Archive for 11/28/2024

もう見たくない日本ブランドの終焉

 今回の日本出張で、ちょっと目についたのは中国のEVメーカーBYDのテレビCMだ。ご存じの通り日本のメディアの大手スポンサーといえば自動車メーカーで、当然、彼らへの配慮からか日本のTV番組では、あまり海外の自動車メーカーの情報やら新しいモビリティ産業、特に新興国の動きなどは殆どメディアに出てこない。そんな中、BYDが日本のメディアのスポンサーとして登場している事は、かなり興味深かった。同時にラジオ放送で偶然BYD JAPAN社長のインタビューを聴いたのだが、CMが功を奏し同社には現在1日200件ぐらいの問い合わせがあるという。そしてバスといえば、三菱ふそうや、いすゞ、日野自動車が主流と思っていたが大手バス会社の副社長を務める友人からも、現在BYDの業務用バスの検討を始めていて近く実証デモをするとの話を聞いた。EVである事、そして価格は現状の3割安との事で安全性さえ確保できていれば十分検討に値するという。彼の会社も老舗のバス会社だけに生き残りをかけての社内改革を実践しており、そこには昔からの付き合いや培ってきた信頼性という繋がりはもう過去の事になっている現状があるようだ。この先、このような市場の変化に呼応してBYDに限らず今SDVで存在を増しつつあるシャオミをはじめとした中国勢、そして世界中のEV各社が今後は日本ブランドの牙城に攻勢をかけてくることは容易に想像できる。

 このBLOGには何度も書いているが、自分は当時メインで携わっていた1990年代まで間違いなく世界で牙城を築いていた日本のTV産業の崩壊を現場で目の当たりにしてきた。1990年代といえば未だブラウン管が主流で、独自のトリニトロン方式を武器にTVのみならずPC用のディスプレイでも世界をリードしていたSONYは、当時アメリカに近接するメキシコに従業員2,000人規模の工場を3つ構え、フル稼働で生産をしていた。またPANASONICやTOSHIBA、SHARP、三菱も同地に工場を構えTVを生産。日系だけで年間1,000万台の生産規模を誇り当時のアメリカにおける市場シェアは40%を超えていた。これがTVの革命でもあった液晶化が始まりTV自身も方式がデジタル化した2000年代に入った途端、わずか5年でLG、サムスンといった韓国勢や中国のHISENSE等、新興メーカーに凌駕され、あっという間に消え去ってしまった。
 今でも覚えているが、確か2005年にSAMSUNGが最初に$600で40”の液晶TVを販売した時(当時SONYのBRAVIAは同じ40”で$1,000以上)、SONYの幹部に「サムスンいきなり凄いですね!この先どうでしょう?」と聞いたところ「いやあ、こういう事されると市場価格が下がっちゃうから迷惑なんだよね。でもうちはブランドも市場もあるし大丈夫でしょ!」と暢気な回答。その後3年もしないうちに同社はメキシコにある2工場を閉鎖に追い込まれ、最後に残ったメインの工場も2010年にFOXCONNに売却して終焉。SHARPをはじめ、他のTV大手も同じ末路をたどっていった。

 今回のBYDの攻勢をみて、正直、TV産業で自分が体験したことが自動車業界でも起きそうな気がしてならない。確かに日本をはじめ世界で確固たる地位を占めている日本の自動車メーカーだが、その地位は果たして、そんなにゆるぎないものなのか?特に自動車とは縁遠くなっている感のあるZ世代の若者たちにとって日本ブランドの自動車は価値のあるものなのか?
 日本のTV産業の崩壊時の2000年代後半に、もう一つエピソードがある。アメリカ在住の自分の同世代の友人宅でTVの買い替えを検討。彼は奥様も生粋の日本人で、日本の民生機器の大会社での勤務経験もあり、せっかく買い替えるのなら日本ブランド!という事で、当時は未だブランド力のあったシャープのAQUOSを購入して自慢げに家に配達してもらったところ、2人の娘たちから「なんでサムスンじゃないの???」と罵倒されたそうだ。実際のところ、日本のブランド力というのは我々が思っている以上に脆いものなのだという事を自分自身も体験してきたが故に、この話を聞いて気持ちは本当に複雑だった事を思い出す。
 
 1980年代の終わりにアメリカに渡った自分は、アメリカ国内での出張で宿泊するホテルの部屋にある電化製品がTVはSONY,ドライヤーはSANYO,電話機はPANASONICと、ことごとく日本製品だったことが本当に誇らしかったが、昨今のホテルの部屋で日本ブランドの品々は残念ながら見たことが無い。当時、降り発つ空港の多くに設置されていた離発着を表示するディスプレイも殆どが日本製だった事は、今の若い世代は知る由もないだろう。
 正直なところ最後の牙城である日本の自動車産業も同じような終焉を迎えてしまう状況だけは見たくないのが今の本音である。

私的スタートアップ考

 CEOとの前職からの関係で昨年の創業当初から応援してきた全個体電池のスタートアップ「LASAGNA ONE」が、シリーズAで$16Mの資金調達をクローズ!素晴らしい!
業界の第一人者だった若手CEOとパートナーが中心となり、$3Mのシード調達から少人数体制での製品開発と限られた設備でのプロトタイプ製造にがむしゃらに取り組み、創業わずか1年で同製品の最大手QUANTUMSCAPEが、あれだけ巨額の開発費をかけても未だに完成できていないと言われる性能に特化した試作品を完成させたことで今回の調達につながった。もちろん正念場はこれから。ますます加速する市場の要求に呼応した製品開発とプリプロダクションのプロセス構築、そして資金力を持つ大手を中心とした競合他社のとのし烈な戦い等、DEEPテック分野ならではの苦労も多いかと思うけど、彼らのパッションとバイタリティがあれば必ず実現できると思う。これからが本当に楽しみだし、資金面では無理なので^^;;、プロセス構築の分野で、これからも全面協力していきたい。

 さて今でも昨今のスタートアップ企業と、こちらで会う機会もあり、もちろん自分の分野以外だったり知識不足も大きく影響していると思うけど、正直、起業の要であるミッションも不明瞭で、どこにゴールがあるのかも分からないところが多く、最初から行政の支援制度への依存体質が見えたりもして、勿論あくまでも自分の主観だけど、話を聞いていて「おおお~面白い!」と身を乗り出してしまうような会社は皆無で全然ワクワクしないケースが殆ど。ユニコーン企業になろうとか世の中のインフラを変えてやろうとかスケールと野望の大きなところも殆どない。そんな中、本当に凄いと思ったのは、自分の中では、高野君率いるDG TAKANOと、このLASAGNA ONEぐらい。彼らは、製品コンセプトのインパクトも凄いが、その実現のため行政の力や支援に頼ることなく本当に自分達の志と情熱で資金も調達しガリガリに製品開発に邁進している。これこそが本当のスタートアップの姿ではないか? もちろん、創業者として「数億円稼げて、CEOの名刺持って、ある程度うまくいったら、どこかに買ってもらって、ちょっと有名になれればよい!」というミッションのスタートアップ企業であれば、それもありだろう。ただ、それが大勢を占めるような状況はどうなのかな??またそのようなスタートアップを国が支援してもメリットあるのかな?

 今の「スタートアップ」がバズワードになってしまった状況、そして、そのバズワードが先行して金が集まりやすくなっている彼らを取り巻く環境からは、どう転んでも世の中をひっくり返すようなスタートアップは生まれてきそうもないと、ロートルになった自分には思えてしまう。なので、先ずは上述のLASAGNA ONEやDG TAKANOが大成功を収めることによって、真のㇲタートアップの姿を見せてもらうことを願って止まない。