今月の頭に帝国データバンクから現状の日本の中小を中心としたゾンビ企業の総数16.5万社というデータが発表された。ゾンビ企業、既に皆さん周知かと思うし、このBLOGでも10年近く前から折に触れて書いているが、端的に言えば、実際には経営破綻しているにもかかわらず、金融機関や政府機関の支援によって存続している企業・会社のことである。勿論、全ての業種の総数だが、この中で製造業の割合は20%と全体の5分の1で、その比率はかなり高い。データによればゾンビ企業が最も多かったのは2010年のリーマンショック後の2011年で約27万社。その当時に比べれば10万社の減だが2018年以降は増加を続け、2020年にいきなり前年比10%増加した。この先も増加は続くとレポートは見ている。
このゾンビ企業増加のタイミングが政府の行う金融補助政策の開始後に起こるというところが正直何とも悩ましいところだ。2010年以降ののリーマンショック救済の為の補助金の増額、また今回のコロナ対策給付金が、これら企業の増大を助長している。自分は製造業の分野で今まで多くの中小町工場のオーナー達や、それをサポートする行政の方々と会ってきた。そんな中、このような政府による金融政策を利用して、その有効活用により会社の復興を遂げたり業績を残してきた企業も多く見てきた。新人や若手従業員のモチベーション向上のための研修や新規社内プロジェクトに投資する、新規事業部の立ち上げと新たな事業参入に向けてのR&Dへの活用、そして自社製品の品質と性能向上のための新規設備投資等、このように用途が革新的イノベーションに流れる企業にとっては、この日本の救済制度は本当に素晴らしいものになっているだろう。
その反面、この補助金というシャブにどっぷりと浸かってしまい、金融サポートが無ければ生存できない会社の増加により、その有効性が単純に延命にのみ利用されているところも多くみてきた。特に問題なのは、この補助金従業員の給与補填に利用しているケースだ。当然、従業員に補填すると、その削減や解雇はしにくくなる。そのために受注を確保し続ける必要があるのだが、利益を度外視しても(従業員への給与に補填されているので)、受注を獲得してしまうケースが増えている。そうなると補助金に頼らず自立、もしくは健全な返済を実行している企業にとっては大きな迷惑だ。ゾンビ企業によって適正価格水準が崩壊し、本来できるはずの利益確保が難しくなってしまうからだ。この状況は本当に根が深い。正直このような状況の中で、国が提言している所得倍増など、とても考えられないのが現状ではないかと推察する。実際このような負の状況が、今回の16.5万社のうちの20%の製造業にも顕著にみられるようだ。
因みに、このゾンビ企業の内訳をみると従業員20人以下が全体の60%を占めるという。大分昔の話になるが町工場が集約する東京大田区より地場のものづくりに関するアドバイザーの依頼があった。その際、驚いたのは地場にある5,000社(当時)のうち4,000社は従業員が確か5名以下の零細企業だったという事だ。勿論、それなりの需要が確保できているから、この規模の会社が継続して生業を維持できているとは思ったのだが、間違いなくそれだけではない状況があった。このような環境の中からは、残念ながら革新的な転換や新規事業は生まれてこないのではないか?そう思って依頼をお断りした経緯がある。
ここシリコンバレーには、未だに1000社以上の切削、板金、成形加工など、ものづくり系町工場がひしめき合っている。 彼らのものづくりが、シリコンバレーから生まれる最先端のIT産業を下支えしている。以前から言っているがシリコンバレーは世界最大の一大製造拠点だ。これらの企業、リーマンショック前は裕に2000社以上あった。そこからの変遷の中で数は半数ぐらいになってしまったが、残った企業達は本当にハングリーで実力もあり、常に時代の先端に呼応した「ものづくり」を生業にしている。こちらには自分の知る限り彼らを救済する補助金等、明確なものは殆ど存在しない。時代の流れついて行けず、景気の状況によって力尽きたところは必然的に倒産だ。その倒産した企業の人材やアセットを、生き残った力のある町工場がハゲタカのように貪って、設備も二束三文で手に入れて、更にパワーアップし業績を伸ばして力をつけていく。そして、そこからまた実力のあるリーダーがスピンアウトして独立していくというエコシステムが成り立っている。この状況があるので、この地の製造業は常に新陳代謝をしながら時代を乗り切っているのだ。
日本でも同じような状況を見たことがある。自分の実家は神奈川県の座間市。かつて日産の巨大な工場があったところだ。カルロスゴーンが社長に就任し、採算の悪い工場が淘汰されることになり、座間工場もその対象になって閉鎖が決定。当時の新聞やメディアは「血も涙もない冷酷な外資社長の蛮行」とか従業員や協力工場の生活をどうするのだ!!と言った批判の声が相次いだが閉鎖は確定。実際に当時数百社あった協力工場も多くが淘汰された事も事実だ。ただ残った企業は自分たちの技術を武器に新たな市場開拓や、日産に特化(系列の不文律…)していた製品を他メーカーへ売り込んだりして、更にスケールアップしたところが沢山あった。勿論、関係性がある確証はないが、世界で初めてカーナビのバードビューを開発したザナヴィ インフォマティクス(確かクラリオンに合併吸収)は座間に拠点があったし、中国資本になってしまったが車載電池のオートモーティブエナジーサプライ(現エンビジョンAESC)は現在も同地で操業中だ。
要は、このようなゾンビ企業をこれ以上増やさない、また彼らが淘汰されていく事を金銭のバラマキ以外にどう食い止めるか?真剣に考えるべきタイミングが来ていると強く感じる。
更に拍車をかけるように、この先、間違いなく自動車産業の大淘汰時代がくる。そんな状況が現実化したら、また国や行政は国民の税金を使って新たな金融政策や給付金、補助金を始めるのか??? これでは何一つ過去のデータに学んでいない。もう少し他の対応も考えるべきだろう。例えば行政が中心になって地場の企業データベースを体系化し、現状、景気が絶好調な半導体設備、関連分野への製造品目転換の推進や業務の斡旋。大田区のように無数の小規模工場があるのであれば、業界の状況、特にかつては日本が世界を席巻していた電池産業、この先の宇宙産業や次世代モビリティ等に精通した目利きによるリサーチや今の若い感性のジェネレーション世代(高校生や大学生のZ世代が良い)の力を借りて、将来のハードウェア必要になりそうなシーズを持っている会社の掘り起こしを、まず国などが主導して提唱していく(各県にある高校や大学と連携などしてみるのも面白いと思う)等々、現状の製造品目から見た「ものづくり」企業の実態と実力の把握ができていれば、出来ることは山のようにあると感じる。まあ正直このような話は以前からこのBLOGでは再三訴えてきている事だが…。
先ほどから触れているが、今一番憂慮される将来の自動車産業、現状TOYOTAだけで中小町工場を中心に約6万社の協力工場がある。彼らをこの先、バラマキによる延命措置のみで新たなゾンビ企業にしないために、国や行政は金銭ではないソリューションの立案と実現に向けて今から動き出すべきではないかと強く思う。