ゾンビ企業をどうするか?

 今月の頭に帝国データバンクから現状の日本の中小を中心としたゾンビ企業の総数16.5万社というデータが発表された。ゾンビ企業、既に皆さん周知かと思うし、このBLOGでも10年近く前から折に触れて書いているが、端的に言えば、実際には経営破綻しているにもかかわらず、金融機関や政府機関の支援によって存続している企業・会社のことである。勿論、全ての業種の総数だが、この中で製造業の割合は20%と全体の5分の1で、その比率はかなり高い。データによればゾンビ企業が最も多かったのは2010年のリーマンショック後の2011年で約27万社。その当時に比べれば10万社の減だが2018年以降は増加を続け、2020年にいきなり前年比10%増加した。この先も増加は続くとレポートは見ている。
 
 このゾンビ企業増加のタイミングが政府の行う金融補助政策の開始後に起こるというところが正直何とも悩ましいところだ。2010年以降ののリーマンショック救済の為の補助金の増額、また今回のコロナ対策給付金が、これら企業の増大を助長している。自分は製造業の分野で今まで多くの中小町工場のオーナー達や、それをサポートする行政の方々と会ってきた。そんな中、このような政府による金融政策を利用して、その有効活用により会社の復興を遂げたり業績を残してきた企業も多く見てきた。新人や若手従業員のモチベーション向上のための研修や新規社内プロジェクトに投資する、新規事業部の立ち上げと新たな事業参入に向けてのR&Dへの活用、そして自社製品の品質と性能向上のための新規設備投資等、このように用途が革新的イノベーションに流れる企業にとっては、この日本の救済制度は本当に素晴らしいものになっているだろう。
 その反面、この補助金というシャブにどっぷりと浸かってしまい、金融サポートが無ければ生存できない会社の増加により、その有効性が単純に延命にのみ利用されているところも多くみてきた。特に問題なのは、この補助金従業員の給与補填に利用しているケースだ。当然、従業員に補填すると、その削減や解雇はしにくくなる。そのために受注を確保し続ける必要があるのだが、利益を度外視しても(従業員への給与に補填されているので)、受注を獲得してしまうケースが増えている。そうなると補助金に頼らず自立、もしくは健全な返済を実行している企業にとっては大きな迷惑だ。ゾンビ企業によって適正価格水準が崩壊し、本来できるはずの利益確保が難しくなってしまうからだ。この状況は本当に根が深い。正直このような状況の中で、国が提言している所得倍増など、とても考えられないのが現状ではないかと推察する。実際このような負の状況が、今回の16.5万社のうちの20%の製造業にも顕著にみられるようだ。

 因みに、このゾンビ企業の内訳をみると従業員20人以下が全体の60%を占めるという。大分昔の話になるが町工場が集約する東京大田区より地場のものづくりに関するアドバイザーの依頼があった。その際、驚いたのは地場にある5,000社(当時)のうち4,000社は従業員が確か5名以下の零細企業だったという事だ。勿論、それなりの需要が確保できているから、この規模の会社が継続して生業を維持できているとは思ったのだが、間違いなくそれだけではない状況があった。このような環境の中からは、残念ながら革新的な転換や新規事業は生まれてこないのではないか?そう思って依頼をお断りした経緯がある。

 ここシリコンバレーには、未だに1000社以上の切削、板金、成形加工など、ものづくり系町工場がひしめき合っている。 彼らのものづくりが、シリコンバレーから生まれる最先端のIT産業を下支えしている。以前から言っているがシリコンバレーは世界最大の一大製造拠点だ。これらの企業、リーマンショック前は裕に2000社以上あった。そこからの変遷の中で数は半数ぐらいになってしまったが、残った企業達は本当にハングリーで実力もあり、常に時代の先端に呼応した「ものづくり」を生業にしている。こちらには自分の知る限り彼らを救済する補助金等、明確なものは殆ど存在しない。時代の流れついて行けず、景気の状況によって力尽きたところは必然的に倒産だ。その倒産した企業の人材やアセットを、生き残った力のある町工場がハゲタカのように貪って、設備も二束三文で手に入れて、更にパワーアップし業績を伸ばして力をつけていく。そして、そこからまた実力のあるリーダーがスピンアウトして独立していくというエコシステムが成り立っている。この状況があるので、この地の製造業は常に新陳代謝をしながら時代を乗り切っているのだ。
 日本でも同じような状況を見たことがある。自分の実家は神奈川県の座間市。かつて日産の巨大な工場があったところだ。カルロスゴーンが社長に就任し、採算の悪い工場が淘汰されることになり、座間工場もその対象になって閉鎖が決定。当時の新聞やメディアは「血も涙もない冷酷な外資社長の蛮行」とか従業員や協力工場の生活をどうするのだ!!と言った批判の声が相次いだが閉鎖は確定。実際に当時数百社あった協力工場も多くが淘汰された事も事実だ。ただ残った企業は自分たちの技術を武器に新たな市場開拓や、日産に特化(系列の不文律…)していた製品を他メーカーへ売り込んだりして、更にスケールアップしたところが沢山あった。勿論、関係性がある確証はないが、世界で初めてカーナビのバードビューを開発したザナヴィ インフォマティクス(確かクラリオンに合併吸収)は座間に拠点があったし、中国資本になってしまったが車載電池のオートモーティブエナジーサプライ(現エンビジョンAESC)は現在も同地で操業中だ。

 要は、このようなゾンビ企業をこれ以上増やさない、また彼らが淘汰されていく事を金銭のバラマキ以外にどう食い止めるか?真剣に考えるべきタイミングが来ていると強く感じる。
 更に拍車をかけるように、この先、間違いなく自動車産業の大淘汰時代がくる。そんな状況が現実化したら、また国や行政は国民の税金を使って新たな金融政策や給付金、補助金を始めるのか??? これでは何一つ過去のデータに学んでいない。もう少し他の対応も考えるべきだろう。例えば行政が中心になって地場の企業データベースを体系化し、現状、景気が絶好調な半導体設備、関連分野への製造品目転換の推進や業務の斡旋。大田区のように無数の小規模工場があるのであれば、業界の状況、特にかつては日本が世界を席巻していた電池産業、この先の宇宙産業や次世代モビリティ等に精通した目利きによるリサーチや今の若い感性のジェネレーション世代(高校生や大学生のZ世代が良い)の力を借りて、将来のハードウェア必要になりそうなシーズを持っている会社の掘り起こしを、まず国などが主導して提唱していく(各県にある高校や大学と連携などしてみるのも面白いと思う)等々、現状の製造品目から見た「ものづくり」企業の実態と実力の把握ができていれば、出来ることは山のようにあると感じる。まあ正直このような話は以前からこのBLOGでは再三訴えてきている事だが…。
 
 先ほどから触れているが、今一番憂慮される将来の自動車産業、現状TOYOTAだけで中小町工場を中心に約6万社の協力工場がある。彼らをこの先、バラマキによる延命措置のみで新たなゾンビ企業にしないために、国や行政は金銭ではないソリューションの立案と実現に向けて今から動き出すべきではないかと強く思う。


責任が取れる正しいトップダウンが肝要だ!

 またまた最近、サボり気味のブログ(申し訳ありません…)。今年に入ってまだ1回しか投稿していない。と思って何と気が付いたらもう6月…。今年ももう半分が終わろうとしている。加えて最近、歳のせい(?)もあり、その速さに加速がついている感がある…T_T 。自分の思いの記録を残す意味でも、これからはもう少しマメにアップするよう努力します^^。
 さて、早くも1か月以上前になったが、4月に名古屋と大阪で、オンラインでの講演会をする機会を得た。名古屋の方は自動車関連企業がメインで運営するインキュベーション施設の管理団体での講演で、TOYOTAを始め大手Tier1からの参加者も多く150人以上が集まり、なかなかの盛会。大阪は中小機構からの依頼で、こちらは中小町工場からの参加者が中心で人数的には50人程度だったがラウンドテーブル的な雰囲気もあって、趣きが異なってそれなりに自分も楽しむ事ができ、それぞれオンラインながらも「日本の状況を何とかしていかないと!」という自分の主張は伝わったと思っている。
 そんな講演会のあとで、皆さんから感想を聞く機会や、また個人的に連絡を頂くこともあるのだが、その中で参加された会社のトップや上層部の方から聞いて多いな~と感じるのは「遠藤さんのお話は凄く良かった。自分たちも真剣に将来を考えていかなければいけないと思いました。で、取りあえず何をすればよいのでしょうか?」という類のものだ…。

 いやいや、そこを考えなければいけないのは皆さんですよ!

 自分の話は提言であって、そこから先は自分たちの会社や組織において、海外の状況や市場の動きを注視しながら、今の自分たちの技術や製品、そして組織としての活動など、これらをどうマーケットインしていくかを、第3者ではなく自らが考えていかなければ、何の意味もないばかりか成功もないと思う。特に中小町工場の場合、勿論、全てとは言わないが、残念ながら今まで”下請け”という黙っていても仕事が下りてくる環境が長かったせいか、特にマーケットインに関しては「自分たちで考える」という部分が去勢されているかもしれない…。彼らの場合には組織自身が小さいこともあり、言い方を変えれば、会社の長がこのような危機感をもち、そこに対して自分たちがどの様に動けるのか?会社の強みは何処か?製作しているものは世界に通用する可能性があるか?そして、そこをリサーチしていく志があれば、大企業と異なり組織が小さい分、直ぐに行動に移せるのではないか?といつも考える。要はそのようなトップの意思決定をスピード感をもって実行できるのだ。ここは是非、最初に意識してもらいたい。

 ただ加えて言えば、そのトップの判断が間違いなく正しい方向、将来性のある方向へつながるものでなければならない。前回のブログ「新たなイノベーションへ舵をきれるか?」の中でも触れたが、特に中小製造業の場合、現状の業績を100%維持することが至上であり、将来的なマーケティングやR&Dに予算や時間を費やすことを良しとしないところにトップがフォーカスしてしまったら、残念ながら結局のところ何のイノベーションも起こらない…。前回は山形県の町工場の話を例に挙げたが、今回も同じような話を聞いた。埼玉県にある、PCB(回路基板)の製造メーカー。同社は以前よりシリコンバレーに拠点をもち、その多層板の製造技術を活かして、容量の増大が顕著な通信機器メーカー向けに製品を供給し拡大してきた。ただこの業界も中国を中心としたアジア勢の追い上げ厳しくビジネスも減退になりつつある中、起死回生をかけてアメリカでは新たに盛りあがっているスペース産業に着目。通信業界での実績もあるので引き合いもあり、その部分で本腰を入れていこうと意気込んでいたのだが、折しも日本の本社は昨今の半導体不足による半導体製造装置の需要急拡大で、其の特需で全く余裕のない状態。半導体設備という少量多品種で利益率も高い製品製造に100%フォーカスしていて、こちらの拠点からの新規案件には見向きもしてくれないそうだ…。確かに半導体製造設備の需要は、この先も間違いなくあるだろう。しかしながら、国を挙げて潤沢な予算で挑んでくる中国勢をはじめとした列強の存在が大きくなることは目に見えている(2022年度の中国の半導体設備投資は10兆円、日本はたったの6000億円T_T )。スペース産業界であれば未だ未知の分野でもあり、うまくスペックインできればオンリーワンになる可能性の方が遙かに高く、将来もあると思うのだが、トップの判断が現状の顧客対応にフォーカスしろという事になってしまえばそれまでだ。本当にもったいない話だと思う。

 加えて思うことは、そのトップの判断の重要性もさることながら、そのトップがしっかり責任を取るという事も重要であるという事。トップの判断は往々にして独断とみなされることもあり、会社の存続や従業員の生業確保を憂慮しての責任回避から、トップダウンという大号令にトップ自らが躊躇してしまう例もあるような気がする…。日本は鎌倉時代に生まれた合議制のDNAが未だに組織運営に刷り込まれている感があり、吐出したアクションには蓋をされてしまう傾向に加え、非効率的な年功序列が未だに中心となった状況なので、社内の改善も含め大号令をかけにくい状況があるように思える。

 しかし、それと異なるのがこちらの企業運営だ。APPLE, TESLAをはじめ、躍進している企業は全てトップの大号令で組織が大きく動く。ちょうど今週(6月3日現在)TESLAのイーロンマスクが、全従業員に関し「これからはリモートではなく週40時間を出社して働け!出社しない従業員は解雇だ!」とツィートしたことがニュースになっていた。勿論コロナ禍でリモートワークが中心になった従業員も急に環境を変えることができるかわからないが、ここで、多くの退職者が出たとしてもきっとイーロンはその責任も全て自分で取るつもりなのだろう。こういう、TOPの姿勢が逆にカリスマ性をもって従業員の共感を得る場合もあり、その姿勢が新たなアクションに迅速に向かう組織を構築しているのだと思う。

 そんなイーロンのトップダウンアクションの例として聞いた別のエピソードを紹介しよう。
 北米でEV用電池を生産するGIGAファクトリー。日本のP社との共同操業でTESLA向けの電池を生産している。この工場で、なかなかTESLAからの要求目標を達成できないP社の製造プロセスについて、イーロンが自らP社との直接ミーティングを企画、その席上で現場の製造責任者たちを前に「これから、皆さんが不可能だとしている現場の稼働率を、要求目標である10%上げて動かしてもらいたい。それが皆さんの生産指標を越える超過稼動であれば、どこかに必ず問題が発生するはずだ。そこがネックになっているので、その部分を徹底的に改善すれば目標達成は可能だろう。そこで、その問題が発生した箇所、もしくは設備の動画を撮ってレポートしてほしい。その部分の修繕や改善、費用負担も含め、全て自分が責任を持つ!」と確言。この指示により実際に稼働率を10%上げたところ、何と目標はクリア。しかもどの設備にも故障やシステムのオーバーフローも発生しなかったそうだ。
 日系製造業の場合、その多くが稼働率や可(べき)動率という生産指標によって、生産の効率化を管理しているが、そのコンセプトが時に、その向上に水を差している事を、彼は責任を取るという事を前提としたトップダウンの指示で明確化できたわけだ。

 トップダウンのメリットは圧倒的なスピードだ。トップの号令で全員がその動きに同調する。ただ上記のようにその判断が見識に優れておらず誤っていれば失敗する。言い換えればもろ刃の剣かも知れない。しかしながら圧倒的に昨今の世の中の流れ、マーケットの動きの中で重要なのはスピードだ。このスピード感を意識し、更に間違わない見識を身に着けることがトップに求められる必要条件になるだろう。そして失敗に関しては責任を取る器量の深さで臨めば、社内の改革だけでなく新たな市場に向けての営業展開等々、この先に向けてできることは十分にあるはずだ。今回も相変わらず内容にまとまりが乏しいが(^^;;)、是非トップの皆さんには熟考していただきたい。


 
 

新たなイノベーションへ舵を切れるか?

大変遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。
気が付いたら何と既に2月^^;;。やはり世の中の流れが早いと本当に時間が経つのも矢の如しの感じがする今日この頃、まあ多分に年齢も関係していると思いますが^^;;。

 さて、日本を除くアメリカ、ヨーロッパを中心とした国々では、コロナ規制の大幅な解除を行い、大きくこれからの経済復興へ始動し始めた。残念ながら日本は、まだまだ鎖国状態が強要され意味のない税金の浪費に繋がる水際対策に終始している。その間、列強はコロナ禍中で学んだ多くの教訓や経験から新たな経済や産業に一足先にスタートしているような状況だ。このような背景により過去2年のコロナ禍に於いて世の中の産業、特にモノづくりの世界は大きな転換期を迎えている。

 非接触が当たり前になる中、ロボットや自動運転を備えたスマートモビリティなど新しい分野の製品が続々と開発され、リモートワークが主流になる事で、通信ネットワークの拡充やそれに伴う端末やインフラ整備に必要なハードウェアの需要増大、そしてこれらの根幹になる電池や、半導体、軽量化や強度強化に必要な新たな素材開発など、言い方を変えれば新しい分野、製品、などの開発が目白押しの状態だ。 最近では、AAMGT(アマゾン、アップル、メタ、グーグル、テスラ)などの巨大企業もIT分野で確保した市場を盤石なものにするためにハードウェア開発に積極的に取り組み始めている。
 また半導体の供給不足に伴う急激な需要拡大で、老舗のインテルを始め、半導体製造設備のアプライドマテリアルなどの巨大企業も超が付く忙しさのようだ。
 以前から何度も紹介してるが、ここシリコンバレーは未だに数千社の中小の製造工場という其の莫大な需要をつかさどるインフラがある。彼らはそれなりに市場の需要に立脚しながら新陳代謝を繰り返して、この怒涛のような時代の流れに上手く乗っているが、昨今、更にその動きに対応し、特に試作市場の需要急拡大で、どこも大忙しの状況だ。
 これらの需要を見ていると、やはり将来的には、新しい製品や部品、素材といった分野で益々ものづくり市場は広がってくるし、彼ら巨大企業や新興のスタートアップ企業が持つ潤沢な資金によって、更に新たな新規産業への舵切りが大きく行われていると強く感じる。
つまり、新規産業、製品などの製造に携わる事によって、市場の流れをつかみ、また時代のトレンドに合致したモノづくりで、将来に向けての方向性や需要に対する柔軟性を見出すことが必要不可欠になると思うのだ。

 翻って今の日本はどうだろうか? 2年間にわたる鎖国状態によって、益々孤立化を余儀なくされている中、付き合いのある中小町工場の状況を見ると、このような今の先端を行く製造業の実情が全く伝わっているとは思えず、ただ単に黙々と現状の売り上げ確保と維持に精を出しているような感じがする。
 実際に付き合いのあった山形県の町工場、それなりに実力もあって定期的に仕事もお願いしていたのだが、以前から付き合いのある馴染みの大手メーカーかの仕事が活況で、そこを優先させるという理由から、こちらからの仕事の依頼をやんわりと断られてしまった。少なくともウチから出している仕事は、最先端を行くEVメーカーからの注文だが、そういった新たな需要への感心より、やはり安定した収入を確保できる生業を維持する事が第一優先なのだろう。勿論、同社に限らず、日本も現状の半導体不足による製造設備の需要拡大などで、町工場の中には、かなり繁盛しているところが多いと聞いてはいるが、それがいつまで続くかについては、前述した環境の激変の中では何の保証もない。 
 特に、この先の化石燃料自動車の減産がもたらすインパクトは計り知れないものがある。絶妙のタイミングで、今年に入って経営不振による会社更生ADRを申請した自動車業界の超大手企業マレリの状況が、この先の行く末に対する警鐘だと考える。
  
 かつて自分は実体験として、日本の携帯端末事業やTV産業の崩壊を目の当たりにしてきた事から、間違いなく自動車産業も、この先の10年で大きな衰退を余儀なくされると数年前から訴えてきた。にもかかわらず、「電気自動車(EV)の位置づけがスマートフォンと同じ端末の一つになる」という状況をしっかり理解している企業は殆どないのが現状のようだ。そうなると、今はまだ需要のあるエンジン部品を製造している中小町工場は、この先どうなってしまうのだろうか? 
 
 何度も言うが、今こそ、この将来の状況を踏まえた上で既存のビジネスを制限してでも新たなイノベーションに向けて方向性を変えていく必要があると強く感じる。
 
 自分の大先輩で、アマゾンJAPANの事業本部長として同社の日本展開を主導してきた谷さんは、著書「アマゾンメカニズム」の中で、「日本企業には”リスク回避を選択する本能”が植え付けられている」と指摘していた。本書の記述にあるとおり確かに今までは、いい大学を出て立派な企業に就職し終身雇用と年功序列が保証される環境にいれば、敢えてリスクを取る必要はなかったのだ。またそのような企業の協力工場として付き合っていれば、努力せずとも経営を維持できる潤沢な仕事が確保できたのだろう。
 この環境状況から自分的に考えると、現状の100%の安定した売り上げを5年後に130%にするため、現在の売り上げを80%にしてイノベーションに力を入れるという発想になる事は殆どないかもしれない。
 ただ世の中の激変は、もうそれを許さない。特に更なる改革に加速がつきそうな2022年は、
  
   新たなイノベーションに向けてリスクを取って舵が切れるか?

が非常に重要になるであろう。毎回、同じ締めくくりで恐縮だが、是非一考いただきたいと願う。

中国を侮るな!

今年もあっという間に12月になってしまった。まだまだコロナ禍の中で、各国の工業生産や物流における影響はかなり深刻。おまけに、この状況に起因した過度の需要増大による半導体不足、加えて原油高の影響で、プラスチックの主原料であるナフサの高騰にともなう部材の供給不足等、ものづくりに関していえば全体として憂慮すべき状況と言わざるを得ない。
 自分も車載電装品や電池の製造など、どっぷりとその影響を受ける市場に携わっているので、
 
  部品/材料不足=モノのが作れない=納期が延びる=売りが立たず回収までに時間がかかる

 という流れは、特に資金力に経営のウェイトが大きい中小町工場にとって、まだ日本国内は半導体製造設備等の特需で潤っている感があるが、この先の見通しとして残念ながら快方に向かうか疑問だ。

 そんな中でも、注目を集めている脱炭素化に向けての自動車産業のEVへのシフトは確実に動きつつある。大御所のTOYOTAも2030年迄のEV生産目標を発表するなど、日本の自動車メーカーも重い腰を上げて相次いでEV化計画を打ち出し、加えて中国を中心とした新興の自動車メーカーも今までの既存インフラのない身軽な状況により、SPACでの上場等で資金の確保ができれば、更なる加速力で市場参入してくるだろう。勿論、上記の半導体や部品の不足により、生産、販売計画は大きく遅延している状況は否めないが、人が乗る自動車という分野以外のMOBILITY全般においても指数関数的にその規模が拡大していく事は間違いない。

 以前から、このBLOGで何度も触れているのだが、自分の顧客であるTESLAを訪問すると、受付で面会を待っているのは、ほどんどが中国系、韓国系企業の担当者だ(日本勢はどうしてしまったんだろう…)。そんな中でも特に中国のベンダーの動きが今迄にも増して活発化しているように感じる。勿論アメリカは中国に対しての制裁措置や輸入制限等、その活動は規制されているにもかかわらず、既にパーツ領域やインフラの部分に浸透し、コスト面でのアドバンテージのみならず、彼らの製品品質も十分に客先の需要に合致する水準に昇華していて、そう簡単に使う側も脱中国製品(部品)には動けないようだ。加えて最近では、納期でも間違いなくアドバンテージを確保している。中国からの輸送期間を考えても、景気が良すぎる状況で納期の短縮に対応できないアメリカ国内のローカルのベンターを退け、特にシリコンバレーで一般的な短納期重視の試作開発スタイルにも十分に対応しているようだ。

 実際、アメリカの新興EVメーカーであるLUCIDの調達に携わる知り合いは、最近の中国ベンダーの対応と納期に対する意識は完全に日本の系列構造に浸かりきった商習慣意識が抜けない日本のベンダーの市場を凌駕しつつあると語り、今まで長い付き合いのメキシコにあるEMSメーカーの友人も、最近取引を始めた中国大手の民生機器製造メーカーHI-SENSEとの商売は、仕事の進め方や、品質納期管理など、全てにおいて圧倒的に無駄がなく、未だに既得権と「俺は客だ」的意識で外注とのビジネスを進めようとしている日系企業とは雲泥の差だと話していた。そして、日本の大手デジタルMAP会社社長の友人も、通信ネットワークだけでなく、EV産業におけるイニシアティブを狙うHUAWEIのビジネス改革の速さに驚愕していた。
 自分の経験でも、細かいことだが中国のベンダーに加工品の見積もりをすると、確実に半日以内に見積もりが到着する。日本のベンダーだと未だに見積もりが出てくるまで2,3日かかるのは当たり前( 過去のデータの解析と統合ができていないので都度計算が必要、また工程によって外注への確認が必要などの理由で…)。既に話題になって久しいAIを利用した試作生産プラットフォームのFICTIVEやPROTO LAB、日本で言えば後発のCADDIが事業としているシステムインフラが既に当然のように普及している(もしくは自前開発している)と思われる。そして発注しても納期はしっかり遵守、決済に関してもWISEやPAYPALなど手数料もかからず簡単なシステムでの取引が一般的になっていて、未だに銀行送金による決済に固執している日本の中小町工場とは大違いだ。
 
 製造業に関しては、未だに中国をアジアの一国という認識で上から見る傾向にある日本の旧態依然の体質も、今の同国の実態の正確な把握を妨げている感が残念ながら強い。しかしながら、とにかく今までの製品に対する「安かろう悪かろう」的イメージ、そしてモラルの無かった商習慣も大きく様変わりしている事は間違いない。

  たまたまタイミングよく放映されていたNHKの「中国新世紀」に出てきた深圳のものづくり系スタートアップ達。彼らのスタイルやオペレーションは、もう今までの中国企業のイメージではない。
 彼らは今、IT産業だけでなくハードウェアの世界でいえば、ロボットやドローン、IT系ガジェットなどの完成された製品のみならず、 間違いなく今まで日本がハードウェアでイニシアティブをとっていた各種アクチュエーター、高性能モーター、リニアスケール、シリンダー類に至るまで、あらゆるものを国産に切り替えるべくAIを駆使したリバースエンジニアリングを進めている。更に中国政府もアメリカからの制裁の間に、国内の生産力を向上させるべく、14億総中流政策を掲げるものの、未だに大半を占める国営企業の旧態依然の人海戦術的生産スタイルを、これからのAI技術の向上と部材やロボットの開発によって大きく変貌させるために国が主幹となって彼らへ入札の機会を与えたり積極的な資金投入も行っている。まさに内需インフラの増強と安定化をいう基盤を確立し、さらに世界を獲りに行こうという新たな、官民一体のイメージが思った以上に浸透しているように思えた。

 特に、これから世界の製造マーケットの主流となるEV産業に関しては、十分な国内需要だけでなく、世界のメーカーにも部材を供給するための価格、品質、納期重視の生産と輸出を、先ずイメージ向上のため「品質の悪いものは出さない!」という統制を徹底するという
  
  EV産業における世界制覇の為の生産インフラの構築を国策として進めている。

 という状況が強く感じられる。 これを裏付けるかのように将来的に急激に需要が高まる車載用を中心とした恒久的な半導体不足への対応として同産業に対する日本の投資計画規模6000億円に対し、中国は何と10兆円を拠出するという。国を挙げてのビジネスに対する考え方と気合の入り方が全然違うのだ。

 さて、 こちらにいると、このような状況を身近に体感できるため、本当に一刻の猶予もないという気持ちが日々募るばかりなのだが(毎回書いている気がする…^^;;)、 その動きが更に加速し、中国の製造業が世界の産業を凌駕するようになったとき、日本(の製造業)はどう戦えばよいのだろうか? 今までの牙城にしがみつき最終的には鎖国をも辞さず!という動きをとるのか?それとも真っ向勝負で玉砕するか、もしくは共存できる方策を探し出すか? 勿論それぞれ賛否両論はあるかと思うし、加えて今の企業のマネジメント世代は、EV主流の世の中が始まるのは2030年で「まだまだ自分たちの目の黒いうちは大丈夫」という考えもあるかも知れないが、
 彼らはひたひたと忍び寄ってくるのではなく、怒涛のように押し寄せてくるのだという事を、来年に向けて今年のうちにしっかりと肝に銘じておいてもらいたいと思うのだ。

もう石橋は叩いて渡るな!

 昨今の半導体不足に伴う大幅な設備投資の関係で、特にまだ製造設備ではアドバンテージがある日本国内のメーカーの特需(?)の関係からか、日本の中小製造業は、どこもそこそこの好景気のようだ。自分の会社と付き合いのある協力ベンダーも、発注した部材の納期の短縮や量産物の対応は難しいような状態が続いている。これはこれで良い感じなのだが、前回も書いたように世の中の動きはそんな中でドラスティックに変わっている。状況からみればアメリカも同じ。シリコンバレーにある半導体設備の最大手アプライドマテリアルズをはじめ、KLA TENCORなど、こちらの関連会社も大忙し。当然INTELやAMD, 新興のNVIDEAをはじめとしたCHIPメーカーも活況を呈している。おまけに新しいハードウェア産業の将来的な隆盛に伴う試作の需要で、当然それらの製造をつかさどっているこちらの製造町工場も、ひっ迫状態。最近は自分の取引先も、仕事をなかなか受けてくれない状況だ。

 さて、米国におけるこのような市場の需要は、日本の中小町工場にとっても間違いなくグローバル化のきっかけを作る非常に良いタイミングになっていて、これはコロナ禍になる以前から、ここではずっと(と言ってもBLOGをアップする3か月に一回だけど^^;)主張しているのだが、そこに興味を持ち、名乗りを上げた日本の中小製造メーカー数社と打ち合わせする機会をもった。各社とも、それなりに日本国内では実績もあり、現在の状況下でも安定した財政的余裕もあっての判断だと思うのだが、傾向としては非常にイイ感じで、自分としても持てる知識を提供し協力したいと考え、それぞれの相談に乗ることにした。

 大阪にある従業員100人ほどの精密機械加工業者。日本では、大手医療機器メーカーを中心に、作業的には難加工が必要なチタンなどの材料を利用した加工を得意としている。こちらへの進出に関しては、手術ロボットをはじめ自動化が進む医療機器や省人化に呼応した各種産業ロボットなどの試作加工市場への参入を希望。そのような見込み客は、こちらには山のようにあるので、そこに上手く参入して将来的な量産にもつなげたい考えで、まずRESEACHと市場の把握から進めたいとの事。現在、自分の会社では、大手の新規プロジェクトやスタートアップの試作案件もあり、その依頼を提供することで同社の力量を確認できるのではと思い、図面を出す前にNDAの締結を依頼しFORMを送ったところ、内容に関して「項目の中にある”万が一問題が生じた場合の処置に関してはアメリカの法規に準ずる”という部分には合意できない」との返事…

えええええ????

ちょっと何を言い出したのか、よくわからなかったので確認してみたところ、「何か問題が生じた際に製造は日本でするので、日本の法規に従ってもらわないと困る」との事…。いやいや、少なくとも仕事を依頼するのは、アメリカの会社、それも最先端の競争激しい分野でしのぎを削ってるところばかりなので、当然図面の内容はトップシークレット、それを実績のない海外の業者にお願いするのだから、そのリスクは大きく何かあった場合には
全てこちらで対処するのが常識だ。という事で、この部分を説明したのだが「それであれば諦めます。」という事であっさりおしまい…。
  う~ん、この状況どう解釈すればよいのか…。確かに海外進出に関してはPLをはじめ回収を含めたリスクは考慮する必要があるけど、これらを踏まえたうえでのチャレンジは大前提になる。これはどんなビジネスでも同じだと思うのだが、そのあたりの認識にかなりズレがあるようだ。確かに日本の中小町工場は、日本で長年、契約などとは無縁の中で生業を続けてきているので、その固定された考えを変える事は難しいし、それなりに慎重になるのかもしれないけれど、それが日本流でいけると思っている時点で既にグローバル化は不可能だ…。

 もう一社、これも大阪にある日本を代表する工場なら必ず使っている部品の専業メーカー。ここが経験と独自のR&Dでユニークな商品構成を持っていて、それを武器にアメリカに食い込みたいとの事。自分的にも、その製品群のうち、3種類は非常に興味がありアメリカでも需要があると見込めたので、まずそれに特化したマーケティングツールの製作をスタートして本格的に市場参入しようという事で、話を進めていた。
 ところが途中の段階で、その製品の中の1つはアメリカでの販売はしたくないとの事…

えええええ????

 この没になった商品、実はアメリカでは見たことないし、非常に需要もありそうで自分的には一押しと思っていたので、既に日本で販売もして実績あるんですよね?という事を前提に理由を聞いてみたところ、同社社長が「この商品はちょっとしたメカも入っていて、もしかして問題おこしたりすると厄介そうだから」との回答。そんなリスクは当然じゃないか!!
 市場のリサーチを含めて、まず製品をリリースし、それぞれの商品の反応を見たうえで戦略を立てることがポイントだと思っているのに、初めの一歩も踏み出さないのは、単に慎重になりすぎての判断としか思えない…。
これではヒット商品(勿論保証はないけど、売ってみる価値は十分あり)になる芽を自分で積んでるようなもんじゃないか…T_T。
 何とか食い下がったものの、社長の一存という事でおしまい…。

う~ん、やはり、日本の中小町工場の体質なんだろうか…。以前にも書いたけど、海外でも十分需要のありそうな優れた商材を持っている会社でも、未だに「日本での販売に限定してる」とか「海外への直送、直販はしない」というところが山のようにある。まあ、言い換えれば、そこまで無理しなくても食っていく事ができるんだろうな。

 確かに日本は中途半場に(というかそこそこの)市場があって、物価をはじめ、リビングコストも安いし、年金や保険制度も充実していて、それなりに収入を確保できれば生活するには十分という環境も、リスクを取らず保守にまわってしまう大きな要因の一つだと思う。
 ただ、この先その状況が保証されるかとうかは不透明。特にオリンピックの見込み収入減や、コロナによる拠出金の増大、そして経済自身の衰退に伴う将来的な需要低迷など行く先が見えない時期だからこそ、可能性を見出して是非海外を視野に入れてもらいたいと思う。加えて中小町工場が今までの安泰に満足することなく、これからは「うちは大卒の初任給1000万円出します!」みたいなところが増えて、大手を凌駕する勢いを是非持ってもらいたいと思うのだ。
 そのためには、やはり考え方を根本的に変えなければいけない。海外との取引も昔とは異なり、今は情報収集が簡易で、小口の物流システムもしっかり確立され、また売り上げ回収もLCのような旧態依然の方式な消えてなくなり、WISEのように銀行にサポートさせて送金対応が可能になったりと、誰でもチャレンジできる土台は出来上がっている。
 石橋も昔の構造ではなく今はITの力でしっかり強度も安全性も保障されているはずだ。そこを昔のように叩いて渡る必要はないという事を理解して、是非とも果敢に世界にチャレンジもらえればと思う。


EV≒黒船と国内勢力の台頭に勝てるか?

 アメリカ、カリフォルニアではワクチン接種率が70%に迫り、6月15日には、1年3か月ぶりに経済の再開を宣言、飲食店や遊興施設に対する規制のほとんどが解除された。CA州の知事は、今日のニュースでワクチンパスポートをスマホ上で利用できるアプリの採用を決定。特に通常の産業に加え、主要産業の一つでもある観光業にも一挙にテコ入れする動きだ。
 そして、コロナ禍だったにもかかわらず、シリコンバレーの動きは相変わらず堅調。IT企業のみならず、特に動きが顕著だったのは、EV(電気自動車)を中心とした次世代自動車産業関連企業だろう。今回は、前回のブログでも触れた内容の続編になるが、特に中国を中心とした新興EVメーカーの台頭から見える、この先の日本の存亡について考えてみた。

 現在のアメリカでのEV市場状況と言えば、王者テスラに加え国産新興EVメーカーであるLUCIDやRIVIANなどが、相次いで市場へのEV投入を今年本格的に行う予定。またGENERAL MOTORSやFORDも今までの製造インフラを大幅に変革し、大胆なEVシフトへの方向性を明確にしている。これら米国勢に呼応するかのように、既に2030年には全車種のEV化を明確にしているVOLVOをはじめとしたヨーロッパ勢の動きにも目が離せないが、それより脅威なのは中国EVメーカーの動きだ。既にアメリカで上場しているNIOやBYDと並び、中国国内で急成長を遂げているLi AUTOやX Pengといった新興勢力が昨年アメリカで株式を公開。またEVメーカーでは著名なBYTONも、最近のNEWSでは2021年中にアメリカでの株式公開を検討しているらしい。彼らは、今まで自動運転技術やバッテリー開発のR&Dを中心としたアクションを中心にシリコンバレーで活動をしていたイメージが強かったが、本国(中国)での急成長を武器に、テスラの牙城を切り崩すべく自社のEVで、アメリカ市場に攻勢をかける動きを鮮明にしているのが現状だ。
 このような状況から、今年は今まで見たことのないような多様なEVがアメリカの公道にお目見えする事だろう。

 果たして日本勢はどうだろうか?残念ながら日本の自動車メーカーのEVに関するNEWSはこちらで耳にしたことがない。自分の認識している限りではあるが、新車に関してもNISSANのLEAF以外にはお目にかかったこともなければ聞いた事もない(三菱のI-MIEVも生産終了らしいし…)。ちなみにアメリカで市場を拡大している韓国勢は、HYUNDAIでIONIQとNKONAの2車種を既に販売(何とNEXOという水素自動車も販売している)、KIAモーターは販売中のNIROに加え、年内にはラグジュアリーEVセダンのEV6も投入予定だ。勿論、TOYOTAやHONDAといった大手は、アメリカ国内で既存の市場を確保しているという安心感と絶対大丈夫という自負があるかもしれないが、残念ながら次世代のAUTOMOTIVE市場においては精彩を欠く以前に「本当に大丈夫なのだろうか?」という不安の方が大きく募ってしまう…。

 そして、このような状況は、今まで自動車産業で世界を席巻していた日本メーカーの牙城である日本国内市場自身にも、間違いなく襲ってくるのではないか?という思いが、最近いくつかのNEWSを見て一層強くなった。 
 自分の勝手な解釈で、かつ自身が司馬遼太郎先生の大ファンで、特に幕末ものに、かなり傾倒していた影響も多分にあって本当に恐縮なのだが、実は今の自動車産業の状況は、幕末の動乱期と同じように感じてしまっている。

まずは中国を中心とした列強のEVメーカーの存在だ。
 深圳を拠点とし、バスやタクシーなど公共EVを得意とするBYDは、2005年には日本に拠点を開設し、その後の自国内での実績を元に、日本では、小型から大型までのEVバスや電動フォークリフトといった商品で数年前から日野や三菱ふそう、いすゞといったバスメーカーの牙城に環境保全や脱炭素化への貢献を武器に一気に切り込みをかけている。特に首都圏ではなく、地方の観光バス会社や、過疎化や環境インフラの整備に時間がかかりそうな行政をターゲットとした営業戦略が鮮明で、企業のしたたかさがうかがえる。
 中国の大手BYTONへは既に丸紅が資本提携を行い、将来的な日本における市場参入が視野に入っている。急速に動きを加速しているXPengやLi AUTOといった新興EVメーカーが、この先、単独、もしくはBYTONのように巨大な国内インフラを持つ総合商社、またはEVの定義を家電と考える大手家電量販店との提携で販売をスタートするかもしれない。加えて中国勢のみならず、既に販売を開始しているTESLAをはじめとしたアメリカ、ヨーロッパ勢も将来的には怒涛の如く日本市場に参入してくるだろう(その頃の日本が魅力ある市場であるかは分からないが…)。
 勿論、かつて参入を試みたHUNDAIを短期間で撤退に追い込んだ日本メーカーの牙城である我が国の市場に、そう簡単には参入できるかは分からないが、この状況はまるで

 ”EV”という”黒船”による列強の攻勢が始まりつつあるように感じられる。

それだけではない。
 この4月に佐川急便が自社の保有する配送用トラック7,200台ののEV化を発表したが、その提携(発注)先は何と既存の自動車メーカーではなく、中国に提携製造拠点をもつの日本の新興EVメーカー”ASF”だ。佐川急便は、日本の安全基準の確保や走行実証試験などをクリアできれば2022件から正式に導入を予定。ここで突破口が開けば、このメーカーに限らず、同じような国内のファブレスEVメーカーの出現により、他の運送関連企業への普及のみならず、将来的には独自のBtoC向けEVの販売を目論む企業も増大する可能性がある。既に日系メーカーでTHAIでの先行販売によって頭角を現している小型EVメーカーFOMMのような新興勢力の存在が、この先は、かなりクローズアップされてくるであろう。これは幕末で言えば:

 薩長土佐のような国内勢力の台頭のようも思える。

幕末の日本、当初は尊王攘夷を主張してた彼らは、蛤御門の変以降、矛先を一挙に幕府に変え、あれだけ毛嫌いしていた諸外国と手を組んで、倒幕に舵を切った。同じように今の自動車業界も、国内の新興勢力の動きが益々加速していくと思えてならない。
 自身の経験で少し話は逸れるが、1990年代に深くかかわっていた携帯市場でも当時の日本はI-MODEを抑えたNTTの独断場で、その製造を担っていたD,N,S,F,Pなどの頭文字を付けた大手メーカーの携帯電話が市場を席捲。各社とも空前の好景気だった。それが通信方式のCDMAへの変更により、ビジネスがサブスクリプションモデル主体になった途端、SOFTBANKやKDDIと言った新興キャリアの出現で、ハードの捉え方が、ただの端末に変わり、コストの安いHTCやXIAOMI, SAMSUNG、そして多彩な機能で充実のAPPLEが中心となって、そのほとんどが消えてなくなってしまった。
 
 そんな携帯電話の製造分野で生きてきた自分の経験(前記事のTV産業でも同じ経験をした)から、同じ状況が自動車産業にも重なってしまうのだ。

このような状況に既存の日本メーカー(幕末で言えば江戸幕府と譜代大名諸藩?)は、この先どう対峙し、どう戦っていくのか? そして打ち勝っていく事ができるのか?
 国内の自動車産業は製造だけで200万人近いという膨大なインフラの関連雇用の維持を考えれば、勿論一筋縄ではいかないし、前回も書いたが、先ずはハイブリッド化からプラグインという動きにならざるを得ないだろう。また、国内の中小協力製造工場に至っては、車関連需要の落ち込みを補うように世界的な半導体不足による製造設備の特需で、現状は、そんな将来のことまで考える余裕や必要はないと思うかも知れない。
 ただ、ここでは既に、しつこく訴えているので、敢えてキツくは言わないが、手遅れになる前に、世界の動きを見ながら、真剣に出来ることを考える。この気持ちを決して怠ってはいけないと思う。

自動車も100分の1になる!?

 さて、数年前から何度も講演会や講義などで話してきた内容(もしかしたら同じことをBLOGにも書いているかも^^;;…)だが、最近それが更に現実味を帯びてきたので、敢えてまとめてみた。

 自分がアメリカに来たきっかけになったのはSONYの北米におけるテレビ生産拠点の立ち上げだった。当時、既に最高峰の画質と定評のトリニトロンカラー(ソニー独自の映像方式)を武器にアメリカで知名度があった同社が本格的に北米および南米向けの生産拠点をカリフォルニアの南端、サンディエゴに近接するメキシコの町ティファナに設立したのは1988年。テレビは未だブラウン管の時代。アナログで熟練した画像の調整工程が不可欠だった当時は日本勢がTV市場で圧倒的なシェアを確保。ティファナは、90年代にはTELEVISION VALLEYと呼ばれ、既に同地で生産を始めていたPANASONIC, SANYOをはじめ、HITACHI, 三菱、JVCが工場を設立し大量生産に着手。弊社のような彼らの生産をサポートする日系の協力会社も続々と進出し当時は本当に賑やかだった(そんな折、ティファナでSANYOの社長が誘拐される事件もあったりしたなあ…)。
 工場設立後のSONYは、90年代に入るとPCが一般家庭に急速に普及した時代と相重なり、当時から同じトリニトロンで定評のあったディスプレイの需要も増大し、シャープが液晶テレビの生産を同じティファナでスタートした1999年までには、従業員3000人規模の工場が2か所に加え、チューナーの製造工場も別に確保するまでに拡大。この後、各社がブラウン管から投影型のTVを経て液晶に移行した後も、薄型液晶パネルのテレビ需要は更に急拡大し、当時まだ圧倒的に液晶技術でもアドバンテージのあった日本勢は最盛期となる2007年には、日系メーカーだけで北米向けを中心に年間1000万台のテレビを生産していた。

 当時、SONYの40インチ液晶テレビの値段は$1,000以上。ところがいち早く液晶パネルの将来性を予測し歩留まりの少ない大量生産に本腰を入れていたSAMSUNG(日本から大量に技術者をヘッドハントしていたのもこの頃)や台湾のチーメイ(現FOXCONN)が生産効率を上げてパネルの大幅コストダウンを敢行。同じ時期いきなりSAMSUNGは40インチのテレビを$700で売り出し(あまりにも衝撃だったので今でも覚えている)、ここから一挙にLGを含めた韓国勢による攻勢がスタート(画質にはほどんと差がなったからね)。アメリカで台湾系CEOが率いるOEM生産でいきなり勃興した新規メーカーVIZIOの参入に加え、怒涛の如く進出してきたハイアールやハイセンスといった中国勢にも市場を侵食され、2009年に起こったリーマンショックの影響もあって日本勢はほぼ壊滅状態。2011年には早くもSONYが全ての工場をFOXCONNに売却。その後、HITACHIとJVCが撤退し、PANASONICと三菱も2013年には生産を打ち切り、2015年に液晶パネルのラインも2本保有していたシャープが中国のハイセンスに工場を売却して日本勢の隆盛は終焉を迎えた。

 最盛期から終焉迄わずか10年、そこまで急激に落ち込んでしまった原因は何だろうか? 単純に言ってしまえばブラウン管時代の栄華に安堵し、他のアジア諸国には高飛車な態度でタカをくくっていた姿勢が、デジタル化という劇的な変革に追従できないどころか、既存のインフラと組織、ブランド維持の為に、その対応に舵を切ろうともしなかった事に有ったのではないかと思う。また、生産現場で「まさか中国勢や韓国勢に負けるわけないでしょ!」という雰囲気が蔓延していたことも事実だ。当時、尼崎ディスプレイ等自社のブランドに陶酔しTVに全精力を傾けていたPANASONICは、テレビ事業の崩壊後(足繁く通っていたTV海外事業統括本部があった大阪、茨木の工場も今はマンションになっている)、その後何年も自社の方向性を確立できなかったし、SHARPに至っては、FOXCONNに買収されるという終焉を迎えたわけだが、結局はデジタル化により、液晶パネルとマザーボード、チューナーと電源があればテレビは、

 誰でも作れる時代になった

事を、理解しなかったことも大きな要因の一つだ思う。

 実は現在でもティファナで唯一1社だけ日本のメーカーがテレビを生産している。2000年代にはアジアを中心にOEM生産で世界一テレビを生産していたFUNAI(船井電機)だ。彼らは今もフィリップスブランドで北南米向けのテレビの生産を続けている。少なからず南米向けの需要もあり、最近の生産数は伸びているようだが、日本勢の終焉と入れ替わりに生産を始めた2017年の生産台数は何と僅か10万台。10年で日本勢のアメリカにおけるテレビの生産台数は:

100分の1になってしまった

事は、殆ど知られていないだろう。

 さて、ここまで書けば、既にお分かりだと思うが、自分の経験から、要は同じことが自動車産業でも起こりうる事が現実味を帯びてきている。その一番の要因はコロナによるライフスタイルの激変と、それに伴う世の中の進化の過程が大幅に前倒しされた事だ。この流れにおいて人的接触を避けるための自動運転技術の開発が加速してきた事、自動運転にも使用できるリモートをサポートする大容量に対応するネットワークの構築が劇的に進みつつある事、脱炭素化の流れとその対策/対応の必要性が更にクローズアップされたことで益々拍車がかかり、加えてテスラの快進撃は言うに及ばず、アップルの電気自動車参入やAMAZONによる物流手段の自動化、GOOGLE傘下のWAYMOの躍進などGAFAT(Tはテスラ)の大資本による新たな動きにより、間違いなくここ数年でガソリン自動車の淘汰が急速に進んでくると考えられるのだ。
 更に脅威なのはALIBABA, TENCENT, BAIDOUなどを中心とした中国勢の動きである。既存のガソリン自動車製造というインフラを自前で殆ど持たなかった中国と、そこから生まれた新興勢力のアクションは想像を絶するスピードになるだろう。彼らのシリコンバレーにある次世代モビリティ関連企業への投資も恐ろしい勢いで増加している。そして既に50社以上あるといわれている中国のEVメーカーが今後どのくらいの勢いで業界に本格参入してくるかを注視する必要もありだ。勿論、安全という担保は必要にはなるが、既に車(モビリティの為のハードウエア)本体は、不要なものを除き目的に特化したシンプルな構造になっていくと考えられ、基幹部品のモーターと電池、それを動かすセンターコンソール(PC)があれば、デジタルテレビ同様、誰でも作れるようになっているのだ。

 昨年からのシリコンバレーの動きを見ていると、このあたりの流れの速さが本当に目につくようになった。それは単にGAFATを中心としたメジャー企業の動きだけでなく自動運転技術やネットワークなどのソフト開発、AIを駆使した軽量化を中心とした新素材開発、新たな搭載用のセンサー技術の向上に加え、EVや自動運転の要になる電池開発に於いても、彼らの躍進のニュースが連日のように飛び交っている。また既存のメーカーもボルボをはじめ、ヨーロッパ勢は早くも2025年には全車種EV化を発表したりと具体的な計画に向けて動き出しているのだが、このような状況の中でニュースになるような日本の自動車メーカーや大手TIER1(こういう系列を意識させる表現は嫌いなのだが…)の名前が出てきたのを殆ど聞いたことがない。

 この中で、果たして日本勢は生き残れるのか?と考えると正直なところ深刻な気持ちになる。日本国内で自動車製造に関連する就業人口は約200万人といわれている。その大半は現在のガソリン自動車の製造にかかわっている訳で、国(メーカー)としては彼らを反故にできないため、急激なEV化に舵を切ることは難しく、まずハイブリットからプラグインへの移行でスタートする以外に術はないと思うが、残念ながら、とにかく状況は待ったなしで悠長に構えている余裕はない。時期的にあまり良い例えではないが、津波が一挙に到来し全てを奪い去ってしまうイメージに近いぐらいのインパクトだと懸念する。

 特に自動車産業に依存度の高い中小製造業にとって、脅威は目の前に迫っている事を今の段階で是非意識してもらいたい。2000年代には大手テレビメーカーの進出に伴い、成形、板金、ハーネスや基板実装を手掛ける多くの日系協力工場が当時のティファナで共栄していたが、その急激な衰退で、自動車やメディカル産業などに上手くシフトできたところを除き、ほとんどが撤退、廃業してしまった…。その状況を現場で観てきた自分としては、同じ轍を日本の真骨頂である自動車産業では絶対に踏んでほしくない。
 勿論、どこに次の市場を求めるかは大きな課題だが、そのヒントは、このブログに今までもたくさん書いてきてたつもりだ。それが功を奏すか否かは、皆さんのこれからのアクション次第。とにかく自分の信念である:

「日本の製造/生産技術が世界で負けるわけがない」

は、間違いなく健在だし絶対に活かせるはずだと確信している。
 日本勢の自動車生産数が10年後、100分の1になってしまう事を前提として真剣に一考いただきたいと思う。


 

 

 

新しい製造業の時代が来る!

遅ればせながら新年あけましておめでとうございます。

さて、昨年はコロナ禍の中で世の中が激変した1年だった。人々のライフスタイルや仕事の環境、学校教育、グローバル社会の在り方等々、とにかく世の中全てのものが大きく変わるきっかけになった事は間違いない。勿論、普通なら今までの生活が大きく制限されたことで、ネガティブなイメージをもった方が大半だとは思うが、「コロナの影響によって世の中の全ての流れが10年は前倒しになった」という雑誌の記事を目にして「なるほど確かにその通りだ」と自分は考えた。
例えば、今まで通勤が当たり前だった働き方が激変しリモート中心になる、これは間違いなく将来の仕事のスタイルなのだが、5G等インフラの普及を待たず前倒しで実現を余儀なくされ、日本の場合、地価の格差を含めた首都圏中心の生活環境が激変するかもしれない。教育環境も今までの学区や通学という枠が不要になりオンラインが定着し、場所を問わず教育を受けることができたり、世界中の著名な学校や先生を選んで授業に参加する事もできるようになった。また旧態依然の変化の無い「学校」という概念も変わり、この先はGAFAのような大企業が世界中から生徒を集め、自社のMISSIONに基づいた時代の最先端の教育を施す「学校?」を設立する事も可能になってきた。本来なら、このような変革もインフラの構築などで、まだまだ先の話だと思っていたものが、必要に迫られ一挙に現実化してきた。遠隔治療やAIによる問診、ロボット技術が浸透してきた医療業界においても、状況は同じだろう。

 そしてこの流れは、製造業に大きな変化とチャンスを与えていることは間違いない。親友のITジャーナリスト湯川鶴章さんが彼のYUTUBE「原書10分解説」で紹介していた「 The Future is faster than you think 」の内容を聞いて、正にそうだと確信した。
 本の中身は、コロナの影響を前提としてはいないが、指数関数的に普及してくるAIとテクノロジーの融合、そして3Dプリンターのような機器の進化と普及による産業の大変革が急激に加速していくことが書かれている。
 例を挙げれば、シリコンバレーで日本人の女性CEOが率いるスタートアップ企業NFTが開発する「ASKA」のような空飛ぶ自動車が2030年迄には実用化されるという大胆な予測。そこに必要な効率の良いモーター開発、空力学的なドローン技術やセンサー技術、5Gに立脚した制御ネットワークの構築、軽量化と蓄電効率が向上した次世代バッテリーの劇的進化、耐久性や軽量化に必要な新素材の開発が、AIを駆使して加速し早期に現実のものとなり、10年後の空には、このような乗り物が飛び回っているかもしれない。この進化の速さは空飛ぶ自動車に限らず医療系でも顕著。コロナ禍の後押しあり、手術のみならず人手を介さない治療や新薬の開発も含めた領域で益々ロボット化や自動化が加速するだろう。 
 また注目の自動運転もEV駆動が中心となり、輸送やデリバリー、バス、タクシーなどの移動手段でスタンダードになる。そのための軽量化や耐久性のある新素材、駆動系もシンプルで機能性のあるものがどんどん開発されていくと思われ、そこに圧倒的な財源をもつAPPLEやAMAZON、急拡大のBAIDUやTENCENTといった中国勢の参入による競争激化で、そのスピードに拍車がかかるはずだ。
 そして、これからの産業の要となる電池業界も、現時点では夢物語の粋を出ていない全個体電池に於いて、やはりシリコンバレーにあるQUANTUM SCAPEのような精鋭によって量産化への動きが加速し、より安全性の高い軽量で高性能なものが続々と出現、これを軸としたモビリティやロボットが次々に誕生してくることは容易に想像できる。
 この劇的な変革の根底には先に触れたAI、特にDEEP LEARNINGを中心とした普及が大きく貢献していく。既に新素材開発では、同じくこの地にあるベンチャー企業ZYMERGEN(日本の大手も出資している)がAIによる分子や構造の組み合わせ解析により、新素材開発を加速度的に進化させている。このような新素材の需要は、軽量化や耐久性強化だけなく、環境への配慮のある素材も含め間違いなく増大し、それを利用したハードウェアの生産もどんどん世に出てくるであろう。
 
 ここまで書いてきた、これからの世の中の流れをみても分かるように、近未来の産業需要は、その多くが

製造(ものづくり)の領域

に関係するものばかりだ。特に新規開発品が多いので、それに伴う試作の需要は圧倒的にあると思われる。要は、ここにどうやって切り込んでいくかだが、上手く突破口を開けば、間違いなく日本勢も中国やアジア列強に負けないイニシアティブを獲れるはずだと確信している。

 自身の生業も、2000年代は未だ勢いのあったTV産業に支えられたものの、其の衰退とリーマンショックによる大打撃で辛酸をなめ、2010年代は堅調に推移した自動車産業によって何とかやってきたが、この先は脱炭素化、温暖化阻止に向けての化石燃料車の需要激減が明白になったので、自分としてはコロナで幕が開いた、この先の新たな製造業の時代に、その流れや動きに注視しながら市場のニーズをしっかりと掴んで日本の「ものづくり」を武器に奮闘していきたいと考えている。

 今年もご指導よろしくお願いします。



まだお宝は山のようにある!

少し前になるが、MISENというメーカーが自社で開発したフライパンのクラウドファンディングで1億円を集めたというニュースをみた。同社はまだ創業7年のスタートアップ。最初は包丁でデビューし同じくクラウドファンディングで2015年に1億円以上を集め、その売り上げによる資金で新規の調理器具の開発をしているようだ。誰もが使っている調理器具の市場に新規参入し、順調に業績を伸ばしている背景には、今まで一般家庭で普通に使われてきた調理器具にきっと誰もがもっているであろう使いにくさといった不満を上手く解析し、その部分にフォーカスしたR&Dと営業戦略を駆使しての成功だと思う。
 確かにアメリカに来て、今まで本当に使える包丁に出会ったことがなく、いつも日本から持参したものを使用してるし、食器やカトラリー、調理器具に関してもサイズ感や使用感を含めこれは凄い!と思ったものに出会ったことはなかった。

今回この会社がクラウドファンディングでこれだけ成功を収めた背景には、自分と同じような上述の経験をしている人が潜在的に多いというのもさることながら、コロナの影響で外食が減り、家で調理する機会が増えれば、調理器具や食器の使用頻度も増えるから、その使い勝手を意識する機会も増えている訳で、その中で日常使うものに対する不満が、彼らの業績を伸ばす要因になったのではないか?とも考えられる。

さて、上記の包丁がいい例だが、日本の包丁(もちろん無数のブランドがあるけど)は、伝統的に培われてきた刀鍛冶の技術や経験がその根底にあり、これが間違いなく圧倒的な高品質の要因として健在だと思う。そういう日本のメーカーが、なぜもっと海外で評価されないのだろう(既に評価されてるとは思う部分もあるが…)?と思うことがしばしばだ。
この新興メーカーは勿論、最新のマーケティングリサーチ技術と昨今トレンドになっているSNS広告や販売戦略を駆使して、このような成功を収めていると思うのだが、日本のメーカーにはまず確立された「高品質」というブランドが間違いなくあるので、同じような最新の戦法を使って、まだまだ世界に展開できるのではないか??と思うし、ある意味もったいないな。というのが正直な感想だ。
既に80年代から、まさに「グローバル」ブランドの包丁で日本より先に海外で受け入れられ業績を伸ばした吉田金属工業など成功例も沢山ある。そして、これは単に刃物に限らず、日本の優れた鋳造鍛造技術から作られる鍋やフライパンなどの調理器具やカトラリーなどに関してもしかりだと思う。特に最近の日本では中小製造業がこの分野でおもしろい。鋳造技術で密閉度の高い鍋を展開するドビーの「バーミューラ」などが好例。フライパンも最近では料理の仕上がりにフォーカスした重量のある鉄製に人気がある傾向で、鉄と言えば日本勢の中小製造業にとっては得意加工分野だし、上手く展開すれば新興国の富裕層や世界の料理通には、これから十分需要がありそうだ。

結果、何が言いたいかと言えば、まあ本当にうんざりするほど、ここでは訴えているが、まだまだ日本の製造業が作り出す製品は調理器具だけをとってみても:

「世界を獲れるお宝になる」

可能性が十分な製品が沢山あるという事だ。

 コロナになって、外出や外食がなくなり世界中の人たちが家で日常的に使用している調理器具に関して言えば、今まさに新たな需要を開拓できるチャンスかもしれない。

要は、毎回同じ話の繰り返しだが、海外市場に可能性を求め、それにフォーカスして真剣に取り組んでいく、グローバルに展開する意欲/志があるか?これが第一。それさえしっかり持ってやる気さえあれば、今の世の中、世界に展開できるマーケティングや営業ツールは安価で良いものが山のようにある。これらを駆使し、自社の技術や製品で、今までたどり着けなかった個人や企業のニーズを掘り起こすことも十分可能だろう。

 そんな事を、家にいることが普通になったコロナ禍の年末に考えてみた。いまのところ来年はどうなるのか?というのが自分にとっても一番の関心事だが、それ以上に激変しているマーケット状況だからこそ、そこに新たなチャンスを獲得できる可能性も間違いなく増えていると思うので、来年は自分自身もこのあたりの「ものづくり需要」を更にフォーカスしてみたいと考えている。
 
 それでは皆さん、素晴らしい新年を迎えてください!





自分がデジタル庁に期待する事

 少し時間が経ってしまったが、新しい菅政権が発足した。海外にいる自分としては、国内の状況は客観的にしか見ることはできないが、長期にわたり国をけん引してきた安倍政権を継承する政権運営を進めながらも、世界がこれだけ大きく変貌を遂げる中、その動きに注力しながら、よりグローバルな流れを意識した国政を進めてもらえればと期待している。

 そんな中、既に多方面でも話題になっているのが平井大臣率いるデジタル庁の設立だ。これは正直、間違いなく非常に大規模な改革のかじ取りを余儀なくされるのではないかと考える。大げさだが、包括的な見方からすればアナログ文化という旧態依然の慣れ切ったスタイル、そのぬるま湯にどっぷりと浸かった行政やインフラのすべてに改革を加えていく必要があるからだ。少し考えただけでも、デジタル流通経済のインフラ整備、マイナンバー制度の整備拡充。地方都市の膨大なアナログインフラの改革、金融のIT化などなど、挙げていけば本当にキリがない。ここにどう優先順位をつけ、企業や行政、自治体を巻き込みながら改革を断行していくかが、平井大臣を中心としたTEAMの手腕の見せ所だろう。世界的に見ても、このデジタル化が、物理的な人や物の交流が難しくなった今、ITやビッグデータを駆使、そしてAIを活用することによって唯一世界を救済する手段であり必要不可欠でもあるのだ。是非お手並み拝見できればと思うし、本当の意味でこれらの改革を実現できれば、日本は再び新たなアジアの電子立国としての地位を確立できるのではないか?と考えている。
  
 さて、この改革の流れの中で、「ものづくり」に拘わる自分としては、優先順位は低い(か、もしくは全く考えられてもいない??)かもしれないが、現状の下請け体質が未だ主流となっている中小製造業のインフラを含めたIT化にも、デジタルフォーメーションの推進を一挙に推し進め、経済産業省を中心に中小機構やJETRO、民間企業との連携と組織編成によって是非とも着手していただければと思っている。勿論、これらの実現には中小製造業を営む側も、しっかりとした意識と志を持って取り組んでもらう必要があるが、今後間違いなくグローバル展開を推進していくうえで不可欠になる部分だけに、将来的な生き残りを見据えながら、この分野では先陣を切って先を行く中国を中心としたアジア勢に屈しないためにも早期に取り組んでもらえればと思う。また、これによって今まで下請け体質が否めなかった中小製造業自身の新たに強化にもつながると思うのだ。

 あくまで自分の意見だが具体的には大きく3つのカテゴリーが考えられる。

 1.社内の体制においてデジタル化が可能な改革。
 2.ビジネスを進める上で必要なインフラのデジタル化の推奨や
   体系化。
 3.自社だけでは対応できない既存因習の改革(決済制度など)。

まず1.は社内バックオフィスのインフラや体制のデジタル化だ。勿論、この先も取引先との関係から着手できない部分もあるかと思うが、できる事も沢山あるはず。よく言われるハンコを電子署名にする、FAXによる注文書や業務資料の送受信をオンライン化する、社員管理のID化によるタイムカード等旧態依然のインフラの改革等。これらの改善が今後のビジネス展開の上では間違いなくスタンダードになるし強みになっていくだろう。

2.のビジネスインフラだが、例えば社内の工程管理をデジタルによって見える化し、工程の無駄を削減により競争力のある価格を実現する。また客先への見積もり対応も可能事例に基づくAI化によって瞬時に対応できるようにするなど、より競争力のある会社づくりに貢献するために必要なものだ。

3.の既存因習は端的に言ってしまえば手形決済などの中小町工場の財政圧迫要因になっている商習慣の改革だ。納品が終わっても2か月も3か月も現金化できない状況が、つなぎ融資などの不要な借り入れにつながり、社内の新規開発や新しい体制強化や改革に資金を投入できない枷になっていると思えてならない。またこの状況が効果を生まない補助金の温床になっている気がする。
 アメリカでは基本的に数千万の支払いでもNET30(30日以内現金)が主流。これにより中小町工場もスタートアップも資金繰りに余計な時間や気苦労を費やすことは少ない。
 昨今のFINTECHの隆盛により、新しい決済制度や海外送金など大幅に経費や時間を軽減できるサービスが個人だけでなく企業間決済でも沢山生まれている。
是非このようなところを精査し、確実なものを採用し制度化、もしくは推奨してほしい。

以上のような部分だが、自分としてデジタル庁には、このような改革を支援するための:

1.社内デジタルインフラ構築に特化した助成金の支給や専門の相談窓口の設置。
2.競争力をつけるために必要な社内インフラののデジタル化構築を可能にする
 システムや商品などの精査及び採用による制度化、またはアドバイス。
3.大手を中心とした企業にも連携を促し、手形制度などの廃止に向けた法整備
 やデジタル決済インフラの構築。
4.上記を実現するためのアドバイザーなどを有した中小製造業向けのデジタル化支援機関の設立。

等を是非手掛けていただきたい。そして、上記の組織編成には是非、日本全国(特に地方自治体においては地元)の若手IT企業等をフルに採用して、頭の固い行政でなく餅屋は餅屋に任せる感覚で進めてもらえればと思う。

 先に書いた目の前に山積した国の制度としてのインフラの構築や、新しいデジタルビジネスの新規創生等の優先順位から見れば低いかもしれないが、何度もここで訴えてきているように、世界や世の中の動きは待ったなし。そこにコロナ禍の影響で更に加速度がついた感がある状況を考えれば、日本の99%を占める中小企業、そして産業立国の礎を築いてきた中小製造業のデジタル化も是非、同じ尺度で併行して進めてもらえることに期待したい。そのインフラを確立することで、底力のある中小製造業にも、まだまだ世界に打って出る無数のチャンスが生まれてくるはずだと確信している。