Archive for 10/26/2012

ラーメンの話から新たに思った事

久しぶりに山下さんとお会いして酒を酌み交わしながら昨今のラーメン事情などのお話を伺った。山下さんはNIPPON TREND FOOD SERVICE, INCという製麺会社の代表だ。アメリカにおいてラーメンを中心とした麺類の普及と販売に全米中を飛び回っている。もともとはリンガーハットの対米進出の際に、その製麺部門のTOPとしてアメリカに赴任し、リンガーハット撤退の後、その工場を引き取って麺の製造販売を開始、今はどこの日本食マーケットにも置いてある山ちゃんラーメンのパックでも有名であり、最近目覚ましく増え続けているラーメン専門店へのオリジナル麺の供給も順調だ。業種は違うが起業家の大先輩でもある。そして個人的に自分がシリコンバレーでラーメン屋を始めた時に大変お世話になった。

今から9年前の2003年、私は日本のパートナーとともにシリコンバレーのサンノゼに新しい試みとしてラーメン専門店をオープンした。当時、本格的(風)なラーメン屋はシリコンバレーに1,2店しかなかった。その割にこちらに在住の日本人に聞くと10人中少なくとも8人が一番こちらで食べたいのはラーメンだという。そんな需要があるのに、なぜラーメン屋が少ないのだろう?まずはそのあたりのマーケティングからスタートした。色々と日本食のレストランを営むオーナーに聞くと、まずラーメンは「儲からない」という。当時すでに醤油豚骨という新しいムーブメントとともに日本でブレイクしていたラーメンだが、まずそのスープの材料となる食材の流通がない。日高産昆布だとか利尻産身欠き鰊など等、ラーメンのスープ作りには欠かせない材料は需要が少ない分、非常に高価だった。それで一生懸命ラーメンを作ったとしても日本人の感覚的にはラーメン一杯の値段はタクシーの初乗り料金とおなじイメージで、おまけに日本人はラーメンに関してはうんちくを語る輩が多いために、万人の舌に会う味だすのは到底難しいというのが理由であった。
なるほど自分で原価計算をしてみても日本の感覚でラーメンをこちらで作ると、原価で軽く初乗り料金のイメージである$6.90(当時)は超えてしまう勢い。これだったら一品2貫で瞬時に客先に出せる寿司、例えばハマチは2貫で当時$6ぐらい、原価は半額以下だし、何品も食べてもらえて客単価の高い寿司の方が確実にもうかる計算だ。しかしながら、きっと方策があるだろう、ということでリサーチを重ね、まず手掛けたのは、スープの材料をこちらで手に入るものに置き換えられないか?ということ。日本より安価で手に入るムール貝や肥料としての需要しかないエビの頭など色々なものを試した結果、だいぶコストを抑えることに成功、加えて日本人以外のアジア人も何とかターゲットにすべく、当時$3.50で食べることができたベトナムのPHOや中国の米粉、刀削麺など色々な麺も分析したりした。そんな時期に山下さんには本当にお世話になり、カスタムメイドの素晴らしい麺を作ることにも成功。開店したラーメン屋“HALU”は連日行列ができる繁盛店になった。自分は残念ながら本業との両立が難しく、また日本のオーナーとの展開に関する見解の相違から1年半で経営から手を引いてしまったが、ローカライズの重要性やリソースの現地化、コンスーマーを対象にしたマーケティングとコストの設定を含め貴重な経験と学習をすることができた。そして、これらは自分の本業であった製造業の対米進出の際に必要不可欠であるリサーチとマーケティング、ローカライズとコストの設定など、ほとんど同じ感じというのが自分にとっての結論だった。

あれから9年、ラーメンは地位を確立し、アジア人を中心としたアメリカ人の間に完全に定着した。いまではシリコンバレーだけで10店舗以上、繁盛店は多店舗展開にも成功し現在も参入が相次いでいる。もちろんその舞台裏には、麺というラーメンの命ともいうべき部分でしっかりR&Dを行い、そのマーケティングに全身全霊を注いできた山下さんの功績は大きい。
加えて、もう一つの大きな功績は、ラーメンを価格の面でも独自の地位として定着させたことだ。今ラーメンの単価は大体$8.50.中国製の麺類やベトナムのPHOに比べればはるかに高いのだが「ラーメンとはそういう食べ物だ」という地位をしっかり確立している。これは素晴らしいことだ。同じ麺類の中でもラーメンは別格であるということをアジア人が中心ではあるがアメリカにしっかりと根付かせたことによって、私が当時苦労したような原価の軽減にあまり神経質にならずとも、ビジネスを展開できる土壌ができているわけだ。そのラーメン屋向けの麺を販売している山下さんにとっては、まさに大成功のマーケティングだったと思う。そしてある意味ラーメンを通じてだが日本の食文化のグローバル化にも多大な貢献をしている点、本当に素晴らしいと思う。
考えてみれば単純にアメリカ国内において価格競争に翻弄され敗北しているTVを中心とした日本の製造業において、この状況は、もしかしたら新しいヒントになるような気がした。そうでなくとも「ものつくり」というブランド(?)に固執している日本の中小企業においては、正直なところ大半は「ものつくり」の呪縛に縛られているだけだと思うのだが、本当の意味で優れたもの開発し作ることができれば、その製品(技術)は地道なマーケティングとPRによって価格競争に翻弄される事なく、しっかりとした地位を確保できるのではないか考えた次第である。そして、それこそが今の日本の中小企業に求められるイノベーションであるような気がする。勿論そのためには、その技術(製品)を知らしめるためのインフラ(最近ではエコシステム?)が必要になると思うのだが、私としては今までの経験を生かして、何とかそのインフラの一端を担うことによって、このBLOGのテーマでもある日本の中小企業のアメリカ進出をより強力にバックアップできればと、山下さんとの話の中で、さらに強く思った次第である。

P.S. 山下さん、有難うございました!

 

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