRする事ができれば、必ず新しい展開ができる可能性がある。勿論その為のR&Dが一番難しいところだし、時間と金を費やさなければならないかもしれない。もし自社での展開が無理なのであれば、既存の国内のしがらみから抜け出し、新しい海外のパートナーを見つけてみる、またマーケティングやセールスのプロに任せるというのも作戦だ。 真剣に考えてみる価値は高いと思う。

最近、拝読させていただいた中小企業の状況に詳しく「ものづくり」にも精通されているサムソン電子元常務の吉川先生の著書のなかに「現在の日本のものつくりにおいては、<つくり>が前面に出てしまい<もの>に精通していない事が多い…」という内容があったのだが、自分も全く同感。要はこのブログでも再三取り上げてはいるが、とにかく需要のある「もの」を見つけ、それに立脚した「つくり」を実現することが肝要!それによって「可能性は必ずある!」と自分のシリコンバレー生活26年からの経験則ではあるが、あえて断言したい!

付加価値を考えてみる。

自分が子供の頃(だいぶ昔の話になるが)、進駐軍に勤めていた母がよく「会社のアメリカ人たちはみんな日本のコーヒーは美味しいって言うのよ。アメリカのほうがコーヒーは一般的なのにねぇ…」、とよく話していたことを覚えている。兵隊さんたちが日本の店に入って飲むコーヒーの事を多分言っているのだと思うが、確かに喫茶店のコーヒーといえばサイフォンで淹れられた本格的(?)なもので、当時の喫茶店には、普通のコーヒーのほかに薄めに入れられたアメリカンコーヒーというのがあったと思うのだが、勿論、味的には圧倒的に普通のコーヒーのほうがRICH(自分も喫茶店でバイトをしていた際に普通に淹れたコーヒーにお湯を足して薄めて量を増やしてアメリカンコーヒーとして出していた)なので、アメリカから来た兵隊さんたちが普段飲んでいる、お湯に味(というか色)がついた)ものと比較すればRICHなコーヒーは美味いと思うのも当然だろう。

自分がアメリカに来た25年前はその逆で、レストランなどで飲むコーヒーが、どこで飲んでも不味いのに閉口したものだ。おまけに当時はアイスコーヒーというものは存在しなかった。レストランでアイスコーヒーを頼むと「アイスコーヒー???」とウェイトレスに怪訝そうな顔をされた。それでも日本でアイスコーヒーを堪能していた自分としては「じゃあコーヒーとアイスを持ってきて」と言って無理やりアイスのグラスにコーヒーをいれてみるのだが、当然あの薄いアメリカンコーヒーがICEでさらに水っぽくなって美味しいはずがない。ウェイトレスがイメージしていたのは、正にこれだったので(というかそれしか知らない訳なので)、美味くないものをなんで頼むんだろう??という事で「こいつ変わってる」と思われても仕方がなかったわけだ。

ところが1990年代前半にシアトルで80年代からエスプレッソコーヒーを主体にしたコーヒーショップを展開していたターバックスが上場を機に全米中に普及しはじめ、瞬く間に市場を席巻したばかりでなく、コーヒーの常識も変えてしまった…。日本では昔から普通に飲まれていた濃いコーヒーとバリエーションをもったアイスコーヒーの数々でアメリカ人を虜にしてしまったのだ。
余談になるが、シアトルに行くと、どんよりと天気が悪く、いつも寒いという印象(こんな気候だから外で派手にするアクティビティより家にこもってもできる娯楽が中心になって、ソフトのエンジニアも育ちやすくMSのような会社が育ったんだな~何て個人的には考えてみたりしてます…)、そんな中で夜間のドライバーたちは眠気を覚ますのに濃いCOFFEEが必要だったのだろう。当時(80年代の終わり)に出張に行くと、給油に止まるガソリンスタンドには必ずエスプレッソコーヒーとカプチーノが販売されていた。この環境が同社のもともとのモチーフになったのかもしれない。

さて、だいぶ昔の話をだらだらと書いてきてしまったが、今回言いたかったのは、付加価値を考えてみるのはどうか?という事だ。実は2年前から携わっている三菱のプロジェクト、日本では既に当たり前に使用されているインバーターエアコンを本格的にアメリカ(メキシコ)で生産し、市場に食い込もうというもので、これがかなり大当たりしている。既に業務用のエアコンに関しては昨年より供給が追い付かない状態。この流れをさらに一般家庭用に普及させていこうという計画だ。
アメリカの空調システムはご存じのようにセントラルエアーコンディショニング(HVAC)。部屋の大きさも然ることながら一か所でコントロールされた暖房・冷房を各部屋に分配するシステムなので、人のいない部屋まで暖めたり冷やしたりと不効率な事この上なく、加えて本当にコストがかかる。電気代やガス代が安かった昔ならまだしも、下手に暖房を消し忘れて外出などしようものなら、数万円の電気/ガス代は当たり前だ。そこに目をつけ、最新の技術を駆使して、各部屋の温度調整を可能にするデバイスを開発し、これをスマートフォンでコントロールするという付加価値をつけて大成功したNESTがGOOGLEに巨額で買収されたのは記憶に新しいが、今、その根本をインバーターエアコンによって各部屋の温調を自動で制御するという付加価値を持った製品で席巻しようとしている三菱をはじめとした日本勢も、特に新しい開発(勿論、アメリカ市場向けのローカライズ必要になるが)を施すまでもなく、新たな市場開拓を実現できると思われる。考えてみれば先にこのブログで日本の家電の可能性について書いたことがあるが(2012年8月「家電があるじゃないか!」)、ダニを吸い取る掃除機、ビタミンを増やす冷蔵庫等々、可能性のあるものは、たくさん存在すると思う。

スターバックスは今まで変化のなかったコーヒーの常識に、味の濃さとICEコーヒーのバリエーションという付加価値をつけて大成功した。NESTも同様。そして日本の家電メーカー各社も三菱のように、アメリカの大市場に食い込むここが十分に可能な感じがする。
同じように中小町工場の既存の製品や技術の数々も、少し見方を変えたり、市場を変えてみたりすれば少なくともアメリカでは常識と思われていることに付加価値として加えられるレシピがたくさんあるように思えてならない。もちろんそれにはこちらの市場をリサーチすることが重要になるが、ぜひそういう見方も加味して視察や調査などをしていただくことをお勧めしたい。

「技術は売れてこそ価値がある」という認識

2月と3月は、日本の中小町工場の若手オーナーたちをはじめ、JETROでお手伝いしているイノベーションプログラムの参加企業、そして若きメーカーズのリーダー達など多くの方々と会い、色々と意見交換させてもらった。自分にとっても、ものすごく勉強になる話をたくさん聞けたばかりでなく、これからの日本の将来に対し海外にいる自分たちはいったいどのような応援ができるのか?何を持って貢献できるか?という自分の志のヒントになるような内容も数多く含まれていた。
そんな中で強く思ったのは、以前からこのブログで何回も触れている「技術は売れてなんぼ」つまり「技術は売れてこそ価値がある」という認識の重要性だ。
以前、自分のメンターでもある方との会食の際に日本の製造業の行く末において、この言葉を伺い自分も激しく同意すると共に、このあたりの意識改革が重要という事で大いに盛り上がり、それ以降、事あるごとに表現を変えて、この認識を主張してきたのだが、今回、製造業に携わる色々な皆さんの話を聞いて、これは「もっとストレートにも主張すべきだ!」という思いを新たにした。

以前、日本で航空宇宙関係や原子力関係の仕事に携わっているような高いレベルを持つ日本の町工場の皆さんの視察のお手伝いで、シリコンバレーの板金、切削加工を行っている工場に案内したことがある。中国人経営のその工場は、お世辞にもきれいとは言えず、日本ではもう見なくなってしまったような古い切削機や旋盤を使用し、もちろん5Sなどとは無縁の環境で作業をしていて、現場を見た皆さんからは口々に「よくこんな工場に発注するお客さんがいますね…」、「製品の仕上げはかなりいいかげんですね」、「品質の基準はきちんとできているんでしょうか?」など口々に言いたいことを言っていた。しかし、実際には半導体製造機器の大手アプライドマテリアルやインテルからこの工場は仕事を取っていたのだ。 つまり彼らのスタンダードでは重要と位置付けられている5Sや過剰品質は、業界の最大手で先端を行く企業から仕事を取ることには、あまり関係がないという事を裏付けていたわけである。
そして、この話には続きがあって、あまりにもお連れした皆さんが、「うちのものづくり技術なら何でもできる」的な主張をするので、この工場の中国人社長に「彼らは凄く難しいものでも作れると言っている。もし何かオタクの技術や設備で不可能な製品の依頼がきたら彼らに依頼してみてはどうか?」と話したところ、果たして後日その工場長が、少しばかり複雑な曲面加工のある大型の切削部品の依頼をしてきた。そこで、先の視察に参加した工場5社に投げたところ、結論はというと結局できる会社は一社もなかった…。確かに技術的にできる会社は2社ほどあったのだが、価格は途方もなく、納期も全然要求には合わないものだった…。
この結果から見るまでもなく、どんな素晴らしい技術があっても条件がそろわず売れなければ価値はないのだ。

お手伝いをしているJETROのイノベーションプログラムに採択された企業は、25mのプールにコップ一杯の液体を入れてもその成分を解析してしまう、吐息からその成分を解析しガンを告知できる、そして次世代の金属結合方法で、従来の冷却装置(ヒートシンク)の概念を変えてしまう新しいヒートシンクや熱交換器の従来サイズを数十分の1に縮小できるなど、とにかく聞いていてワクワクしてしまうような技術をお持ちなのだが、当然、先ずマーケットがあることが前提になるし、その技術が適正な価格でニーズに確実にマッチするかといったような、いくつもの要因が必要になるわけで、これらがクリアされなければ製品は売れない。やはり技術は「売れてなんぼ」なのである。

かたや今回話をしたハード系スタートアップの若者たち、例えばMoffの高萩君の製品は独自の技術に立脚したものではなく、極端な言い方をすれば、あるものを組み合わせたイメージが強い。ところがその組み合わせを独特の感性とマーケティングデータによって具象化し、さらにワイヤレスとウェアラブルという最新のトレンドをつなげる事によって、あっという間にクラウドファンディングで$70,000近い資金を集めるような有望な製品に仕上げている。つまり現状では、このようにマーケティングオリエンテッドという状況が明白なのだ。

それだからこそ、中小町工場の皆さんで独自の技術や既にオリジナル製品を持っているのであれば、売りこめる市場を見出し、それに関するデータを集めR&Dによってさらに洗練し、そして最近のトレンドにもうまく立脚させることが可能なら、技術的には十分アドバンテージがあるのだから、とてつもない製品や商品が生まれるチャンスがあるのではないか?とさらに強く考えるに至った次第である。
つまり「技術は売れてこそ価値がある」という認識を新たに肝に銘じることによって、マーケティングを基軸とした戦略を考えて、是非、新しい可能性に挑戦してもらいたいと思うのだ。