製造を辞めると色々ダメになる…。

少し古い話になってしまったが6月に日本へ出張し開催されていたJPCAショウを見学してきた。この展示会はプリント基板、および実装に関する展示会で自分の業界であったことから早いもので30年近く毎年欠かさず足を延ばしている。
正直なところ、2009年のリーマンショック以降、このショウの規模は年々縮小。そして昨年あたりから日本のメーカーだけでなく、韓国、中国、台湾メーカーの出展が非常に顕著になってきている。特に今年は、その印象が非常に強かった。
1980年代、TVを中心とした家電製品において大量生産を実現していた日本企業の勢いは凄まじいものがあり軽く世界を席巻していたと思う。そうした生産をささえていた生産技術、製造技術、そしてそれをサポートする品質管理技術は大量生産のおかげで、これまた世界最高峰の技術を誇っていたし、それをつかさどる生産設備も日本製が完全に世界のデファクトスタンダードだった。
その当時、日本に追いつくことが目標だった韓国勢は、その技術をどんな手を利用しても習得することがまさに死活問題であり、自分が働いていた検査機器メーカーにも「部材と人件費の安い(当時)韓国でノックダウン生産をしませんか?」というアプローチでその触手が近づいてきた。結局自分のいた会社はその話に乗って全てをむしり取られる結果になってしまうのだが、このプロジェクトの責任者として(まだ20代の若造だったけど…)1986年と87年に韓国のサムスンの総本山である水原にあった生産技術研究所に常駐していた自分が目にしていたのは、日本の実装機や半田槽、検査機等にアリのように群がってリバースエンジニアリングをしていた、大学を出たばかりの兵役を免除されるほど秀才の若いエンジニアたちだった…。
その後、韓国勢は、このサムスンに限らずLG,HYUNDAI共々、自分たちの生産設備は自分達で開発し、それを使用することにって設備投資を抑え、タイムリーに優れた商品を開発して世界の市場を席巻していった。正直なところ、これらメーカーに限らず韓国、台湾製の生産設備、特に検査機は今回の展示会でも多数出品されていたのだが残念ながらどれも秀逸、特に自分の専門分野である検査機(画像処理)に関して言えば、かつては市場を凌駕していたにもかかわらず今や生産を縮小してしまったOMRONやPANASONIC製より、その運用性やソフトのアルゴリズムに関していえば明らかに彼らの製品のほうが優れていると言わざるを得ない感じだった。

なぜこうなったのだろう??それは非常に単純だ。少なくとも今の時点で世界最高峰の実装技術を駆使して製品の量産をしているのは正に、この両国プラス中国だ。製造技術、生産技術、品質管理技術というのは量産工程において、いかに歩留まりを少なく効率よく費用対効果を高めて高品質の製品を作り上げるかに依存しているといっても過言ではない。
そして今の膨大な容量のソフトウェアーの手足となり、それを確実に動かしていくハードウェアの進化も凄い勢いで進んでいる。簡単な例でいえばスマートフォンの中に入っている回路は、かつてのPCマザーボードより高機能だ。つまりPCに使われていたマザーボードサイズの基板の機能が今はスマートフォンサイズにおさめられている。勿論、昨今のモジュール化(ICに機能をまとめること)は非常に大きなポイントではあるが、モジュール化できない回路がスマートフォンサイズに凝縮されているわけだ。これを確実に実装する技術、具体的にいえば0.4mmのピッチの数百のパターンに半田を乗せ、それにデバイスを搭載して、そのピッチ間をショートさせずに自動で溶着させる、それも一日に1万個の単位で不良なく、これらを生産する技術。こういうプロセスに投入され切磋琢磨されることによって、より精錬された設備が完成していく。この客先の要求にかなう仕様を日々の鍛錬によって高めている韓国、台湾の生産設備はこの先もより洗練されたものになっていくとおもわれるが、既に量産工程のほとんどを海外に移転、もしくは辞めてしまった日本の環境では、もう残念ながらこのような優れた製品は生まれてこないのでは(勿論、POPやMCMといった超高密度実装に伴う技術はまだ日本がイニシアティブをとっている可能性はあるのだが…)?と考えざるを得ないのかもしれない…。
そして、この状況は生産設備だけにとどまらない。自分の商材でもあるクリーンルームや静電気対策に使用する資材なども、かつては日本製が殆どだったのだが、最近では、韓国、中国製にだいぶ席巻されている。彼ら協力工場が生産するそれらの品質も、量産工程に見合うレベルにどんどん進化しているのだ。また生産に必要な材料自身もしかり。自分の取引先である、LCDパネルに使用するフィルムの加工しているメーカーでは、最近、納品先の要求で日本製ではなく韓国製の安いフィルムに供給元を切り替えさせられたと話していた…。そういう日本以外のベンダーも同じように量産工程に追従しながら進化と遂げているわけだ…。果たしてこのあたりの挽回が、この先、日本で起こりうるであろうか???

というわけで何が言いたいかというと(最近このフレーズ多いです…^^;)、このような量産工程を辞めてしまった日本の大手メーカーについていったら自分たちの技術や製品までも世界の需要からは程遠いものになってしまうのではないか???という認識を是非、協力工場、しいて言えば中小町工場の皆さんには持ってもらいたいと思うのだ。勿論、半導体業界でいえばDISCOやアドバンテストなど最初から世界市場をターゲットに日々切磋琢磨している会社も多い。できればこのような会社と同じような意識と視点をグローバルにもって、これからを考えてもらえればと思う次第である。

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