高密度実装技術から製造業の行方を考える

今回は本業の話になってしまうのだが、自分の専門は電子基板(PCB)の実装プロセスの品質管理だ。実は今も車載の電装品メーカーを中心に、彼らが生産する実装基板の検査機や品質管理商材、治工具の販売が生業だ。この業界に入って既に30年以上になる。電子回路基板が誕生し、そのパターン上に穴をあけて、そこに部品の足を挿入して回路をつなぐ方法から80年代に入り基板自身が多層となって今まで2枚だった基板が裏表で1枚になり(今は32層なんてある)、部品の足がなくなって表面実装部品となり、スペースを小さくできるようになって更に劇的にサイズを極小化して多機能になっていく変遷とアナログ主体からデジタルに大きく製品自身が変わってきた状況にずっと対応してきた。そして大きく仕様を変える実装基板の品質をどう管理するかの検査技術に携わって、今日に至っている(信じられないかもしれないけど^^;;)。

1980年代、TVを中心とした家電製品で世界を席巻していた日本の電機メーカー各社は、その殆どの製品を日本で大量生産していた。そうした生産をささえていた生産技術、製造技術、そしてそれをサポートする品質管理技術は大量生産のおかげで、これまた世界最高峰の技術を誇っていたし、それをつかさどる生産設備も日本製が完全に世界のデファクトスタンダードだった。 特にPCBに部品を装着する実装機では、当時PANASONICと、FUJI(富士機械製造)で世界シェアの50%近くを占めており、その後90年代に入って実装部品が足を挿入しない表面実装化し、製品自身も少量多品種化が進むと、JUKI、YAMAHAなどが組み合わせに柔軟性のある中型機を擁して台頭。 国内の需要が衰退する中、それでもこの分野は、中国の超量産EMS工場の景気に支えられて今でも堅調だ(と思う)。また実装機に限らず、PCBにはんだペーストを塗布するスクリーンプリンター(印刷機)、自動半田付け装置、そして実装された部品が正しく装着されているかを検査する画像処理の検査機もOMRONをはじめ、日本製が殆どを占めていた。

この分野において、当時、日本に追いつくことが至上目標だった韓国勢、その技術をどんな手を利用しても習得することが、まさに死活問題であり、自分が働いていた検査機器メーカーにも「部材と人件費の安い(当時)韓国でノックダウン生産をしませんか?」というアプローチでその触手が近づいてきた。結局自分のいた会社はその話に乗って全てをむしり取られる結果になってしまうのだが、このプロジェクトの責任者として(まだ20代の若造だったけど…)1986年と87年に韓国, サムスンの総本山である水原にあった生産技術研究所に常駐していた自分は、日本の実装機や半田槽、検査機等に大学を出たばかりの兵役を免除されるほど秀才の若いエンジニアたちが蟻のように群がってリバースエンジニアリングをしている様子を今でも鮮明に覚えている。

その後、韓国勢大手は、自分たちの生産設備は自分達で開発し、それを使用することにって設備投資を抑え、タイムリーに優れた商品を開発して、この分野でも世界の市場を席巻していった。正直なところ、実装機に関しては非常に特化した技術、特に日本は100年以上の歴史を誇る自動織機技術のDNAがしっかり踏襲されていて、韓国勢はSAMSUNGをはじめHYNDAIもオリジナル製品で世に出していたが、今でも日本勢に軍配は上がっている。

しかしながら他の周辺機器、特に実装後の基板検査、自分の分野でもある画像検査機は残念ながら、台湾、韓国製が、どれも秀逸。TRI(台湾のメーカーでかつて自分がいた検査機会社のCOPY機で大きくなった)、KOHYOUNGやPARMIといったメーカの製品は日本企業にもかなり採用されている。かつては市場を凌駕していたOMRONやPANASONIC製より、その運用性やソフトのアルゴリズムに関していえば明らかに彼らの製品のほうが優れている感じだ。その影響もあってOMRON,PANASONICともこの分野からはほぼ撤退している。

なぜこうなったのだろう??それは非常に単純だ。少なくとも今の時点で世界最高峰の実装技術を駆使して製品の量産をしているのは正に中国、そして台湾、韓国だ。製造技術、生産技術、品質管理技術というのは量産工程において、いかに歩留まりを少なく効率よく費用対効果を高めて高品質の製品を作り上げるかに依存しているといっても過言ではない。 そして今の膨大な容量のソフトウェアーの手足となり、それを確実に動かしていくハードウェアの進化も凄い勢いで進んでいる。簡単な例でいえばスマートフォンの中に入っている回路は、かつてのPCマザーボードより数倍高機能だ。それが今では手の平にのる。そのサイズの中に2,000点以上の部品が搭載されている。最近ではコンデンサーや抵抗の部品が0402(0.4mmX0.2mm)など目で見てもわからないようなサイズまである。こんな部品を高速で基板に実装する日本の実装機はまさに曲芸の域に達するほど素晴らしいのだが、それが確実についているかを確認する検査技術もまさに曲芸のレベルが要求されるのだ。

現状は、検査が難しいのと修正コストを軽減するために実装の段階で不良を軽減する傾向が強く、継続的な不良(同じ原因によって不良が出続けること)は少なくなってきているので、突発的に発生する不良をどのように見つけるかが検査のトレンドになっているが、これは至難の業だ。1mm以下の幅で実装されている部品同士の半田ショートや極小部品の未半田までも発見しなければならない。それが高速で精度よく確認できる技術は、こういうプロセスに投入され切磋琢磨されることによって、より精錬されたものになっていく。その客先の要求にかなう仕様を日々の鍛錬によって高めている韓国、台湾の生産設備は、間違いなくそのノウハウに基づいたアルゴリズムが含まれているのだ。 量産工程のほとんどを海外に移転、もしくは辞めてしまった日本の環境では、もう残念ながら優れた検査装置は生まれてこないと考えざるを得ない…。

このような状況は生産設備だけにとどまらない。自分の商材でもあるクリーンルームや静電気対策に使用する資材なども、かつては日本製が殆どだったのだが、最近では、韓国、中国製に、だいぶ席巻されている。彼ら協力工場が生産するそれらの品質も、量産工程に見合うレベルにどんどん進化しているのだ。また生産に必要な材料自身もしかり。自分の取引先である電子X線パネルに使用するフィルムの加工しているメーカーでは、最近、納品先の要求で日本製ではなく韓国製の安いフィルムに供給元を切り替えさせられたと話していた…。そういう日本以外のベンダーも同じように量産工程に追従しながら進化と遂げているわけだ…。果たしてこのあたりの挽回が、この先、日本で起こりうるであろうか???

というわけで何が言いたいかというと、量産工程を辞めてしまった日本の大手メーカーの協力工場という立場では、自分たちの技術や製品までも世界の需要からは程遠いものになってしまうのではないか???という事だ。これは上記のように、基板実装、特に検査技術で非常に顕著だが、他の製造でも同じ傾向にあるのではないかと思う。つまり自分たちが開発や製造しているものが、実は世界では既に優位性の無いものになっているかもしれないという事だ。そんな意識を是非、協力工場、中小町工場、そしてハード系のスタートアップの皆さんには持ってもらいたいと思う。勿論、先の頑張っている日本の実装機器メーカーや半導体業界でいえばDISCOなど最初から世界市場をターゲットに日々切磋琢磨している会社も多い。できればこのような会社と同じような意識と視点を最初からグローバルにもって、これからを考えてもらえればと思う。

Share and Enjoy

  • Facebook
  • Twitter
  • Delicious
  • Digg
  • Google Buzz
  • StumbleUpon
  • Add to favorites
  • Email
  • RSS

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*