相変わらず確定を見ないトランプ政権による相互関税政策。日本は現状15%にはなったものの、この先も状況が変わる可能性もあるという事で、自分の顧客の多くも、このあたりが明確になるまでプロジェクトの延期や計画の見直しをしており、正直なところ自身の生業に影響がかなり出ている。日本のNEWS報道を見ても自動車関連では、その影響は顕著で大手自動車メーカーを中心に減産や米国における生産の延期等の話題に事欠かない。特に大手に依存しているTier1企業をはじめ、さらにその下流の中小町工場にとっては親元に準じて、その判断(決定)を待つしかないのが現状のようだ。かくいう自分も前述した通り、かなりの影響を被っており常に自転車操業の弊社においては1社の計画延期が大きなインパクトになっている。かといってこのまま指をくわえて状況の収束を待っていたら、当然業績も低迷してしまうのは必至の状況。そこで、実際のこちらの製造業の現況や現時点での相互関税の状況などを含め対アメリカの、これからの動きについて考えてみた。
まずトランプの最大の目標である雇用確保のための製造業のアメリカ回帰だが、これはもう100%、この先数年で大きく変革するとは思えない。理由は単純で、1980年代のプラザ合意でドルの価値が下がり始めた時点で米系企業をはじめ日本を含めた多くの企業が海外、特にアジアや南米に製造拠点を移し始めた時代から培われてきた地政学的な製造インフラは簡単に覆ることは不可能に近いという事。また2000年代にインターネットの普及により急速に広がったグローバルサプライチェーンの構築が今の製造インフラの中心になっていることも、安易にアメリカへの製造業回帰には繋がらないだろう。例えばAPPLEが自社製品の製造をアメリカに移すとしても、生産のために使用する設備は少なくとも半数以上が海外メーカーのものだし、実際に製造を始めるにしても原材料に必要なアルミやステンレスは現状約40%は海外からの輸入品で50%の課税対象だ。また使用する部材の殆どはアメリカ国外で生産されているので、生産各国に課せられた相互関税がプラスになる。加えて製造業におけるアメリカの人件費はシリコンバレーで現状約$25。そして最近はしたたかな製造メーカーの国内生産需要増加に伴う便乗値上げなどもあり、このような状況で製造を移したとしても、そんな高額商品に需要が継続するとは到底思えない。
そこで、具体的にこの状況で何ができるかだ。
相互関税だが、メインでアメリカへの輸出額の多い国で考えてみると日本は15%で、中国は確定していないもののベースの10%に加えIEEPAの追加20%に相互関税の10%でトータル40%、ベトナム20%、台湾は30%、インドは50%の適用で、日本とって、これはある意味ポジティブに考えれば今まで対米輸出製品の競合であった中国をはじめとした国々よりアドバンテージがある事になる。また今の状況が続けばだが円安も大きなメリットだ。この状況を何とか武器にできないか?例を挙げれば半導体製造装置メーカーの最大手、アプライドマテリアルズは自社生産している設備に使用する中国を中心としたサプライヤーから輸入している部材総額は少なくとも年間2000億円以上。可能性として、そこに食い込むこともできるかもしれない。実際、自分が現在メインで扱っているアルミやステンレスの加工部材も現状アメリカでの輸入通関時に有無を言わさず製品価格の50%を税金として搾取(という表現が良いかも)されてはいるが、それでも、その税額を予め上乗せした見積もり金額を提示する客によるコンペ(依頼数はだいぶ減ってはいるがT_T )での受注率は50%ぐらいで、4月以前の追加関税導入前60%と比べても若干落ちた程度、自分もマンパワーと現在いくつかの大型プロジェクトの影響で、全く拡販や営業展開ができていないが、積極的に実施していけば可能性は確実に増えるであろう。
勿論、製造事業に特化したものではないが、日本からの対米投資80兆円も少なからず日本の中小町工場にとっても追い風になると期待したい。また企業よる関税回避の米国における製造インフラの立ち上げが急ピッチで進んでいることも事実。例えば2021年より投資が始まり、現在携わっている大型プロジェクトの一つであるT社のノースカロライナのバッテリー工場は、投資総額2兆1000億円で、2030年までに総数10ラインの設備投資が決定している。その年に計画している総生産量30GWhは、概算で200万台分のプリウスPHEV用電池を生産する規模だ。当然、この生産に付随する資材を供給するCELGARD(旭化成)など多くの協力メーカーも現地工場の立ち上げを進めていて、その需要も見逃せない。
ある意味、投資が確実に見える此れからのアメリカ市場に間違いなくビジネスチャンスがあると思う。もちろん下請けに甘んじて「木を見て森を見ず」的姿勢だと、日本の減産や下方修正のNEWSばかりに滅入ってしまうかもしれないが、今こそアメリカの状況に目を向ける姿勢に考えを質す時ではないか?
最近読んだ本で特に印象深かった斎藤ジンさんの新書「世界秩序が変わるとき」で彼(彼女?)は、1930年の世界恐慌以前からの日本とアメリカの関係を緻密に分析し、トランプ政権によるアメリカの新自由主義が崩壊する今こそ「日本が復活する千載一遇のチャンス」を唱えているが、いつも地場の状況に密着している現場主義の自分もまさしく、そんな胎動を感じるようになった。もちろん確証はないが、指を咥えて状況を見ているのなら、この機に相互関税を武器に動いてみる価値はあると考えるべきだ!