安心というマーケティング(イメージ)戦略の代償

 少し時間が経ってしまったが久しぶりのテキサス出張。最近はあまり遠くへ行かなくなってしまったのだが、かつては自動車電装品メーカーを追いかけて頻繁に中西部にも出張していた。日系企業といってもメキシコのティファナやレイノサのように一か所に複数の企業があるという事は珍しく、ほとんどの場合、たとえば最寄りの空港から車で片道3時間のところにポツンと一社だけあるようなパターンが多いので非常に効率が悪い。ただ、カリフォルニアでは殆ど見れないような風景を眺めたり、いつまでも続く牧草地の中のドライブも当時は気に入っていた(勿論客先で注文がいただければそれが一番だけど…)。で、それより何よりいつも期待していたのは、そんな中西部で今まで出会ったことのないようなレシピやソースで味付けされたBBQや郷土料理に出会うことだった。最初のうちは本当にそれが楽しみで楽しみで、当時(もう15年ぐらい前?)はインターネットなどなかったから、まずホテルに着くと受付嬢に聞いてみたり、イエローページで必死に探したりして、おいしそうな店を見つけると喜び勇んで出向いていった。ところが残念ながら、ほとんどの場合、その期待は裏切られた。アラバマではホテルの受付嬢が太鼓判を押したBBQ専門店に行って、ぱさぱさの肉の塊がサーブされたので「ソースはないのか?」と聞いたらA-1ソースを持ってこられた。またインディアナポリスの郊外の町では、味の濃いBBQリブの付け合わせが食パンだった。そんなことが本当に多かった。その都度期待に胸ふくらませていた分、失望感も大きく、ついついビールの本数が増えてしまった事を思いだす。なぜかなあ?色々考えてわかった事。それは人の流通が少ないということだ。ちろん、メンフィスやシンシナチ、ナッシュビルといった大都会は別だが、自分の行くのは本当の地方都市、殆ど人の流通がない(と思われる)。なので、味が進化する必要がないわけだ。いつも来るお客さんは同じ顔ぶれ。そしてその顔ぶれが満足してくれる料理をサーブしていれば、それでいいのである。
 このような感じで何度も何度もショックを受けていると必然的にそのような冒険をすることはなくなり、どこへ行っても無難なチェーン店に足を運んでしまう。それは少なくとも味の良し悪しではなく間違いないという安心があるからに他ならない。少なくともがっかりすることは避けられるわけだ。このような安心というマーケティング戦略は勿論、チェーン展開をしている大手レストランであればどこでも意識しているだろう。
 かつて読んだロバート清崎の「金持ち父さん、貧乏父さん」の中に彼が講演の際、聴衆に「マクドナルドのハンバーガーより美味しいハンバーガーを作れる人手を上げて」というと殆どの人が手を上げるが、その聴衆に対して「それでは何でハンバーガーショップをはじめないの?」と、問いかける一節がある。このあと彼はマクドナルドのマーケティング戦略が如何に優れているかを説明してマーケティングの重要性を説くのだが、味以上に安心というところに趣を置いたその戦略の凄さに(自分はそうだと思うのであるが)、いやあやられた~と思いながらも、田舎町のマクドナルドでハンバーガーをほおばっていた自分を思い出してしまった。
 話はいきなり変わるが、昨今のTOYOTAバッシング(あえてそう言わせてもらおう)について考えてみた。TOYOTA車を選ぶ多くのアメリカ人は、その性能がいいことや燃費がいいことに加えて、故障が少ないという安心感から同社を選んでいたと思う。しかしながら今回の問題は残念ながらその一番肝要な部分を大きく損ねる結果になってしまった。これは非常に重大なことだ。そしてその回復には莫大な費用と時間を費やさなければならない。かつてJACK IN THE BOXがO157の食中毒問題をおこし死亡者まで出してしまったとき、同社の社長はテレビのCMに自ら出演し、その事実を認め謝罪すると共に今後は徹底した衛生管理をおこない、2度とこのような問題を起こさないと宣言した(というCMだったと記憶している)。そのくらいの真摯な姿勢を見せることがアメリカの国民を納得させるためには必要だ。同じようにSEXスキャンダルを起こしたクリントン大統領も、自らTVでその事実を認め、謝罪した。その潔い姿勢を国民は容認はしないまでも理解はしていたと思う。そのくらい思い切ったことがTOYOTAにも必要ではないかと思う。少なくともアメリカでこれだけ成功した会社なのだから、その安心という最需要点を失いつつある今こそ社長自らがTV上で謝罪するぐらいの姿勢を見せることが肝要だということをTOYOTAのマーケティング陣営は理解すべきだ。そうでなくとも、このような状況の中、KIAやHYNDAIといった韓国勢は確実に信頼と業績を伸ばして日系自動車メーカーが40年かけて築いてきたアメリカでの地位をわずか10年で切り崩そうとしている。そう考えると、これはTOYOTAという範疇をこえ日本の輸出産業にも大きく影響するということのみならず日本政府も国の威信と産業に影響を及ぼしかねないということを真剣に考慮し何らかのサポートをすべきではないかと思ってしまう。
 確かに安心というマーケティングの上に築かれた信頼は、その上に胡坐をかいてもいいくらいものすごい効力があるのだが、逆に一度損ねるとその代償は一国の存亡にも影響するくらい本当に深刻なものとなることを認識すべきだということを過去に感じたマクドナルドの安心というマーケティング戦略の思い出からはずいぶん横に斜めにそれて大きな話になってしまったが自分も真面目に考えてしまった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です