相互関税を武器にできないか?

 相変わらず確定を見ないトランプ政権による相互関税政策。日本は現状15%にはなったものの、この先も状況が変わる可能性もあるという事で、自分の顧客の多くも、このあたりが明確になるまでプロジェクトの延期や計画の見直しをしており、正直なところ自身の生業に影響がかなり出ている。日本のNEWS報道を見ても自動車関連では、その影響は顕著で大手自動車メーカーを中心に減産や米国における生産の延期等の話題に事欠かない。特に大手に依存しているTier1企業をはじめ、さらにその下流の中小町工場にとっては親元に準じて、その判断(決定)を待つしかないのが現状のようだ。かくいう自分も前述した通り、かなりの影響を被っており常に自転車操業の弊社においては1社の計画延期が大きなインパクトになっている。かといってこのまま指をくわえて状況の収束を待っていたら、当然業績も低迷してしまうのは必至の状況。そこで、実際のこちらの製造業の現況や現時点での相互関税の状況などを含め対アメリカの、これからの動きについて考えてみた。

 まずトランプの最大の目標である雇用確保のための製造業のアメリカ回帰だが、これはもう100%、この先数年で大きく変革するとは思えない。理由は単純で、1980年代のプラザ合意でドルの価値が下がり始めた時点で米系企業をはじめ日本を含めた多くの企業が海外、特にアジアや南米に製造拠点を移し始めた時代から培われてきた地政学的な製造インフラは簡単に覆ることは不可能に近いという事。また2000年代にインターネットの普及により急速に広がったグローバルサプライチェーンの構築が今の製造インフラの中心になっていることも、安易にアメリカへの製造業回帰には繋がらないだろう。例えばAPPLEが自社製品の製造をアメリカに移すとしても、生産のために使用する設備は少なくとも半数以上が海外メーカーのものだし、実際に製造を始めるにしても原材料に必要なアルミやステンレスは現状約40%は海外からの輸入品で50%の課税対象だ。また使用する部材の殆どはアメリカ国外で生産されているので、生産各国に課せられた相互関税がプラスになる。加えて製造業におけるアメリカの人件費はシリコンバレーで現状約$25。そして最近はしたたかな製造メーカーの国内生産需要増加に伴う便乗値上げなどもあり、このような状況で製造を移したとしても、そんな高額商品に需要が継続するとは到底思えない。
 そこで、具体的にこの状況で何ができるかだ。

 相互関税だが、メインでアメリカへの輸出額の多い国で考えてみると日本は15%で、中国は確定していないもののベースの10%に加えIEEPAの追加20%に相互関税の10%でトータル40%、ベトナム20%、台湾は30%、インドは50%の適用で、日本とって、これはある意味ポジティブに考えれば今まで対米輸出製品の競合であった中国をはじめとした国々よりアドバンテージがある事になる。また今の状況が続けばだが円安も大きなメリットだ。この状況を何とか武器にできないか?例を挙げれば半導体製造装置メーカーの最大手、アプライドマテリアルズは自社生産している設備に使用する中国を中心としたサプライヤーから輸入している部材総額は少なくとも年間2000億円以上。可能性として、そこに食い込むこともできるかもしれない。実際、自分が現在メインで扱っているアルミやステンレスの加工部材も現状アメリカでの輸入通関時に有無を言わさず製品価格の50%を税金として搾取(という表現が良いかも)されてはいるが、それでも、その税額を予め上乗せした見積もり金額を提示する客によるコンペ(依頼数はだいぶ減ってはいるがT_T )での受注率は50%ぐらいで、4月以前の追加関税導入前60%と比べても若干落ちた程度、自分もマンパワーと現在いくつかの大型プロジェクトの影響で、全く拡販や営業展開ができていないが、積極的に実施していけば可能性は確実に増えるであろう。
 勿論、製造事業に特化したものではないが、日本からの対米投資80兆円も少なからず日本の中小町工場にとっても追い風になると期待したい。また企業よる関税回避の米国における製造インフラの立ち上げが急ピッチで進んでいることも事実。例えば2021年より投資が始まり、現在携わっている大型プロジェクトの一つであるT社のノースカロライナのバッテリー工場は、投資総額2兆1000億円で、2030年までに総数10ラインの設備投資が決定している。その年に計画している総生産量30GWhは、概算で200万台分のプリウスPHEV用電池を生産する規模だ。当然、この生産に付随する資材を供給するCELGARD(旭化成)など多くの協力メーカーも現地工場の立ち上げを進めていて、その需要も見逃せない。
 ある意味、投資が確実に見える此れからのアメリカ市場に間違いなくビジネスチャンスがあると思う。もちろん下請けに甘んじて「木を見て森を見ず」的姿勢だと、日本の減産や下方修正のNEWSばかりに滅入ってしまうかもしれないが、今こそアメリカの状況に目を向ける姿勢に考えを質す時ではないか?

 最近読んだ本で特に印象深かった斎藤ジンさんの新書「世界秩序が変わるとき」で彼(彼女?)は、1930年の世界恐慌以前からの日本とアメリカの関係を緻密に分析し、トランプ政権によるアメリカの新自由主義が崩壊する今こそ「日本が復活する千載一遇のチャンス」を唱えているが、いつも地場の状況に密着している現場主義の自分もまさしく、そんな胎動を感じるようになった。もちろん確証はないが、指を咥えて状況を見ているのなら、この機に相互関税を武器に動いてみる価値はあると考えるべきだ!

「演繹革命」を読了して考えた事

大先輩でいつも刺激を頂いている校條浩さんの近著「演繹革命」を遅ればせながら読了。いやいや、なかなか考えさせられることが多い、というか自分の経験からも「その通りだ」と同意できる内容が満載で色々思うところが多く、そのあたりをまとめてみた。
 先ず、校條さんが大企業時代に経験した事は中小企業(というか町工場)に勤務していた自分と全く同じ。自分の場合は若いころにアメリカに駐在員として派遣されたので、こちらの最先端のマーケティングや製造を取り巻く環境等、自分の今までの経験が全てディスラプトされるほどの衝撃で、それを都度、日本に報告しても、当時ベンチャー企業(1980年代の表現。今でいうスタートアップ)の雄として脚光を浴びていたにも関わらず、ガチガチの保守体制の本社には響くどころか「そんな下らん事に時間使う暇あるなら1件でも多く客先回れ!」みたいな、「この広いアメリカで足で稼がないといけないの?」を強要されて、そんなギャップの間で苛まれていた自分と正に被った感が印象的だった(勿論、会社の規模や地位も全然違い失礼かと思いますが^^;;;)。
 そして、ここで書かれている内容は大企業は元より、まさにこの先、益々危機感が高まる中小町工場の経営者にとっては正に必読の一冊だと強烈に感じた。以前から事あるごとに自分なりの表現で言えば「持続的イノベーション」ではなく「革新的イノベーション」の必要性を講演会などで訴えてきたのだが、これは、この著書に書かれている「帰納法」と「演繹法」と同じような事だと(自分なりにです)理解した。持続的イノベーションとは簡単に言えば、年商10億円、従業員30人の中小町工場があるとすれば、5年後も同じ10億円の売り上げを確保し、既存の従業員とその家族の生活を維持していければOK!という考え。特に安定感のある大企業の協力工場(下請け)や失礼な言い方だが2代目以降の経営者にその傾向が顕著で、いままで行政のアドバイザーとして多くの中小町工場の経営者に会ってきたけど、ほぼ100%が、この類の持続的イノベーションの経営方針だった。これに対して革新的イノベーションとは、同じ年商10億円、従業員30人の中小町工場が、先ず10億円の売り上げの利益から少なくとも例えば20%を新規事業開発に充て自社の製品や製造技術をもって新規市場のR&Dを行い5年後の売り上げ計画を一挙に倍の20憶に持っていこうという考え。当然、従業員への利益の分配も減らしてしまうため、その理解をしてもらう事が肝要だが、うまく新規事業開発ができれば、従業員への還元も圧倒的に増えることになる。残念ながらこのような革新的イノベーションの考えを持つ中小町工場は皆無に等しかった。それは、親元の大手企業から「そんな余裕あるならもっとコスト下げろ!」と圧力があったり、大手の下請けとしてぶら下がっていれば、物価が安く医療費等生活コストも安定している日本では十分生活ができてしまう、おまけに困ったときは容易に行政の補助金が活用できる!という現状がある事も大きな要因だろう。しかし、これが将来的に確保できない状況がもう迫っている。今回のトランプ政権による関税政策による日本の自動車産業への影響は衝撃的で、例えば来年3月のTOYOTAの業績見通しで利益35%減の予想や、日産の追浜、湘南工場閉鎖のニュース(2000社近い協力工場に影響!?)をみれば、当然これは同社の協力会社にも波及するわけで、持続的イノベーションでは表現が良いかはわからないが、アメリカのような市場の大国がいきなり規制を変えただけで、もはや行政の補助など全く効果なく、あっという間に経営が崩壊してしまう可能性が、この先も十分にあるという事だ。
 この状況をどう考えるか?やはりピンチをチャンスに変える柔軟な発想を先ず前提に、これを機会に革新的イノベーション、演繹思考に少しでも舵を切れないか?と考える。これも講演会などでいつも主張している事だが中小町工場は少なくとも長年培われた製造技術や自社製品というポテンシャルがある。つまり1を持っている訳だ。今はやりのスタートアップは先ずこの1を作るところから始まる。つまり良く言われる0→1思考が前提だが、出来たとしても1にしか過ぎない。既に1を持っている中小町工場は、それを1→10にする方がはるかに可能性も高いし実現性も有ると思うのだが、如何であろうか??
 過去に何社か紹介したことがあるが、その中の成功例を、また紹介しよう。
茨城県に工場をもつN技研。現在は2代目が社長を務めているが、元々先代が創業した事業はコネクターの端子などを製造する抜き打ち加工メーカーだった。抜き打ちされる小部品は未だに価格何銭の世界で利益確保のためには、かなりの量産が必要だ。当然、抜き打つ為の金型の寿命や製品の精度が製品価格に影響する。そのため技術屋だった先代は、より効率よく精度が良く寿命の長い金型の開発に専念し、それを完成させる事によって、何銭の世界の極小の売り上げの中からしっかり利益を確保することに成功した。そしてその精度よく微細な部品もバリも出さず抜き打ちが可能な金型技術に目を付けた2代目の現社長が、それを90年代以降急速に需要の高まった液晶パネル用フィルムの裁断に可能性を見出しR&Dを重ねた上に応用して裁断用の高性能な金型を開発。ご存じのように数枚のフィルムの間を電子が行き交い画像を映し出す液晶パネルはフィルム同士の間にバリがあってショートしてしまうと不良品になってしまうが、これをバリを出さずに確実に効率的に裁断できる同社の金型は業界で脚光を浴び大成功を収めた。かつて人気を博したC社のGショックに使われてる異形の液晶パネルの裁断は殆どが同社の金型によるものだ。そして2000年代に入りリチウムイオン電池の需要が急速に高まると、同じ原理で数枚のフィルムを積層する構造のリチウムイオン電池でも同じようにバリによるショートは不良品どころか爆発を誘因する可能性も有り絶対に許されない電極の裁断に再び同社の金型と製造技術が脚光を浴び、今ではテスラや欧米のBMWを始めとした世界中の大手自動車メーカーの電池開発部門からの注文が集まっている。
 少なくともこのような可能性は、電子立国だった日本を支えてきた中小町工場には必ずあると自分は考えている。残念ながら、この自分の主張は大分前から同じことを訴えてはいるが、このブログす定期期的に投稿できていない状況で、昨今では、こんな本音ばかり言うものだから、大分敬遠されて(^^;;)日本での講演も大分少なくなってしまったが、同じ思いが「演繹革命」には、より明確に具体的に、そして手法までもバッチリ記載されている。自分の舌代と言ったら余りにも失礼だが、特に中小町工場の経営者には是非目を通していただきたいと思う1冊だ!

もう見たくない日本ブランドの終焉

 今回の日本出張で、ちょっと目についたのは中国のEVメーカーBYDのテレビCMだ。ご存じの通り日本のメディアの大手スポンサーといえば自動車メーカーで、当然、彼らへの配慮からか日本のTV番組では、あまり海外の自動車メーカーの情報やら新しいモビリティ産業、特に新興国の動きなどは殆どメディアに出てこない。そんな中、BYDが日本のメディアのスポンサーとして登場している事は、かなり興味深かった。同時にラジオ放送で偶然BYD JAPAN社長のインタビューを聴いたのだが、CMが功を奏し同社には現在1日200件ぐらいの問い合わせがあるという。そしてバスといえば、三菱ふそうや、いすゞ、日野自動車が主流と思っていたが大手バス会社の副社長を務める友人からも、現在BYDの業務用バスの検討を始めていて近く実証デモをするとの話を聞いた。EVである事、そして価格は現状の3割安との事で安全性さえ確保できていれば十分検討に値するという。彼の会社も老舗のバス会社だけに生き残りをかけての社内改革を実践しており、そこには昔からの付き合いや培ってきた信頼性という繋がりはもう過去の事になっている現状があるようだ。この先、このような市場の変化に呼応してBYDに限らず今SDVで存在を増しつつあるシャオミをはじめとした中国勢、そして世界中のEV各社が今後は日本ブランドの牙城に攻勢をかけてくることは容易に想像できる。

 このBLOGには何度も書いているが、自分は当時メインで携わっていた1990年代まで間違いなく世界で牙城を築いていた日本のTV産業の崩壊を現場で目の当たりにしてきた。1990年代といえば未だブラウン管が主流で、独自のトリニトロン方式を武器にTVのみならずPC用のディスプレイでも世界をリードしていたSONYは、当時アメリカに近接するメキシコに従業員2,000人規模の工場を3つ構え、フル稼働で生産をしていた。またPANASONICやTOSHIBA、SHARP、三菱も同地に工場を構えTVを生産。日系だけで年間1,000万台の生産規模を誇り当時のアメリカにおける市場シェアは40%を超えていた。これがTVの革命でもあった液晶化が始まりTV自身も方式がデジタル化した2000年代に入った途端、わずか5年でLG、サムスンといった韓国勢や中国のHISENSE等、新興メーカーに凌駕され、あっという間に消え去ってしまった。
 今でも覚えているが、確か2005年にSAMSUNGが最初に$600で40”の液晶TVを販売した時(当時SONYのBRAVIAは同じ40”で$1,000以上)、SONYの幹部に「サムスンいきなり凄いですね!この先どうでしょう?」と聞いたところ「いやあ、こういう事されると市場価格が下がっちゃうから迷惑なんだよね。でもうちはブランドも市場もあるし大丈夫でしょ!」と暢気な回答。その後3年もしないうちに同社はメキシコにある2工場を閉鎖に追い込まれ、最後に残ったメインの工場も2010年にFOXCONNに売却して終焉。SHARPをはじめ、他のTV大手も同じ末路をたどっていった。

 今回のBYDの攻勢をみて、正直、TV産業で自分が体験したことが自動車業界でも起きそうな気がしてならない。確かに日本をはじめ世界で確固たる地位を占めている日本の自動車メーカーだが、その地位は果たして、そんなにゆるぎないものなのか?特に自動車とは縁遠くなっている感のあるZ世代の若者たちにとって日本ブランドの自動車は価値のあるものなのか?
 日本のTV産業の崩壊時の2000年代後半に、もう一つエピソードがある。アメリカ在住の自分の同世代の友人宅でTVの買い替えを検討。彼は奥様も生粋の日本人で、日本の民生機器の大会社での勤務経験もあり、せっかく買い替えるのなら日本ブランド!という事で、当時は未だブランド力のあったシャープのAQUOSを購入して自慢げに家に配達してもらったところ、2人の娘たちから「なんでサムスンじゃないの???」と罵倒されたそうだ。実際のところ、日本のブランド力というのは我々が思っている以上に脆いものなのだという事を自分自身も体験してきたが故に、この話を聞いて気持ちは本当に複雑だった事を思い出す。
 
 1980年代の終わりにアメリカに渡った自分は、アメリカ国内での出張で宿泊するホテルの部屋にある電化製品がTVはSONY,ドライヤーはSANYO,電話機はPANASONICと、ことごとく日本製品だったことが本当に誇らしかったが、昨今のホテルの部屋で日本ブランドの品々は残念ながら見たことが無い。当時、降り発つ空港の多くに設置されていた離発着を表示するディスプレイも殆どが日本製だった事は、今の若い世代は知る由もないだろう。
 正直なところ最後の牙城である日本の自動車産業も同じような終焉を迎えてしまう状況だけは見たくないのが今の本音である。

私的スタートアップ考

 CEOとの前職からの関係で昨年の創業当初から応援してきた全個体電池のスタートアップ「LASAGNA ONE」が、シリーズAで$16Mの資金調達をクローズ!素晴らしい!
業界の第一人者だった若手CEOとパートナーが中心となり、$3Mのシード調達から少人数体制での製品開発と限られた設備でのプロトタイプ製造にがむしゃらに取り組み、創業わずか1年で同製品の最大手QUANTUMSCAPEが、あれだけ巨額の開発費をかけても未だに完成できていないと言われる性能に特化した試作品を完成させたことで今回の調達につながった。もちろん正念場はこれから。ますます加速する市場の要求に呼応した製品開発とプリプロダクションのプロセス構築、そして資金力を持つ大手を中心とした競合他社のとのし烈な戦い等、DEEPテック分野ならではの苦労も多いかと思うけど、彼らのパッションとバイタリティがあれば必ず実現できると思う。これからが本当に楽しみだし、資金面では無理なので^^;;、プロセス構築の分野で、これからも全面協力していきたい。

 さて今でも昨今のスタートアップ企業と、こちらで会う機会もあり、もちろん自分の分野以外だったり知識不足も大きく影響していると思うけど、正直、起業の要であるミッションも不明瞭で、どこにゴールがあるのかも分からないところが多く、最初から行政の支援制度への依存体質が見えたりもして、勿論あくまでも自分の主観だけど、話を聞いていて「おおお~面白い!」と身を乗り出してしまうような会社は皆無で全然ワクワクしないケースが殆ど。ユニコーン企業になろうとか世の中のインフラを変えてやろうとかスケールと野望の大きなところも殆どない。そんな中、本当に凄いと思ったのは、自分の中では、高野君率いるDG TAKANOと、このLASAGNA ONEぐらい。彼らは、製品コンセプトのインパクトも凄いが、その実現のため行政の力や支援に頼ることなく本当に自分達の志と情熱で資金も調達しガリガリに製品開発に邁進している。これこそが本当のスタートアップの姿ではないか? もちろん、創業者として「数億円稼げて、CEOの名刺持って、ある程度うまくいったら、どこかに買ってもらって、ちょっと有名になれればよい!」というミッションのスタートアップ企業であれば、それもありだろう。ただ、それが大勢を占めるような状況はどうなのかな??またそのようなスタートアップを国が支援してもメリットあるのかな?

 今の「スタートアップ」がバズワードになってしまった状況、そして、そのバズワードが先行して金が集まりやすくなっている彼らを取り巻く環境からは、どう転んでも世の中をひっくり返すようなスタートアップは生まれてきそうもないと、ロートルになった自分には思えてしまう。なので、先ずは上述のLASAGNA ONEやDG TAKANOが大成功を収めることによって、真のㇲタートアップの姿を見せてもらうことを願って止まない。

現実化してくる生成AIの脅威 

 3月に開催されたNVIDIAのCEOジェンスンファンの基調講演を観て、かれらの新しいGPU「GB200」の凄まじい性能に、かなりショックを受けたというか、これはもう本当に産業をがらりと変えてしまうなと実感。というわけでちょうど1年前に、このBLOGでAIがもたらすインパクトについて書いたけど(AIは「ものづくり」をどう変えるのか?)、それに本当に加速度がついて、もう大変革は「待ったなし!」というところまで来てるというのが自分の見解。なんせ2023年の段階で、このような生成AIの開発に取り組んでいるスタートアップを含めた企業が既に世界中に数千社あり、この数もどんどん増加中!
 というわけで先ずは自分の業界で、内容はだいぶ前回と重複するが、そこに記載したAI利用のこれからの「ものづくり」を更に現状の状況を加味してざっくりと考えてみると、今時点でAIができてしまう事は:
*新製品の開発の段階でのマーケティングリサーチ
*データから得た概要から機能(電気設計)を含めた製品(電気回路も)の設計
*試作3Dプリンター用のプログラムを作成しモックアップ製作
*製造機器(ロボット)、PCB実装機等のシステムプログラム生成。
*製造工程における品質管理や不良予測データによるプロセスの高速化
*製品の最終確認
*完成製品のトレーサビリティや販売後のサービス体制の構築

 本当におおまかだけど、かなりの工程はAIで賄えるではないか!!

 これは、製造業に限ったことではなく、あらゆる業種、業界に普及するのは間違いない。当然、これに伴ってコストの軽減は期待できるが並行して人材も大幅に不要になるのは必至で、このあたりは要注視。また、これも前回も書いたが、このようなラインへのAI導入を積極的に進めている中国をはじめとしたアジア諸国の猛攻に関心を持つことが更に必要だと思われる。いづれにしても皆が思っている以上にAIの浸透は加速度を増していて「知ったもの勝ち」「導入したもの勝ち」といった状況も出てくることは間違いない。少なくとも自身の生業に関しては意識をもって生成AIの動向に注目すべきだと思う。

中小町工場の営業センスって?

 1月末から2月頭の日本出張では、今年後半から始まる予定の大きなプロジェクト準備を兼ねた新規VENDER確保のために、主に日本のものづくり関連の展示会を視察。小回りが利きそうで、こちらの需要に合いそうな会社を約10社ほどピックアップして図面のサンプルなども持参し、今後の計画の概要を説明の上、各社の現在の状況などの確認も兼ねてヒアリングを実施してきた。話の中で中心だったのは、やはり半導体設備関連を除く製造業(特に自動車関連)の景気の先行き不安と今後の展開をどう考えるかという事で、小規模工場などの出展会社では代表と直接話ができ、割と本音が聞けて海外市場に向けて経験を増やすためにも「チャンスがあれば是非やらせてほしい」という内容が中心だった。
 さて、アメリカに戻って、自分的には将来的に付き合っていく企業には、それなりに積極的な姿勢は不可欠という基準があるので、こちらからアクションを起こすのではなく彼らのアプローチ(連絡)を待ってみたのだが何と1か月以上経った現在、

  10社中、連絡が来たのは僅か2社^^;;;

いやいや、少なくとも自分が日本やこちらの展示会に出展したら当然、営業としては展示会のほとぼりが冷めないうちにリードを纏めて片っ端から電話(昭和の話^^;;)、最近であればもっと手軽にEメイルで御礼を兼ねて、営業訪問のアポを入れたりさらに詳しい話を聞きたい旨のCOLD CALLをするのが当たり前だと思っていたんだけど、こんなにも消極的なのか?というかヤル気あるの?何のために金かけて展示会に出展しているの??とガッカリしたというのが正直な感想。まあウチからの引き合いよりもっと大きな話があったとか、実は十分仕事は潤っている、もしくは自分の話がよくわからなかった(外観も怪しかった?)、という事であれば仕方ないかもしれないが、話を聞いてきた限りでは、どこも景気不安を感じているのに、相変わらず昔から全然変わってないんだな、というのが今回よく理解できた。

 実は以前にも同じような事を書いてるが、10年ぐらい前に日本の中小町工場の海外第2創業をミッションに色々な日本の町工場のオーナーと海外進出のためのプロジェクトをサポートしたり講演活動を頻繁にしていた時期があったけど、結局、その時も多分300社以上の企業の代表に話をして、本当に進出もしくは海外に拠点を持ったところは10社に満たなかった。それほどまでに海外市場が魅力的でなかったといえばそれまでだけど、何か閉塞感というか未だに海外に出るのが億劫だし、極端なことを言えば伝統的な”下請け”体質が身についていて、「仕事は親元から口を開けて待っていれば降りてくるものだ」的待ち受けスタイルがそのまま踏襲されてるのか?というイメージが強かった。そして今回、未だに、この状況が払拭できていないのが何とも悲しい。まあ以前から、この手の中小製造業には営業という部署は無いんだな~と思ったことも多々あって、確かにそういう部署もなければ、お礼のメイルも何も来なくても不思議はないというのが本当かもしれない…。勿論、既に付き合いのある会社や知り合いの町工場の中には、精力的で海外進出にも積極的、従業員は50人未満のところが中心だけどそれなりに気概のある会社があるのは、気持ち的には、せめてもの救いだけど…。

 話は変わるが今、会社のメイルアカウントには、弊社のWEBサイトを見たという中国をメインに最近では韓国やベトナムの同様商品を扱うメーカーや加工業者から「是非製品を扱ってほしい」とか「部材の加工をやらせてほしい」という売り込みメールが頻繁に入ってくる。このような積極的な姿勢を見ていると、短絡的かもしれないが今回の経験も加味して、如何に日本の町工場の多くが相変わらず井の中の蛙状態で、加えて補助金の誤用で延命できてしまうという状況が見えてしまったようで、はっきり言って残念でならない…。

新しい自動車産業の行方はいかに?

 1月後半から日本へ出張し、自分の生業のメインである電子基板実装業界とオートモーティブ関連の展示会を視察。もう10年以上前からこのBLOGや講演会などで自分の経験談として繰り返し伝えていることだが、展示会で感じた事と経験談のおさらいを兼ねて思ったことをまとめてみた。
 1980年代、コンピューターが一般に普及し始めた時代に一番需要のあったメモリーの生産に特化した日本勢は日立やNEC,富士通など他国の追従を許さず世界でトップシェアを維持。当時の半導体生産ではベストテンに7社(だったと思う)が入る勢いだったが、90年代に入り、PCの根幹であるCPUをインテル、OSをマイクロソフトに奪われ、量産で価格が低下したメモリーはSAMSUNGを中心とした韓国勢の猛攻に根こそぎ市場を奪われ敗退。
*自分の元いた会社は、その影響で1986年は確かボーナス無しT_T

 1990年代、日本が開発した移動体通信方式のMOVAを世界標準にしようと目論むNTTと、そのデバイスを生産する日本の大手家電メーカーは、アメリカに大工場を作り量産体制を整えたが、アメリカはクォルコムのCDMAを標準規格としたため日本勢は撤退。ただ新しいI-MODEの普及で日本メーカーは作れば作るだけ需要のあったガラケーの量産に特化しているうちに、OSをiOSとアンドロイドに駆逐され、加えて新たなサブスクモデルの課金体制で端末は誰が作ったものでも利用可能になってハードを低価格で供給可能になった中国勢、韓国勢にボロボロにされて端末分野も敗退。
 *駐在員時代、これら日系メーカーの工場進出を手伝っていた影響でアメリカ現法は大打撃T_T

 2000年代、それまでアメリカでのシェア40%をはじめ、世界のTV市場で追従を許さなかった日本のTVメーカーはデジタル技術の普及によってアナログのブラウン管TVからデジタルの液晶TVへの大変革が起こり、液晶パネルの値段がTV価格の80%となった事で、日本の技術をパクったSAMSUNGや台湾のチーメイ(現FOXCONN)の低価格競争に追従できずパネルを生産していたPANASONICやSHARPは、あっけなく敗退。その状況から2010年代前半には殆どのTVメーカーが消滅してしまった。
 *当時これら日系TVメーカーの売り上げが60%。おまけにリーマンショックでボコボコにされ弊社は倒産寸前まで追い込まれるT_T   


 そして2010年代の後半から胎動の如く加速してきたEV革命。その中で果たして日本の最後の牙城である自動車産業は生き残れるのだろうか??自動車も化石燃料主体がゆえにその複雑なエンジン構造の製造技術から、低燃費、そして安全性の確保で世界を席巻してきた日本の自動車産業だが、エンジンやミッション、車軸も不要のEVにおいては唯一イニシアディブを取れるモーター(これは基本的にEVメーカー各社が独自開発)と、現時点ではEV本体の価格の70%を占める搭載電池の確保(高性能の電池を生産できるメーカーからの購入が基本となると思う)が中心となる中で、今まで上記のメモリー、携帯、TVと同じくハードウェアの生産で隆盛してきた日本の家電メーカーと、どう考えても同じ状況の中、日本の自動車メーカーが、どれだけ市場を維持できるのか? 
 幸いなことに自動車メーカーではないが、車載電池では未だ君臨しているPANASONICは唯一の希望の星。同社が昨年、車載電装品部門を売却したことも、この先、車載電装品に関してはセンサーやスイッチなど特化した技術も不要で誰でも作れる時代の動きに対応し(自分的に上記のような教訓から学んだと良い方向に解釈している)主力である電池にフォーカスする方向性を定めた事は素晴らしい英断だと思うが、果してTOYOTA、日産、ホンダやスズキをはじめ、各自動車メーカーはどうやって今までの生産規模を維持していくのだろう?既に電池とモーターだけでなく、車載OSもiOSとアンドロイドが基準になっていく中、新たにイニシアティブをとれる部分があるのか??
今回の展示会では、これらの解を少しでも見つけられればと思ったのだが、自分の目線では残念ながら日本勢がこの先のEV分野でイニシアティブを取り市場を確保できる製品や技術を見つけることができなかったのが何とも寂しい思いだった。勿論、まだまだEVに欠かせない日本独自の技術や部材等たくさんあると思うので、この分野で何か凄いものがあれば是非、情報いただければと思うし、それらを有する企業には既存のエンドユーザーに限らず、その技術や部材を武器に世界のEVメーカーに是非攻勢をかけてほしいと思う。

スピードを意識しているか?

謹賀新年!

 以前より、こちらのハードウェアスタートアップと付き合う機会も多く、彼らのものづくりサポートの為の部材供給などを行っているのだが、感じることは、いかに「スビード」が大事かという事だ。ハードウェアスタートアップの場合、先ず製品の構想やアイデアで初期段階としてエンジェルやシリーズA主体のVCから調達した資金で 試作レベルの製品を完成させ、それを元にシリーズBの資金調達後、試作量産を確立、製品をブラッシュアップさせながら完成度を高め、量産による製品価格の計画を立てて最後の資金調達を経て自社での製造プロセスで稼働し運営、もしくは同業大手への売却でEXIT、というパターンが主流。当然ながら、それぞれ次のステップに行くためには、まず調達した資金が枯渇する前に製品を仕上げることが必要最低条件になる。その為には圧倒的にスピードが必要なのだ。価格よりも短納期に意味がある。加えて現在のハードウェア市場をみても、如何に「新製品を最初に市場に投入するか」がその先の市場確保に貢献するかも明白。アマゾンが世界で最初に発売したAI機能ALEXAを搭載したSMART SPEAKER「AMAZON ECHO」のシェアは発売後10年近く経っても未だに30%近くでトップ。テスラのEVやAPPLEのI-PHONEのをみても状況は同じだ。その為、これらの企業でも実際に付き合ってみると試作部材に関しては先ずは価格より納期の優先度が高い。実際テスラでは加工部品の納期は1週間が当たり前。先ずそれを聞かれて難しい答えれば土俵に乗る事も出来ない。このような背景から、試作部材製造は、数量によっては3Dプリンターで仕上げたり、FICTIVEのような瞬時に見積もりを提示して受注後数日で納品というサービスがこちらでは主流になりつつある。
 翻って、いま日本で付き合っている部材加工メーカーの状況はどうかといえば、残念ながら未だに見積提示までは2~3日が標準で製品加工も2~3週間が当たり前の状態(勿論十分忙しく対応しきれない、という状況もあるだろうが…)。これで通用する日本の市場であれば、もちろん何の問題はないのだろう。ただ、この状況は世界的には完全に市場の動きや需要に合致していない。
 そんな感じなので、日本でもFICTIVのコピー版会社CADDYやMISUMIが始めたMEVIYなどの同様サービスがあるが、余計なお世話だが果たしてちゃんと業績を上げているかどうか…。
正直、付き合いのあるべトムのベンダーでも、時差の関係もあるが夕方までに見積もり依頼をすれば翌朝には届き、発注後はアメリカまでの輸送を含めても10日で部材が到着する。そして価格的にもメリットがあるので、スタートアップをはじめ、こちらのメーカーの要求には十分対応してる感じだ。
 2024年に入り、今後は益々グローバルな形でのEMS等、ファブレスの製造プロセスが主流になり今まで以上に国際的な動きに合致することが求められる中、このような「スピード」を意識することが更に重要なポイントとなる事を、特に日本の中小製造業のオーナーたちは、今から肝に銘じる必要があると強く感じている。

AIは「ものづくり」をどう変えるのか?

忙しさにかまけて、だいぶサボってしまっているブログを久しぶりに書いてみました^^;;。

手塚治虫先生の超大作「火の鳥」の第2巻、”未来編”は西暦3404年の物語。その時すでに地球は環境の激変により地表に住むことができなくなり、人類は地下に5つの都市(国)を作って生活している。そして、それぞれの国の元首として君臨しているのは電子頭脳(今でいう大型コンピューター)である。その電子頭脳が国の運営を全てつかさどっており人類が政治的な決断をすることはできない。
ある時、一つの国から逃れた亡命者(主人公)が現れ、他国に亡命を試みたその人物の引き渡しを巡り、それぞれの国の電子頭脳同氏が直接交渉を開始。だんだんと交渉がエスカレートし、誤動作を起こし始め最終的にはそれぞれが核戦争を宣言し、他の都市も巻き込んで、すべての人類が滅亡するというところから壮大な物語が始まる。手塚先生がこの物語の執筆を開始したのは何と1967年!今から50年以上前に、地球の行く先を予言しているこの作品は一読の価値ありだ。
 
 さて、前置きが長くなったがAIである。昨年11月に発表され、瞬く間に世界を席巻し、あらゆる分野で物議を醸しだしているChat-GPTの出現により、上記の物語の内容がより現実味を帯びてきた事に、自分自身は非常に複雑な気持ちだ。
 この先、さらに膨大なビックデータを保有するGOOGLEの”BARD”やMETAの”CIECERO”といったAIシステムが本格的に世の中で一般的になれば、この「火の鳥」の内容が更に現実味を帯びてきているところに正直、動揺が隠せない。少なくともこの先4,5年で仕事の在り方は想像以上に激変するだろうし、行政や産業自身の根幹も大きく変わっていくであろう。既に日本では国会答弁の資料や質問作成にAIを使用しているという話もチラホラ。そうなってくると、本当に近い将来、AIが国を支配することも視野に入ってしまいそうだ。

まあこのような、大きな変革のところは有識者に任せる(もちろん他人事ではないけど…)として、自分は生業でもある製造業の「ものづくり」に、AIが与えるインパクトについて少し考えてみた。というより先ずは早速CHAT-GPTに聞いてみた。そうしたらこんな答えが(以下引用):
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AIの導入により、日本のものづくりは以下のように変化する可能性があります。

  1. プロセスの自動化と効率化: AI技術を活用することで、生産ラインや製造プロセスの自動化と効率化が進みます。例えば、ロボットや自律型システムを使用して、繰り返し作業や危険な作業を行うことができます。これにより、生産性の向上や人的ミスの軽減が期待されます。
  2. 品質管理の向上: AIは画像認識やセンサーデータの分析などで使用されることがあります。製品の品質検査や不良品の検出において、AIを活用することで高い精度と効率性を実現できます。これにより、製品品質の向上や不良品の削減が期待されます。
  3. 製品設計の最適化: AIは機械学習や最適化アルゴリズムを活用して、製品設計の最適化を支援することができます。大量のデータやシミュレーション結果から、より効率的で信頼性の高い製品設計を行うことができます。これにより、製品の性能向上や開発期間の短縮が期待されます。
  4. 予測保全とメンテナンス: AIはセンサーデータや異常データを分析し、機器の故障やメンテナンスが必要な箇所を予測することができます。予測保全により、機器の故障や停止時間を最小限に抑え、生産の安定性と効率性を向上させることができます。
  5. 自律型システムと協働: AI技術を活用した自律型システムや協働ロボットが導入されることで、人と機械の協力関係が変化します。人間の得意な判断や創造性を活かしながら、AIとの連携によって生産プロセスが効率化され、柔軟な生産体制が構築されるでしょう。

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いやいや凄すぎ!こんな回答がものの10秒でかえってくる@@!
ただ、当然この内容は概要的なものであって、すぐに日本の中小町工場の製造分野では応用性は低いかもしれないけど、少なくとも、この内容から考えられる変革の可能性はこんな感じなのかな?と考えてみた。

1.プロセスの効率化は、切削機や板金のシステムのプログラミングを過去のデーターに基づいて、
 より最適、かつ短時間で生成することで実現できるだろう。これにより工数の軽減から製品コストを
 下げることが可能になるのではないか。
2.過去の不良実績やよく起こりそうな問題をAIに分析させれば品質管理技術を向上させること
 が可能になる。これも品質を向上させながら歩留まりを上げることに繋がり、製品コストの軽減につ
 ながるだろう。
3.製品設計の効率化については、図面に基づいて製作をすることが中心の中小町工場にとっては
 直接関係は無いかもしれないが、設計された図面のデータを解析することにより、依頼され
 た見積もりをより正確に瞬時に提出できる可能性は十分にある。
4.基本的に多くの工作機械を保有する町工場にとって製品の保全やメンテナンスは重要で、修正保全
 費用も当然、製品に反映されるので、これをAIで解析し事前に使用年数や起こりうる問題を事前に
 修繕する等の対応でき、これもコスト軽減に寄与する可能性あり。
5.製造プロセスにおける自動化やロボットの導入にはまだ時間がかかると思うが、今まで人間の
 手作業や経験に基づく最終仕上げなどのプロセスは、その内容毎の詳細をAIで数値化もしくは
 データベース化することにより工程を簡素化する可能性はありそうだ。これも製品コスト軽減につ
 ながるだろう。
6.上記をまとめれば、単純に小人化に繋がるので人件費の大幅な削減も可能性が出てくる。

と考えてみると、基本的にAIの活用による「ものづくり」の変革は、もちろん材料費などの原料コストは別だがメインで製品コストの軽減に大きく寄与するのではないか?と考えられる。
 つまり、AIを導入するか否かによって企業としての価格競争力に大きく差が出てくることが予想されるのだ。もちろん品質重視!をうたっている企業も特に日本の場合は多いわけだが、少なくとも昨今のOKUMAやDMG MORI、AMADAなどの工作機械をみれば、もうハード的な性能はどこも極限まで高度になっていて、現状はいかに精度の優れたプログラム(CADデータ)を製作できるかにかかっている感がある。この部分も上記3.のようにAIによって単純化できれば品質に差がなくなる可能性は十分だ。
 また仕事を依頼する側も当然、世界中のサプライチェーンからAIによって最適な価格と品質を保証できる企業を探し出すこともできるわけで、そうなると昔からの馴染みだとか、近所にあって利便性が高いという理由での商流にも影響が出そうだ。

さてさて、これはあくまで自分の主観でまとめたものなので、きっと多くの反論や意見もあると思うけど、要はこのようなAIの知識や技術的なインパクトの大きさを会社として、しっかり理解しているか否かで、この先、企業間には大きな格差が生まれてくるだろうし、当然日本の市場にも中国やアジアを中心とした「ものづくり企業」が続々と参入してくる可能性も有るわけだ。
 とにかく、対岸の火事的な感覚ではなく、隣の家が燃えているぐらいのつもりで、社内でAIに関して
今なら月々きっと日本でも3000円弱で、ある程度自由に使えるChat-GPTで何ができるか?といった勉強会などを実施してみるべきだと強く思う今日この頃である。

円安を最高の武器にすべきだ!

 スミマセン!いつも言い訳からスタートするのがこのブログの常になってしまったけど、今回も何と前回の8月以降の投稿…。今年も夏以降、新規プロジェクトの立ち上げ準備などで超多忙の日々を送り、気が付いたら年の瀬の年末休暇に突入していたという次第でした…。

 さて、今年に入ってからはロシアのウクライナ侵攻をはじめ、終わりの見えないコロナの状況など、とにかく混迷な世の中が年末まで継続し、残念ながら、その出口は来年に入っても見えてきそうにない。今まで厳格だった各国のコロナ規制も以前に比べれば大分緩和され、国際間の物流や人々の動きは活発になってきてはいるが、現状の世界の状況を反映して為替相場は急激な円安となり、原材料の輸入大国である日本は、その影響で、あらゆるものが値上がりしている(日本に限ったことではないが…)。
 勿論、輸出比率の高い大企業にとっては、原材料の輸入コストが増大しても為替差益が還元されるので、コスト増のカバーも出来て、ある意味 ”都合の良い” 状況であることは事実。しかしながら国内需要に特化する製造業にとっては、燃料費や部材のコスト高が利益を圧迫するために経営状態は間違いなく苦しさを増しており、状況的に国の方針である所得倍増を実現することは厳しそうだ。特に下請け的傾向が強い中小町工場において、その悪影響は顕著であろう。

 残念ながら最近のニュースを見ていると、これらの影響も相まって現在の日本はGDPばかりか、平均賃金まで台湾や韓国に肉薄されている状況。経済大国、電子立国として名を馳せていたかつての栄華は本当に兵どもの夢の跡になりつつある感が否めなくなってしまった。コロナの規制緩和で、また昔のようにインバウンドの観光客の増大も景気回復には一役買いそうだが、かつて日本人が高所得と円高を背景にアジアをはじめとした低所得国でブランド品を買い漁ってきたのと同じ状況が今の日本の現状(つまり低所得国の位置づけになっている)だと、一橋大学の野口悠紀雄名誉教授は指摘している。

 さて、こちらアメリカの状況はと言えば、今年の最初には数々のコロナ規制を撤廃し経済の回復に大きく舵は切ったものの、ウクライナへの支援戦費の増大や、原油価格の高騰、また中国との関係悪化の背景に起因し、残念ながら株価の低迷や、META, TWITTERといった大手IT企業の大幅なレイオフなど状況の改善は見込まれていない。最近ではそれに呼応するかのように多くの企業でレイオフが日常化し、品不足が深刻な半導体業界でも、来年度のリセッションを懸念して人員削減に踏み切るところも出てきているようだ。その反面、コロナの状況以降、製造拠点を国内や近隣諸国に戻す動きが顕著になり、国内の製造業関連は部材の調達不安はあるものの何とか堅調、そして自分が携わるEV関連や、電池産業などは将来的な需要予測から相変わらずの活況を呈している。特に電池や、次世代モビリティの分野は開発競争がし烈を極め、その試作開発や将来的な生産プロセス用のライン構築に必要な部材の需要はかなり力強い。

 同分野に携わる自分の経験から、この状況は円安による価格メリットで正に日本の中小町工場にとっては、アメリカに市場を広げる絶好の機会だ。実際に今、弊社では日本の加工メーカー数社から部材を供給してもらっているが、日本からの送料を加えても材質やデザインによってはアメリカより日本で製作したほうが安価なものが大分増えてきている。そればかりか連携しているベトナムの加工工場よりも価格メリットがあるものも頻繁に出てきた。僭越な言い方かもしれないが、少なくともMADE IN JAPANは圧倒的に品質上での安心感がある。それが長く続いていた1ドル110円台の頃から比べれば20%安く手に入るのだ。これは間違いなくチャンス。円高進行のきっかけとなったプラザ合意(1985年)以前の日本は、工業製品のみならず日用品から玩具迄アメリカに輸出して莫大な外貨を獲得し自国の高度成長を推進してきた。この時の状況とまではいかないが、日本の国内のみの需要対応では材料費の高騰などのマイナス要因だけが目立つ円安を逆にうまく利用して、ある意味他のアジア勢も凌駕し一気にグローバル展開を図る非常に良い機会ではないかとPOSITIVEに考えたい。

 そしてこれは単に少量多品種の試作部材だけでではなく、量産受注の可能性も十分にありだ。
アップルI-WATCHのリストバンドに採用されれているアルパインループとトレイルループは、日本の福井県にある井上リボン工業が全数製造している。勿論そのデザイン性や品質がアップルの希望に叶うレベルであることは間違いないのだが、当然この円安で、この高品質の部材が更に安価に入手できるようになった事も、以前より取引企業との協業をモットーにしていながら、価格に関しては圧倒的な数量を武器に過酷な交渉をする同社にとって、大きな魅力である事は間違いない筈だ。

 さて今年もあと数日で終わり新しい年が幕を開けようとしている。残念ながら大方の景気予想は、春までの早い段階で半導体も含めた分野において、大きなリセッションが起こる可能性を示唆している。ただ状況を見ながら、日本だけにとどまらず海外市場に対するマーケティングができれば、現状では製造業にとってマイナスのイメージでしかない円安を間違いなく武器にできる事も是非2023年は熟考してほしい。

 という訳で、今年は何と僅か4回の投稿になってしまいましたが、来年は出来るだけ、もっと頑張ります(って既に信憑性無いけど^^;;)! 皆さん、素晴らしい新年をお迎えください。