Archive for 02/12/2024

新しい自動車産業の行方はいかに?

 1月後半から日本へ出張し、自分の生業のメインである電子基板実装業界とオートモーティブ関連の展示会を視察。もう10年以上前からこのBLOGや講演会などで自分の経験談として繰り返し伝えていることだが、展示会で感じた事と経験談のおさらいを兼ねて思ったことをまとめてみた。
 1980年代、コンピューターが一般に普及し始めた時代に一番需要のあったメモリーの生産に特化した日本勢は日立やNEC,富士通など他国の追従を許さず世界でトップシェアを維持。当時の半導体生産ではベストテンに7社(だったと思う)が入る勢いだったが、90年代に入り、PCの根幹であるCPUをインテル、OSをマイクロソフトに奪われ、量産で価格が低下したメモリーはSAMSUNGを中心とした韓国勢の猛攻に根こそぎ市場を奪われ敗退。
*自分の元いた会社は、その影響で1986年は確かボーナス無しT_T

 1990年代、日本が開発した移動体通信方式のMOVAを世界標準にしようと目論むNTTと、そのデバイスを生産する日本の大手家電メーカーは、アメリカに大工場を作り量産体制を整えたが、アメリカはクォルコムのCDMAを標準規格としたため日本勢は撤退。ただ新しいI-MODEの普及で日本メーカーは作れば作るだけ需要のあったガラケーの量産に特化しているうちに、OSをiOSとアンドロイドに駆逐され、加えて新たなサブスクモデルの課金体制で端末は誰が作ったものでも利用可能になってハードを低価格で供給可能になった中国勢、韓国勢にボロボロにされて端末分野も敗退。
 *駐在員時代、これら日系メーカーの工場進出を手伝っていた影響でアメリカ現法は大打撃T_T

 2000年代、それまでアメリカでのシェア40%をはじめ、世界のTV市場で追従を許さなかった日本のTVメーカーはデジタル技術の普及によってアナログのブラウン管TVからデジタルの液晶TVへの大変革が起こり、液晶パネルの値段がTV価格の80%となった事で、日本の技術をパクったSAMSUNGや台湾のチーメイ(現FOXCONN)の低価格競争に追従できずパネルを生産していたPANASONICやSHARPは、あっけなく敗退。その状況から2010年代前半には殆どのTVメーカーが消滅してしまった。
 *当時これら日系TVメーカーの売り上げが60%。おまけにリーマンショックでボコボコにされ弊社は倒産寸前まで追い込まれるT_T   


 そして2010年代の後半から胎動の如く加速してきたEV革命。その中で果たして日本の最後の牙城である自動車産業は生き残れるのだろうか??自動車も化石燃料主体がゆえにその複雑なエンジン構造の製造技術から、低燃費、そして安全性の確保で世界を席巻してきた日本の自動車産業だが、エンジンやミッション、車軸も不要のEVにおいては唯一イニシアディブを取れるモーター(これは基本的にEVメーカー各社が独自開発)と、現時点ではEV本体の価格の70%を占める搭載電池の確保(高性能の電池を生産できるメーカーからの購入が基本となると思う)が中心となる中で、今まで上記のメモリー、携帯、TVと同じくハードウェアの生産で隆盛してきた日本の家電メーカーと、どう考えても同じ状況の中、日本の自動車メーカーが、どれだけ市場を維持できるのか? 
 幸いなことに自動車メーカーではないが、車載電池では未だ君臨しているPANASONICは唯一の希望の星。同社が昨年、車載電装品部門を売却したことも、この先、車載電装品に関してはセンサーやスイッチなど特化した技術も不要で誰でも作れる時代の動きに対応し(自分的に上記のような教訓から学んだと良い方向に解釈している)主力である電池にフォーカスする方向性を定めた事は素晴らしい英断だと思うが、果してTOYOTA、日産、ホンダやスズキをはじめ、各自動車メーカーはどうやって今までの生産規模を維持していくのだろう?既に電池とモーターだけでなく、車載OSもiOSとアンドロイドが基準になっていく中、新たにイニシアティブをとれる部分があるのか??
今回の展示会では、これらの解を少しでも見つけられればと思ったのだが、自分の目線では残念ながら日本勢がこの先のEV分野でイニシアティブを取り市場を確保できる製品や技術を見つけることができなかったのが何とも寂しい思いだった。勿論、まだまだEVに欠かせない日本独自の技術や部材等たくさんあると思うので、この分野で何か凄いものがあれば是非、情報いただければと思うし、それらを有する企業には既存のエンドユーザーに限らず、その技術や部材を武器に世界のEVメーカーに是非攻勢をかけてほしいと思う。